年の瀬から始まる記憶巡り

@kou_heisi29

すべてのはじまり

暑くうだるような夏が終わり、だんだん涼しくなってきて、人間にはちょうど良い季節となる9月。リンザキは放課後の部活を終え、少し暗い中帰路に就いていた。


(後輩は言うことを聞かないし、課題曲は上達しない、なかなかうまくいかないな…)


高校二年生になって早くも6ヶ月。三年生が受験のため引退したので、二年生が中心となって部活を進行することとなった。しかし一年生の中には楽器未経験者も少なからずいるので、二年生は教えるのに毎回四苦八苦していた。さらにもうすぐ文化祭なので、部活中はピリピリした雰囲気だった。


(最近カテツともリアルで会えていないし、会いたいなー...LINE来てるかな?)


カテツと出会ったのは1年半前。クラスも違うのに急に告白され、最初は戸惑ったものの付き合ってみると普通に良い人だった。


(まあ、オンオフの差が激しすぎて本当に同じ人間なのか半信半疑になったこともあったけれど…)


(あっ!LINE来てる!けど今日も通話はできないか…)


カテツは生徒会に所属していて、役職は会計を担っているらしい。文化祭も近いので、毎日忙しいそうだ。




奏楽部で、自分が担当する少し特殊な形をしたホルンケースを抱えながら、家に向かって歩いていく。



家のすぐ手前の少し大きな交差点に差し掛かったときだった...


(え? あれ? )


歩行者信号は青なのに一向に止まらない黒いワンボックスカーが一台。

全身が硬直して動けなくなる。運転手のまさに鬼のような血相が見えた瞬間、高く悲鳴のようなブレーキ音と共にふわりと体が飛んで…

その他の莫大な情報を脳で変換する間もなく、私は意識を無くした。

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