婚約破棄(3)

 16:39ーーーー台所


 スイカは夕食を作ろうとしている。だが彼女が台所に入った時中にはもう人がいる。


(カツケか?怒られたから、償おうとしてるのか?)

「まぁ、ありえないけど。」


 スイカは呟いて自分の想像を破った。そして彼女は続けた台所に潜り込む。



「お嬢様、ご機嫌よう。」

 真弓だった。


「晩ご飯は?」

 スイカは訪ねた。


「焼き鳥、野菜スープーーーー」


「わかった。そうじゃなくて、今日からは私が作るんじゃないかって。」


 二人にとって屋敷は大き過ぎるから、家事は二人で交代する。


「いいえ、こないだサボっちゃいましたから、これから償わないとですね。」


「それは休暇からいいんだよ。」


「そもそもわたくしはメイドですし。お嬢様はごゆっくり。」


「はい、ありがとう。」

 そう言われた以上、スイカは喜んで納得した。


「それとも、お嬢様は和祁様に手作り料理を捧げようと思ってますか?」


「捧げるというのは……」


「本当ですか?」


「いやいや、私はそこまでしないから。それじゃ。」

 すいかは慌てて台所から立ち去った。


 その後彼女は直ちにため息をついた。

 真弓の提案はとてもよかったから、スイカの心を動かしてしまった。


 でもスイカはそんなことできない。



「スイカちゃん、スイカちゃん!」

 また、ユミリがやってきた。


「どうしたの?」


 相談してから、スイカはもうユミリに悪意を持っていない。むしろ、それほどの愛情をもらえて、スイカはとても嬉しがっている。


「わたしに力をください!」



 16:51ーーーーリビングルーム


 もうすぐ夕食の時間だから、スイカとユミリはいっそリビングルームで待ちながら会話する。


「つまり、やっと勇気を出して婚約破棄を決めたわけだね、頑張ってね。」


「はい!スイカちゃん!そして東雲さんにも教えましょう!」


「ユミリちゃん、カツケの方は私が知らせるから、今あなたの務めは婚約の破棄だけ。それに集中して、あんまり考えないで、あなたはいけるよ。」


 スイカはとても真面目にユミリを見つめている。ユミリと仲良くなったからだけでなく、その婚約はスイカにとっても重要なものだ。


「わくわくしてます。」


「行けるのよ!安心して!頑張って!」

 スイカはテンション高くてユミリを励ましている。


「で、では、わたし、行きます!」


 ユミリは通信ボタンを思い切って押してしまった。



 最後の最後で、スイカの無意識かけたストレスはユミリの力になっている。


 スイカちゃんの期待を背いてはだめだから、決して失敗はしない、と。


 スイカちゃんにも聞かせるため、ユミリは日本語の線路で通信している。



 電話から声が出た。

「日本語線路でございます。間違えたらチェンジできます。」


「いいえ。間違えていません。」


「ではご機嫌ようお嬢様、なんの用でございますか?」


「その……婚約の件です……」


「えっ、お嬢様はもう……知ってるんですか?」


「はい…わかっています。ですからその決定をキャンセルできますか?」


「わかりました。旦那様に伝えてきます。」


「伝えるというのは失敗するかもしれないということですか?」


「あっ、その……」

 電話の向こう側は慌てた。


「わたしは、そんなの絶対いやです!お父さんにそう伝えてください!」


「はい、わかりました。お嬢様の気持ちがこれほど強いなら、旦那様もきっと感激するのでしょう。それ以外ご用件ありますか?」


「ありませんです。」


「はい。これでは通信を切ります。おやすみなさい、お嬢様。」


 やっと終わった。


 通話を切った時ユミリは足が震えて倒れてしまうかと思った。



 そしてスイカは彼女に話をかける。


「ありがとう。」


 礼を言った。


 和祁は婚約を執行するとは思えないけど、婚約の存在はやはりスイカを不安させるのだ。

 これでは本当に助かった。普通ならばユミリを抱きしめたり、せめても頭を撫でるとか、ご褒美を与えるべきだが、スイカは内気だから、そんなのはできないのだ。


(ありがとうだけじゃ足りないって思われるかな?)


 スイカは不安になった。


「スイカちゃんが大好きですから!」

 ユミリは自らスイカの胸に飛び込んできた。


 スイカはぽかんとした。

(心配いらないみたいけどね。)


「ところで、ユミリちゃん。」


「どうしましたか?」


「あなた……まだ、カツケと仲良くなってないでしょ。」




「えええっ!?いや、わたしは東雲さん(、そな、企んでいません!」

 ユミリは慌てて頭を横に振る。もうスイカちゃんに嫉妬されたくないから。



「いや、そう……そういう話じゃないんだ。誤解解けた今、やはり、皆仲良くした方がいいと思うの。一緒に暮らしてるでしょ?冷たすぎちゃダメですよね。」


 今なら、スイカは心配なく二人を仲良くさせられる。




「そうですね。でも、どうすればいいですか?」


 ユミリも事情を理解したらしい。でも彼女もあんまり男子に関わらないタイプ。



 そして聞き返されたスイカはぽかんとした。




 どうすれば男の子に近付けるのか?



 スイカはもちろんわからない。さっぱりわからない。


 偶然に和祁に会えて、馴れ馴れしくなっているのだが、彼女は全然モテない。普段男子との接触は恐らくユミリよりも少ない。


 彼女の悪い目付きと冷たい性格は可愛い見た目を完全に覆っているのだ。そして己から他人に構うこともないし、クラスでは目立たない生徒である。



 そんなスイカでユミリにアドバイスを出すのが無理だ。


 でも自分が提案した以上、わからないとか答えられない。




「要するに、大胆。恥ずかしがらないで、話しをかければいい。」


 スイカは真面目そうにデタラメを言っている。


「普通に話をかければいいのですか。やすそうですね!」


「えっ?ちょっと、もしかして、その、よく男子と会話するの?」


「えっ?よくというのは?とにかく、クラスの男子達とは仲良かったですよ。話にも混ざれますし、掃除の手伝いもしてくれますし。」


「……」

 スイカは冷たい顔して冷たい視線をユミリに送る。

(あれ?あれ?ユミリちゃんはリア充なの?あれ?)


 よく考えると、恥じらわずにスイカに纏ついてくるユミリはもちろん朗らかな性格に違いない。



「でもね、日本人が、その、resevered①で階級意識が強いとよく言われますから、どうやって東雲さんと仲良くなれるのか迷っていました。なるほど、普通に話せばいいのですな。」



「うんうん。」

 スイカは早くこの話題を終わらせたがる。

(リサードってなに、まぁ、いいか。)


 そしてユミリはきっと和祁と仲良くなれると、スイカは確信した。



 17:36ーーーーリビングルーム


「いただきます!」


 四人の合わせた声の中で、夕食が始まった。


 実際スイカと和祁はこういう習慣がない。普段は真弓だけが『いただきます』を言う、そしてそれを合図にして二人も食べ始める。


 でもちゃんと作法を学んだユミリはこの儀式を行う。そして変だと思われないように和祁達もこのようになっている。


 最初二人とも恥ずかしくて声が小さかったけど、今はすこし慣れているから声は自然に聞こえる。


「スイカちゃん!あ~」

 ユミリは手羽先をスイカの口に運ぼうとした。


「いやだ。しかも、その……individualだから、あなたの分なくなっちゃうよ。」


 スイカはやはりまだ食べさせられるのを受け入れない。


「えっ!敬語使わないスイカちゃん可愛いですね! ! 」


「気をつけなさい!落ちるぞ!」


 実際手羽先は本当に落ちてしまった。幸いスイカは直ちにそれを箸で挟んで救った。


 危なかったけど、スイカは褒められて嬉しがっている。元はユミリをがっかりされてしまうと心配していたけど。


「とにかくらユミリ……ちゃんも食べて。」

 初めて人の前で、『ちゃん』を付けてユミリを呼ぶ。スイカの顔は赤く染まっている。


「ありがとうございます!スイカちゃん!」


 ユミリは抱きついてきた。


「席に戻ってよ!」



「お二人いつまでラブラブしますか?見ているわたくしは羨ましゅうございますわよ。」

 真弓は目を細めて文句を言った。


「ごめん。説教するから。」

 スイカは謝ったけど、彼女の目に喜びがみちる。


 幸せだ。


















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