突入してくるいとこ(1)

2025/3/24(土)ーーーー9:20ーーーー星間島ーーーースイカの屋敷


 スイカは目を覚めた。


 照らし出す日差しがじりじりと目を射る。ガラスの窓は朗らかそうな青空の色を映す。


 そしてスイカはまだ暖かい布団の中から出たがらない。

 あんまり疲れていないが、彼女はなんか元気を出せない。


 昨夜、彼女はすねていた。久しく思い切って和祁に怒りのパンチを食らわせてしまった。何度も、何度も。まぁ、本当に全力で殴ったわけではない。力を入れすぎたら和祁は死にがちだから。


 幻紋の力で和祁はすぐ治るけど、彼を痛ぶったのは事実。



 その後スイカは直接に部屋に戻って眠ろうとしていた。多分がっかり過ぎたせいで、ベッドに寝ていたらすぐ眠りに落ちてしまった。


(カツケのせいじゃなかったのに……なのに……すべてを押し付けちゃった。)


 和祁のせいではないと彼女は分かっていたが、感情の衝動を抑えきれなかった。


 スイカはすねることがよくあるけど、今回は大事件だ。故に後悔の気持ちもいつもより激しい。


 スイカは生まれつきの怪力を持っているのだが、決してドSではなく、暴力を振り回すのが好きなわけでもない。本当に言うなら、逆にスイカこそいじめられやすい方だ。


 以前スイカは家の悪いメイド達に厳しく扱われたり、中学校でヤンキー達に狙われたり。メイド達は金を占めて、そして力も弱くない。そしてヤンキー達も上級生で強いスキルを覚えていた。スイカは彼女達に敵わなかった。


 でも和祁が現れたのだ。抗う力を与えてくれた。


 また、クラスの皆に打ち解ける勇気を。


 


 そういえば、殴りで悪意を打ち返す習慣もあの時からできた。


 でも一番多く殴られたのは和祁だろう。次はパロかも。


(カツケが与えてくれた力で彼をいじめるか……私……最低だね……)


 スイカはそういう性格だから仕方ない。以前弱いから性格を抑えてきていただけに、今はもっと解放感を求めているかもしれない。


 以前スイカはこういうことに気付くことはなかったが、婚約者のユミリが来た今、スイカはピンチを感じた。


(このままじゃ、嫌われるかも……)



 という考えが彼女の頭を占拠した時、自分もすごく驚いた。


 すぐ、スイカは目を瞬いてむちゃな考えを振り払ってベッドから降りた。


 昨夜、彼女はもやもやし過ぎて、風呂も、着替えもせずにベッドで寝てしまった。今身にも昨日のセーラー服を着ている。でもそれとスカートはもちろんはしたないように見えている。


 スイカは適当に服を整えながら、真っ黒のニーソの履いた足を紫色のフォーマルシューズに突っ込んで立ち上がろうとする。



「 いてえ! 」


 静電気に触れたみたいにスイカは足先からぱちっと痛みを感じてしまった。起きたばかりのスイカにとってそれは割と大きな刺激で寝ぼけを一気に振り払った。


 スイカは思わず足を上げたが、痛みは消えていない。


(右足の親指は何かに刺されてるような……)


 スイカは足指で床を掴んでみたら、痛みの根源を見つけた。


(多分、石ころとか、かな……)


 スイカはあんまり気にせずに右足を靴から引き出して靴を拾い上げようとする。


 でもその前、再び床を踏んだ右足からまた激痛が走る。


「うっ……」


 予想外だから、今回もすこしスイカの精神を乱せた。


 問題が靴ではなく足だと、スイカがそう判断したら直ちに靴を捨てベッドに座って右足を上げて左膝に置いた。


 そして彼女の目に入ったものが精神的な衝動を与えた。

 右足の親指に銀色の釘が覆って、日差しの中で輝いている。


 彼女は呆れてぞくぞくと震え始めた。武装学園の生徒としても、自分の肉が何かに刺し込まれているなんて気持ち悪くて恐ろしい。


 いたずら。


 いたずらとしか思えない。


 昨夜、彼女が部屋に戻った後出たことない。だからきっと誰かが彼女が眠るうちにこの仕業をやったのだろう。


「でも……誰でしょう……」

 スイカは信じられなさそうに呟いた。


 スイカは訓練を受けているから、寝るときでも周りの気配を自ずと察して目を覚ます。普段なら彼女に気付かれずにに部屋に侵入するのはほぼ不可能だ。


 でもたしかに昨夜大変機嫌斜めだったから、眠ることしか何も考えたがらなかった。そして質の高い睡眠になっていた。昨夜の8時から今までずっと眠っていた。


(隙あったわけか。)


 ユミリはまずパス。そして真弓はちょっといたずらだけど、決してこんな悪質な冗談はしない。そもそも彼女達は気付かれないことができないのだ、昨夜のような状況だとしても。



 そしてーーーー和祁ならできる。戦闘科ではないけど、潜入のためにも気配の消し方を学んでいる。


 もしかして殴られたから恨みあったかもしれない。


 殴られる時和祁は感覚伝染も使えるけど、内気で臆病な彼はもちろん堂々と抗わない。彼はただいたずらで不満を晴らすしかないだろう。



 完璧な推理ーーーーかもしれない。



(でもカツケはこんなのしたことない。カツケじゃありえないよね……いや、楽に考えちゃダメ……本当にカツケだったら……きっと、彼がすごくすごく怒ってたかも……)


 スイカの唇は白くなっていく。


 不安とともに、もやもやする気持ちも再び浮かび上がってきた。



 10:12ーーーーリビングルーム


「お嬢様、おはようございます。今日遅かったですね。」


「うん。」

 スイカは元気なさそうに答えて、のんびりと階段を降りている。そして彼女が視線を真弓に向ける時、和祁の姿も目に入った。



「カツケ. . .」


「えっ?」


「いや、別に。」


 スイカは和祁に近付こうと思っているけど、何を言うのかわからない。それに、和祁の顔を見るだに怖い。


「まぁ、はやく食べて。これから片付けるから。」

 和祁は何気なく朝食の置いたテーブルを指差す。

 昨夜の傷はあんまり酷くないから、彼はもうほぼ治った。



「うん。」

 スイカは小さい声で答えてから席について食事を始める。


(カツケのプレートもテーブルに残ってるって、カツケも起きたばかりか?痛くてよく眠れなかったのか?)


 考えれば考えるほど、スイカは食べ物から苦さを感じる。


 しかも、和祁の視線を感じられる。


(やはり……昨夜のことに文句持ってるのね……)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る