再会

最近寒くなってきたと感じる僕は、13年続けているピアノの練習を終え、帰路についていた。

 

「ふーけいが揺らいでくーずれてく くーずれてはーただーよってさ…


自分の好きな曲を誰もいないと思い込み、気ままに歌う。こんなにすてきなことはないと思う。

毎回通り抜けて帰る古びた公園に差し掛かったときだった。ベンチに二人組のカップルが座っていた。何も喋らず無言でスマホを見つめ、二人してポケットに手を突っ込んで寄り添うように座っている。その空間だけが違う世界のようで、誰も寄せ付けないような雰囲気が二人に漂っていた。

僕は歌っていたままだったので、それに気づいた彼女らしき方と目があってしまった。


「...オオシタ?」

「…え?」


自分の名前が呼ばれたことに気づくまで、数秒かかってしまった。見ず知らずの人に名前を呼ばれたのだから無理もないだろう。


いや、どこかで見たような…


「リンザキ!? その人だれ!?」彼氏らしき人がリンザキに尋ねる。彼はなぜかすごく目を見張っていた。とても驚いているようだ。

あれ?リンザキってどこかで…


「ああっ!小学校のときの!」


「リンザキ知ってるの!?なんで?」こちらに構う様子もなく、彼氏らしき方が彼女に尋ねる

「うーん。なんか、記憶にあったみたい」


一分後


「すみませんお騒がせしてしまって」

「いえいえこちらこそ」

久しぶりに旧友に会えて嬉しかったのかわからないが、自然と僕はリンザキたちと話すことに思考が動いていた。

「とりあえず座りましょうか」僕が提案すると、彼らはうなずいた。

僕は彼の隣に座らせてもらう。幸いにもベンチは三人分の余裕があった。


「リンザキと知り合いなんですか?」

「はい。小学校が一緒でした」

「なるほど。僕はカテツと言います。高校二年生でリンザキとお付き合いをしています。」

「ご丁寧にありがとうございます。僕はオオシタと言います。同い年ですね...

カテツさん、タメ語で話しませんか?」


「そうだね、そうしよう。」


「それで、リンザキがどうかしたの?」

いままでぼーっとしていたリンザキが、急にカテツと目を合わせた。カテツがうなずいたかと思ったら今度はこちらを向いて言う。

「私ね、記憶喪失になっちゃったらしいの」


「え…?」


え?......どう言うこと?




「僕から説明しよう。リンザキはね、二ヶ月前のひき逃げ事故で怪我をしたんだ。で、なんとか一命は取り留めたんだけど、起きたら記憶喪失になってたってわけ」

「本当に!?大丈夫なの?」

「外傷とかはもう完治したんだけどね。やっぱり事故当時の脳へのダメージが大きくてね。

この状態になってしまったんだ」


「そう、それでカテツのことは回復してから教えてもらったの。前の私、こんな人が好きだったのね。ちょっと不思議。だけどわたしは今もカテツのことが好き」

……僕はすこし胸がチクリとしたが気にしない

とはいえ、記憶を無くしたなんて大変だっただろう。


「そうそう。でもびっくりしたよ」カテツが言う。

「というと?」

「なぜか君の名前をリンザキが覚えてたんだ」

確かに、よくよく考えてみると不思議なことだ。普通は記憶喪失になったのなら何も覚えてはいないはずだ。なのに、リンザキが僕の名前を呼んだ。

「不思議だね…」

「でも、記憶からでてきたの」」リンザキがまた急に反応した。

いまひとつ掴みにくいと感じた性格は、昔と少し変わった気がする。

「それで、カテツはこれからどうするつもりなの?」

「リンザキのこと?」

「そう」


ヴヴーッ

僕のスマホが鳴った。どうやら親からLINEが来たらしい。

「ごめん。そろそろ帰らないといけないっぽい」

「そうか、わかった」カテツがうなずく。

「じゃあ帰るよ。それとLINE繋ごうよ」

「いいよ」


カテツと、ついでにリンザキともLINEを繋いでから僕は二人と別れた。

今日はいい日になったと思う。リンザキが記憶喪失になっていたのは流石にびっくりしたけど。

それと、彼氏ができていたのも結構堪えた

けど、それでも、初恋の人とLINEを繋げられた。嬉しいな


そう、初恋の人と、

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