突入してくるいとこ(2)

 一方、和祁はスマホゲームに集中できずに、時々視線を食事中のスイカに落とす。


 イライラ焦っている、彼は。

(遅いな!はやく片付けを終わらせてゲームしたい!)


 今日真弓は用事ありそうで、食事の片付けを和祁に頼んだ。


 そしてスイカが食べ終わるまで片付けられない。故に和祁はリビングルームに残ってゲームをやっている。でもゲームに集中してはダメだ、オンライン対戦もできない。


(はやく食べてほしいけどな……)

 時彼はなんとなく思った。




 一方。


(こんな状況じゃ食べられないでしょ!)

 ジロジロ見られているスイカは心の中で咆哮する。


 よく考えた挙句、スイカは食べかけのティラミスを諦めた。


(捨てようかな……食べられん……ごめんよ、食べ物よ。)


 そして彼女は潔く立ち上がった。



「どうした?」


「食べ終わった。」


「えっ?でもたくさん残ってる……」

 和祁はスイカの食量をよく知っている。

(これだけ食べたって……病気にかかったのか?)


「もういい。もう行っていい…」

 スイカの声は小さかった。


「うん。」

 和祁はためらってから頷いた。


(やはり病気かな。でも『行っていい』って聞かれた以上行かせないわけにも行かないな。でもなんとかしないと……)


 彼はスイカの去りを待ち始める。


 でもスイカは止まっている。


 すると和祁は迷った視線を送る。

(僕はまた何かしでかしちゃったのか?まさか……)


「もう行っていいって。」


「えっ?」


 急に、スイカは彼の身近に移動して、右手で彼の手を優しく掴む。


「私が片付ける。」


「あっはい……」

 和祁はしばしポカンとしてから答えた。

(なるほど……『行っていい?』じゃなく『行っていい。』だったのか。)


 声が小さかったから、和祁は聞き間違えていた。


 ちなみに落ち着いたスイカの言葉の口調はほぼ同じだけど、普段和祁は聞き取れる。


(でもスイカはやはり……まぁ、構わない方がいいけな。)


 と思って彼は立ち去っていく。



 ーーーー


(何も言わずに離れた!?)


 スイカは信じられなさそうに和祁の後ろ姿を見送る。


 今彼女の心の中で生じるのは怒りではなく、恐れだ。


(態度冷たいね……やはり怒ってる?)

 スイカは無意識に眉を顰めた。




 実際は普段にもよくあることだが、今のスイカは敏感すぎるのだ。




「スイカちゃん!」

 ユミリが突然飛び付いてくる。

 そのとびきりの笑顔はスイカの慰めになる。


「おはよう。」


「怖かっですよ!」


「えっ?」

 スイカはユミリに強く抱き締められている。


「ずっと部屋出ませんでしたから、きっとわたしは嫌われたと思いました。ごめんなさい、わたしは余計なことしてしまいました。」


「そんなわけないよ。ユミリちゃんのせいじゃないから。」

 スイカは優しく微笑んだ。偽りではなく、ユミリの思いを感じて本当に嬉しくなっている。


 今のスイカは素直にユミリからの強い愛を受け止める。



「わたし頑張りますから!かな…えっと、必ずしも婚約をなんとかします!安心してスイカちゃん!」


「しもはないよ、もう溶けちゃったから。」

 スイカは嬉しそうに冗談を言った。


 最初和祁からいいなずけのことを聞く時はハーレムラノベの主人公の展開かよとツッコミたいところだったが、思いもよらなくてその主人公は実際自分だと。


(こんなに好かれることはなかったかな。)


 急にこんな純粋な愛情を手に入れたスイカは神に感謝している。


「あれ?」

 ユミリはジョックを聞き取れないみたい。


 スイカはただ笑っている。

「いいえ、何も。」


 今落ち着いたスイカは婚約のことを心配していない。時間はまだ長いし。婚約も法律に守られていないし。


 それに、婚約のためだけに、外国に転校させてまでユミリを和祁の側に寄せるということは、自体が怪しい。きっと本家に何かがあってユミリを安全な場所に置くために急いで転校の手続きを用意したのだろう。


 どうして和祁を選んだのか、まずはもちろん婚約があるため、そして多分日本はフランスと遠く離れているからだろう。及び和祁自分の能力のため。


(もし私のことさえ調べたなら、ディス家と親善を深めるつもりもあるかも……とりあえずこの推測はユミリに黙っておこう。当主は無事に事件を終わらせるかも。万が一ユミリを狙うやつ来たら私が止めをさす。ユミリちゃんのような悩みのない生活を送ってて優しく大人しい子には、酷い目に会わせたくない。許さない。)




 12:17


「ご飯はまだ?」

 スイカの鋭い声がした。

 

「いい。」

 1階にいる和祁が答えた。


「だったらどうしてテーブルに置かない?」

 スイカは階段を降りながらなリビングルームを見回したけど、食べ物は見当たらない。


「いや、声のこと。なんか、さっき、いい声だった。」

 和祁は頭を掻きながら思わず感想を言い出した。


 普段スイカの声は落ち着いたように低い。そして鋭い声を出す時多分はロクもないことが起こってしまった故。


 スイカは突如の褒め言葉に呆れてしまった。我に返った時、頬から熱を感じる。


(そういう声が好きか……『そういう声好き?』って訪ねてからそんな声で話すことにしょう?いや、不自然すぎる。もっと自然に、だんだん声をキレイにしようか。)


「別にいつも、クッ、この声でしょ。」


「そりゃ……」


「……」

 スイカは悔しさを覚えた。さっき彼女は変な声を出してしまった、しかも噛んだ。大失敗。声を操る訓練を受けたことないから、だんだん声をキレイにするのは難しい。


 食事を忘れて、スイカは声のことだけ考えている。



「昼食なら、その……」


 和祁の言葉にスイカは我に返った。


「あっ、なに?」


「昼食はまだ。」


「そっか。」

 スイカは適当そうに応じたけどーーーー心では喜んでいる。

(よし、いい声出した。この調子で~)



 一方、和祁はスイカの落ち着いた顔を見て、彼女が『昼食はまだ完成していない』だと勘違いしているのに気付いた。


「いや、スイカ。昼食はまだ作ってないって。」


「……はぁ?」

 予想通りスイカは目を大きく見開いた。


「真弓さんは用事あるって言っただろ。その……つまり今日は昼食を作らない。僕もただいまこれに気づいたところで。」


 沈黙に落ちるスイカを見て和祁は慌てて言い訳を言う。


 そしてーーーー



(こんなことだったら、どんな声出せばいいのかな……)

 スイカは考え込んでいる。




「スイカ?」


「あっ、いや、出前でいい。」


「うん。」

 和祁は絶望しそうにスマホを取り出す。



「どうしたの?」

 和祁の震えた手を見て、スイカはロリキャラみたいな可愛い声で尋ねた。

(よし!しばらくこんな声で話そうか~)



「いいえ。」

 和祁はすぐ否定した。


 それから、スイカは悟った。


「ちょっと、私が注文するから。」


 スイカははっきり言わなかったから、和祁はきっと自腹を切ると誤解した。昼食用意しなかったことの罰だと考えると変ではないから。でもスイカはそういうつもりはない。


 スイカはスマホを取り出して出前のアプリを開けた。


「ポセ喫茶の3000円ステーキ。ほかは適当に。」

 すると和祁は頼んだ。


「罰はないけど、調子に乗るな。」

 スイカは歌みたいな口調でつっこんだ。





















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