突入してくるいとこ(4)

 スイカのあやふやな言葉を聞き、和祁は本当に推進器が回るような音を聞いた。


(でも推進器の音はこんなに小さくないだろ?)



 和祁が考え込んでいたら、目を窓の外から差し込んだ強い光に潰されてしまった。


「あっ! ! 」

 彼は唸りながら腕で顔を守る。



「アウトです。ぎこちないよ、カツケ。敵だったらどうする?」


 スイカは手軽そうに話をかけてくる。その調子から見ると、彼女はもう落ち込んでいてない。


「スイカがこういうなら、敵じゃないみたいだな。」


 和祁は目を少し開ける。



「じゃない、かもね。」

 スイカは声を小さくした。



「姉上~~! ! 」



 ヘリコプターと窓の距離は2メートルくらいあるが、向こうから小さい姿が素早くまっすぐにこちらへ飛び込んでくる。


 スラと、その姿は窓を越え、部屋の中に入ってしまった。



 それはツインテールの女の子。髪はあんまり長くなくて、背中まで伸びている。そしてまさかのことに、彼女の身長はスイカちゃんよりも低い。


 スイカの身長は152cmで、この子はより10センチくらい低いらしい。


「えっと、知り合い?」

 消えた光とともに、和祁は目を開けた。すると抱き合った二人の姿が彼の目に入った。


「おっ、男の子!?姉上!破廉恥です!まさか何ヶ月間振り、姉上はみだらになっちゃいました!心から悲しみが……」


 その子は金髪を揺るがし、赤の裾を舞わせ、手で涙を拭くフリをしている。


「おい!デタラメを言うな!そんな関係じゃないぞ! 」


 スイカは怒鳴った。彼女の口調ーーーー特に敬語抜きというところからすると、この子は親しい知り合いという結論を得られる。



「問答無用です!姉上よ!こんな時間で、男の子と二人きり部屋にいるということは!それしかないでしょう!」


「あっ、あるのよ、そうでしょ、カツケ?」

 スイカの声は明らかに小さくなっている。


「えっ、この方がカツケ様なんですか!ずっと会いたかったですよ!」

 その子は直ちに興奮するように和祁に視線を向ける。



 一応スイカは助かった。


 彼女がほっとしていたら、その子が和祁に抱きついていくのに気付いた。

「 ! 」

 するとスイカは慌てて強引にその子を自分の傍に引き寄せた。



「えっ、僕のこと知ってる?」


「うん!もちろんですよ!何度もカツケ様のことを耳にしてましたよ!」


「えっ?」

 和祁は迷った顔を見せた。星間のSランクとしてもそれほどの有名人ではない。


「ここに来る時、姉上はいつもカツケ様のことを、うっうーーーー」


 言い終わる前に、その子は口をスイカに封じられてしまった。


「えっと、この子は私のいとこ、ディス家傍系の子、名前はパロ。」

 スイカは作り笑顔をして話題を逸らす。


 幸い、和祁の目付きから見ると、パロの言葉を気にしていないようだ。スイカは安堵した。



「えぇ……ディス家にも仲良しいるのか?」

 和祁は驚いた。


「パロは分家の子で、同じなめられる方だから、気安く付き合える。」


「酷っ!パロはもう一人前の情報員としてちゃんとディス家のために働いてますよ!ずっとサボってる姉上とは違うもん!舐められてないもん!」



「サボってねぇ、そもそもクズ家に関わってない。関わりたくない。」



 二人のやり取りを聞くと和祁は考え込む。パロは分家の出身だけど実績でそれなりのポジションを手に入れたみたい。つまり【才能】のないスイカだってそうやってポジションを上げてディス家と揉めずに済むのだろ。



「もう、姉上、パロを褒めてよ。」

 パロは甘えるようにスイカの裾を掴む。


 スイカはそれをスルーし、続けて和祁に説明する。


「最初はこの子かってに纏い付いてきたの。うるさくてたまらないから、遊んであげた。今から見るとそれは大きなプレミだったね。うっ!」

 言葉が尽きたがはやいか、パロは頬をスイカの頬に貼り付けた。



 そして派手にスイカに突き飛ばされてしまった。


「ひっ、酷いですよ、姉上!ふっ、ふ……」

 受け身してからパロは啜り泣いている。


「スイカ、泣いてるぞ。」


「騙されちゃダメよ。」



「カツケ様、優しいです!この心は深く感動しています!」

 一瞬、生き返ったパロはテンション高く和祁に抱きついてきた。


 和祁は完全に反応できなかった。


 恐ろしい身体能力だ。スイカには劣っているけど。


「えっ……」

 和祁は呆然に懐中のパロを見ている。



 スイカは止めようとするように手を伸ばしたけど、まぁいいと思って諦めた。


(いとこだし、年下だし、焼く必要ないね。)


「じゃ、カツケ兄上は、パロと付き合っていいですか?」

 パロはオニキスのようにキレイな目を瞬きしながら、とんでもないことを言い出してしまった。


「 ! ! 」

 さすがにスイカの予想を越えた。彼女の心は波打つ。



「あの、その……」

 和祁は混乱に陥っている。


 パロも、スイカも真剣に彼の返事を待っている。



「パロちゃんだね、付き合うという言葉の意味わかる?」

 と、和祁は答えた。



 パロはやっと余裕な顔を崩して呆れてしまった。代わりにスイカは思わず噴き出した。


「もう、兄上ったら、バカにしないでよ。本当に付き合いたいです!とにかく、暇あったらパロとデートしましょうよ!」


「ちょっと!バカにしてるのはあなたでしょうが!」

 スイカは思わずに割り込んだ。でも派手にパロに無視されてしまった。


「じゃあね~兄上~」

 パロは楽しそうに和祁に手を振る。


「ちょっと!」

 スイカは怒り出していく。パロに罰を与えようとすると、パロは間一髪に窓から飛び出してヘリコプターに戻った。


「まったく……」

 スイカは負け犬のようにじだんだ踏みながら窓の外を睨みつける。


「スイカ……」

 和祁はスイカの怒りに気付いて慰めようとする。


 でも、外から再びパロの声が伝わってくる。


「姉上、あんまり乱暴しないでよ~今度、レオ、レオ・ディス君も来てますから!」



「! ちょ、ちょっと!レオ……レオって、どこ?!」

 その言葉を聞くと、スイカは震えながら窓辺に寄って叫び出した。



 この反応はおかしい。


 と、和祁は瞬間に判断した。


 彼はスイカのすべてを知っているわけでもないけど、一つだけ確信できる。


 彼は初めて見た、スイカのこんな反応。


(変だな、きっと何かあるだろ。)


 和祁は好奇心を起こされている。



「スイカちゃん!何があったんですか?!」

 ドアは開け放たれて、白いドレスの寝間着姿のユミリが入ってきた。


 最初、和祁はスイカが答えると思って黙っていたが、スイカは震えてばかりで全然話せる状態ではない。

 故に和祁はかわりに応じる。


「いいえ、なんでもない。」


 …………


 謎の沈黙の後なんでもないと言っても説得力なくない?



(ユミリさんは今のうちにスイカを攻めてくるだろ。なんとかしないと……混乱中のスイカをユミリさんに渡せちゃだめだよな。)

 和祁は対策を考えていく。



「それならいいですね。お邪魔しました。」

 という言葉を残して、ユミリは立ち去った。


「……」

 和祁は閉じられたドアを見てぼうっとする。

(あれ?変じゃね?)


 そして彼はまたスイカに振り返ったーーーースイカは傍に彼の袖を引っ張っている。


「どうした?」


「カツケはもう出ていい。」


 和祁を追い出すようにスイカは無力そうに彼を押した。


「うん。」

 和祁は大人しく離れていった。


 でも彼の迷いは消えていない。


 スイカは今正気に戻ったけど、さっきそわそわよろめいていた、まるで大きなショックを受けたみたい。


(だけど……怖がるわけじゃないよな、怖がる時の様子とちょっと違うな。そのレオ君って一体誰なんだろう。)


 考えても答えは出ないから、和祁は諦めて自分の部屋に戻ってアニメを見ようとする。
















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