突入してくるいとこ(6)

「え?知らないの?」

 スイカは思わず反問した。それからユミリは武装科ではないのを思い出した。


(ラフェル家のお嬢様だから、てっきり武装学園通うって思い込んでた。)




「知らないですけど。」


「執行課とはね、国家参与の私立対テロ機関。RPG世界のギルドみたいな組織で、身分問わず、能力を認証されたら【執行者】(イグゼキュター)として登録できる。その後は依頼、つまりクエストを受けられる。クリアできたら報酬ある。それに【執行者】のランク、通称ERも上がる。」


 スイカは説明しながらスマホで『執行課、しっこうか、執行者、しっこうしゃ、イグゼキュター、executor』を入力してユミリに見せる。


「でも、対テロというのは、テロリストのことですよね?それは警察の仕事ではありませんか?」


「【超能力技術】の現れと共に、超能力犯罪も頻繁で、警察だけじゃ足りないのそれに行動許可などで時間が無駄になっちゃうし。効率低いのよ。しかも時々政治的な力に阻まれて、最初から行動出来ない状況もある。まぁまぁ、公式的にはこんな話だけど、犯罪率は高くない。」


「あっ、はい。」


 ユミリが来たばかりで誘拐犯に2回も会ったから、そう言っても説得力なさそう。でもスイカのことが好きだから、ユミリは迷わずに信じた。



「実際は万事屋のようなものだね、対テロっていうけど。色々な依頼がある、行方不明になった人を探すとか。レベル高いのも資料を奪うなとか、法律の灰色領域なんだ。」


「すごいです!スイカちょん!スパイみたいですね!」


「いや、別に。武装学園の生徒は全員やってるよ。学期末の学力評価には執行者としての履歴が必要だから。私から見ると、こういう組織が存在する理由はやはり武装学園の生徒達のためでしょ。学園はそれぞれ研究する技術あって、能力の評価標準も異なる。全国統一の指標のために、国家は執行課という組織を作ったんじゃないかって。まぁ、以上は私の推測だけ。」


「えらいですよ!ヒーロー映画みたいです!」

 ユミリはあんぐりとした。



「つまり政府、執行課、武装学園三者がお互いを監督して日本の安定を保ってるのだ。」

 和祁は補充した。


「そうですか。」

 ユミリはちゃんと彼に応じた。



「説明終わりーーーーカツケ、午後デートしていい?ポセ喫茶で会っていいよね?」


「あっ、それは……」


「別にいいでしょ?ポセ喫茶で満喫して。お金は私が出すから、いや、パロは払ってあげると思うわ。」


「ほっ……わかった。」

 和祁はため息をついた。


「よし、これで、午後わたしとスイカちゃん二人きりです!」

 ユミリはまた頬をスイカに寄せた。


「調子に乗らないでよ。婚約のことなんとかしてね。」



 そしてスイカとユミリは2人掛けのソファーに戻ってゲームを続ける。真弓も姿を消した。


 和祁が再びモ●ハンの画面を見ると、いつの間にか部屋に4人目が入った。そしてその3人はクエスト中。部屋の主のHRも上がった。もう緊急クエストクリアしたみたい。


(蹴飛ばされなくてよかった。)


 せっかく気が合う仲間を見つけて、和祁はもっと一緒に狩りをしようと思っているのだ。




 2025/3/25(日)ーーーー14:25ーーーー星間島ーーーーポセ喫茶



 ポセ喫茶、全名称ポセイドンミュージック喫茶店。白星デパートの近くにある、ステーキとピザをメインにして洋食を売る店である。


「いらっしゃいませ。えっ、今日は一人ですか、お客様?」


 和祁とスイカは常に来るから、店員達によく知られている。


「いいえ、人を待ってるんだ。」


「そうなんですか。」


 ちょっと会話してから、和祁は店内を見回し始める。


(ちょっと、パロの顔よく覚えてないけど、大丈夫かな。小さい金髪子だけ知ってるけど。)



 でも心配無用だった、隅の席から晴れ着の女の子がソファーに立って手を高く伸ばして振っている。


(この子みたいだな。動き大げさな)


 和祁はそっちを睨んでから立ち寄っていく。



「兄上!こっち、こっち、パロはここにいますよ!」



(知ってるから大声出すなよ!)


 和祁は客たちの視線を浴びて、硬そうな動きで歩いてパロに寄る。とても気まずかった。パロは自己中心で無鉄砲な子らしい。スイカは彼女が嫌いなわけだ。


「こん、こんにちは。」


「兄上お~はよ~!」


「もう午後って。」


 和祁は席に座ったけど、パロはまだ彼に向いて立っていて、興味深そうな笑顔を見せている。


 それはスイカが見せたことのない、甘えるように可愛い笑顔。


(か、可愛い!ところで、背は低いな、小学生みたい。スイカも、パロも小柄なのは……もしかして遺伝子のせいかな。って、スイカの父はどれほど背が低いんだ!?)


 昨夜パロは急に現れて急に去ったから、和祁は彼女をよく観察できなかった。その故今頃そのスイカより10センチ低い身長に驚いている。


「あたしが小さいと思ってますか?」


 パロはお見通しとばかりに口を尖らせた。子供っぽくて可愛い。



(見抜かれちゃった!)

 和祁は気まずそうに頬を掻いた。会ったばかりで相手を怒らせるのはやばい。


「身長なら……あたしもどうしようもないんですよ。もう……」

 ブツブツするところはスイカに似ている。


「えっ?人変わりましたね、浮気ですか、お客様?」

 常客の和祁はいつも直接に注文するから、さっきの店員もついてきた。そして冗談を言った。


「えっ?うんき、いや、違う。」

 パロの問題が済まずに、店員も攻めてくるとは。和祁は慌て始める。


「えっ?浮気って、兄上は本当に姉上と付き合ってんですか?」


 瞬間にパロは記者と化して真剣な顔を見せながら和祁の前に飛びついてきた。


「いやいや、ありえない、誤ーーーー」


 和祁は言葉が詰まった。なぜなるば、パロはくっつき過ぎているから。


 懐中に託された女の子の体と漂う香りは彼の思考を止めてしまった。


 パロは片足立ちで、もう一本の足は和祁の太ももに膝をついている。彼女の足はスイカほど細くないけど、ポッチャリとした脛は揉み心地良さそうだ。


 傍に、店員はあんぐりとこんな光景を見ている。ショックを受けたようだ。


「お客様は積極的な方お気に入りですか?浮気したわけですね。」


 和祁とスイカがここに来る時はいつも優雅でロマン的青春的な雰囲気だったが、店員は二人がいちゃいちゃするのを見たことがない。



「誤解だ!この子はスイカのいとこだ!」

 和祁はパロからの攻めにあがきながら店員に説明する。彼はもちろんパロの体を企んでいない。


 でも彼は誘惑を完全に無視できずに、左手でひっそりとパロの踵を握ってみた。


(こレだけならいいだろ。せっかくだし。でもパロちゃんに気付かれないように。)


  欲望を気付かれたらやばい。



「いとこに手を出すなんて、お客様はこんなクズとは、思いもよりませんでした。」


「何か大きな間違いしてないか?いや、注文だ、注文する。」


「はい、お客様。えへへ~」


 そして、話題をそらすため、和祁は欲しいものを注文した。



「えっと、パロさんは何を食べたい?」

 和祁はパロを見下ろして訪ねた。今パロは彼の太ももに座るようになっている。しかも彼女は気持ちよさそうに足をぶらぶらしていて、時には和祁の脛にぶつかってしまう。



(やばいな!)

 と、和祁は心の中で悲鳴を上げた。もちろん痛いわけではなく、むしろ喜んでいる。女の子の足と触れ合うチャンスはなかなか珍しいだから。しかもパロのピンクと黒の運動靴履いた小さい足はとても誘惑的だ。


(だめだ!色目で見ちゃだめだ!小さい子を汚しちゃだめだ!)



「パロちゃんで呼んで、兄上~」


「え、それ……」


「パロちゃんって。」


「はい、パロちゃん、何が食べたい?」


「え?なんでもいいですよ。兄上は注文してくれませんか?」


「いや、でも、好みわからなくて。」


「なんでもいいって~パロは姉上みたいに好き嫌いしませんから。兄上が注文してくれたものなら、絶対に喜んで食べますよ~~」



 パロの天真爛漫な笑顔に、和祁は負けてしまった。

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