それ以外の関係になりたくないから(2)
宴は盛んで続いていく。
「白鷺さん、どうかしました?」
「その、あの……さっき、なんかあおいさんはご機嫌斜めに見えてましたが……」
「気づかれましたね。白鷺さん達がはしゃいだのを見て、すこし憧れてますね。」
「えっ?」
スイカは驚いた。彼女こそあおいの気高さに憧れている。
「私、友達たくさんいますが、それほど親しいのはいませんね。色々な作法に気をつけないといけませんから。」
「……」
スイカは納得した。
(本当のお嬢様もたいへんだよね、友達はそう簡単に作れないね。)
「あっ、いいえ、別に友達のせいじゃなくて、ただ、お嬢様として育てられた私は、いつも堅苦しいような雰囲気をもたらして……そうすると、周りの人達も慎むようになりますね……このままでは、友達は1人ずつ晴れてくかなって。」
それを聞いて、スイカはキョロり目を見開いた。
「あの、あおいさんは心配しなくていいと思います。常に一緒に寄り道するんでしょ?もし友達は辛くかんじるなら、きっと無理して付き合いませんよ。ですから安心して。彼女達もきっとあおいさんを大事な友達にしてますから。」
今スイカは逆にお姉さんに見える。
言い尽くしたら、スイカはほっとした。まさか自分はそんなに喋れるとは。
(マンガのおかげかな。)
漫画はすごいものだな。
「そうですね、白鷺さん。そんな見地は……お嬢様のあるべきものやですね。やはり私はまだまだ未熟です。」
「ありがとっ……」
スイカは呆れた。
(いや、ただマンガで読でた……)
「それに、一つ許していただけませんか?」
「?」
「前白鷺さんの情報を読む時、つい辛い身の上の部分も読んでしまいました。ごめんなさい。」
「それは気にせず。」
スイカは身の上をあんまり重んじていない。幼い頃は生活環境から大きな影響を与えられるかもしれないが、成長したら知識や自分の考えこそ性格と価値観を決定するのだろう。
特に今はITの時代だ、ネットからは生活より多い情報を貰える。
「白鷺さんのようにになりますように、私は頑張ります。まずは自分のやり方を変え、友達に打ち込もうと思います。本当に、ありがとうございました、白鷺さん。」
「いいえ、べつに。」
スイカは『スイカでいいですよ』を飲み込んだ。もっと仲良くなりたがるが!だが!白鷺という単語は素晴らしすぎる!美感に満ちた呼び方だ!スイカそう呼ばれたいと思っているのだ。
そして、スイカは和祁に振り返った。
「ねぁ、しばらく、白鷺さんって呼んで。」
「えっ!!?」
和祁は驚いた。
(また怒らせる何かをした??)
「?」
スイカは頭をかしげた。
「いいえ。」
和祁は慌てて答えた。
(スイカは……怒ってなさそうだけど……)
3/14(木)ーーーー18:56ーーーー警察署
「また襲われましたな、桂お嬢さん。あっ、星間のスイカちゃんまでいますね、これは一体?」
山田警察は記録員として、和祁達に状況を聞いている。
「また白鷺さんに救われたんです。」
あおいは思わず答えた。
「しら……さぎさん?」
山田は迷う。
「私です。」
スイカは手を上げた。
「えっと、スイカちゃんはたしかに……デッ、ディ……」
「白鷺はお母さんの苗字ですから。」
「あっ、そうですか。でしたら苗字を正式に変えませんか?ここではできますよ。」
山田が提案する。
「いいえ、そこまでは……」
念のために、変えない方がいいと、スイカは思った。
「本題に入りましょうか、つまり桂お嬢様はまだ襲われて、スイカちゃんに助けられたわけですね。」
「はい。」
「怪我は?」
「白鷺さんのおかげで怪我はありません。でも用心棒達はちょっと……ですから、ご是非犯人にそれなりの罰を与えてください。」
「もちろんです。警察としての責任ですから。」
山田は厳かに胸を張った。
20:19
「さよならですね、あおいさん。」
スイカはまだ別れたくなさそうだが。
「うん、さよなら白鷺さん。」
「その、暇でしたらいつでも来ていいですよ。ついでに貴族の作法教えてね。」
スイカの頬は真っ赤だ。
「白鷺さんも、身を守る技を教えて。ところでーー」
「うん?」
「本当の気持ちをさらけ出していいと思います。」
「……うん。」
スイカは悟った。今日一日忙しかったから、ユミリのことさっぱり忘れていた。
(……えっと……もし、ユミリさんは婚約破棄するつもりだったら、破棄させる。)
と、スイカは考えた。
でも実はあおいは和祁のことを言っている。
好きな人に打ち明けるべきだと。
「頑張りなさい、白鷺さん。」
「うん!ありがとう、あおいさん、それじゃ!」
別れを告げて、あおいはヘリコプターを呼んできてスイカ達を送らせる。
真のお金持ちの気合いだな。
まぁ、スイカ達も何度もヘリコプターに乗ったことがあるが。
(安いヘリコプター1台買おうか。)
耳にイヤホンを付けながら、スイカはヘリコプターを見上げてなんとなく思った。
でもすぐ諦めた。さすがに高いし、要するに運転できる人がいない。
20:33ーーーーヘリコプター
眠りに落ちたユミリを睨んでから、和祁はなんとなくスイカに近づいてくる。
「あ、ス……白鷺さん……ところで、前この呼び方を使うのはいつのことだろう。」
和祁は時間の流れを感嘆するように話をかけた。
しかしーーーー
「いや、最初から勝手に呼び捨てしたから、そう呼んだことなかったよ。」
スイカはジト目を見せてつっこんだ。
「えっ!?」
「中二病だった頃のカツケは全然人の気持ち考えなかったからね。」
「やめろ、その時の話を……ところで鷺ってどういうもの?」
「鳥でしょう、当然のこと。」
「そうじゃなくて、詳しいの聞きたい。」
「詳しく知るもんか。」
「調べたことないかよ!?」
「まぁ、多分鶴のような鳥じゃないかなって。」
「白鷺に鶴のイメージで上書きするのは鷺に失礼だろうが。」
「まぁね。ただ白鷺という単語は本当に素晴らしい。そう思わない?」
「うん。」
和祁も納得した。
しばらく、スイカの屋敷に着いたようだ。
「運転者さん、私をそっちの屋上に運んで。ほかの人は地面に。」
スイカは3階くらい高い屋上を指さした。そこは緩めた斜面で、屋内へのドアかある。風景を観賞するために作られたらしい。
……………
「久しぶりだね。ここに来たのは。」
スイカは体育座りして月を見上げている。
「うん。この斜面は、なんか面白いな。」
和祁は斜めの屋上に歩んでいる。
「なぜ来た……」
「あ、急に興味があって。花見からの月見はいいだろ?」
「うん。でも気をつけた。」
「大丈夫、万が一あったら白鷺さんがいるじゃないか。」
「ふっ、私に頼りすぎっ。助けてあげないならどうする?」
「白鷺さんを掴んでるから。落ちるなら一緒に。」
「カツケ、陰湿。」
「まぁ、一緒に落ちて死んじゃったら神展開な。」
「……………」
「うん?」
返事が来ないから、和祁はスイカを見てみた。
「怖いこと言うなよ。冗談だとしても。」
「うむ。」
和祁は自分の失言に気付いた。
(女の子としての繊細さか。)
でも普通スイカは繊細に見えない。
「そして、勇気だして、こっち来てよ。」
スイカが誘う。
和祁は斜面の上の部分を歩いている、そしてスイカは屋上の端に座っている。
「うん。」
和祁は『突き落とす気か』という冗談を飲み込んだ。
彼は穏やかな足取りでスイカに近付く。
「座って。」
「座ってても見下ろせるよ。」
和祁はスイカを見下ろしている。
「小柄で悪かったねぇ!」
涼しい風は静かな夜を吹き抜け、優しい月明かりが鳥達の背に乗る。
「白鷺ってのはその鳥らのように可愛いかな。」
和祁は感嘆する。
「まぁ、どうせ猫は一番可愛い。」
スイカは答えた。
「同意!」
「ところでーーーー」
スイカは話題を変えようとした。
「その、これからはあんまり馴れ馴れしくしないでくれる?」
「……?」
その言葉に、和祁は呆れた。
(いやいや?!関係の大ピンチ!?)
スイカは続けて言う。
「損じ合うようなネタ使いすぎたら面白くない。いや、気持ち悪い。」
「あっ、それか。」
和祁は一旦ホットした。
(女の子は褒め言葉が欲しいだろうな。)
それを知っていても、内気のせいで、褒め言葉は言い出せないだろうけど。
「この2年間、私達……随分変わったね。」
スイカは出会った時のことを思い出し優しく微笑んだ。
「うん。」
「二年前カツケは中二的にーーーー」
「やめてくれ、中二病のことを。」
「いや、中二病の事じゃなくて。もしあの日、『旧友に似ってるから』とか言いながら追いつきてこなかったら、すべてのこと起こらないよね。すべてが消えちゃって。多分私達は二度と出会わないでしょう。」
スイカは本当にあの日出会えたことで喜んでいる。
「僕はそう思わない。あの時点で出会わなくても、スイカの力は確実なものだろ、僕のさいのうも。きっと僕らはまたSランクになって、求め合うだろう。」
「たしかにそれもありだね。でもそれじゃまた別のストーリーになっちゃうんじゃない。少年少女がゼロからわかり合い、しかも二人ともSランクで、プライド高い。」
「いや、僕はいつでも謙虚だ。」
「どういう意味かよ!?私優しくないって言いたいのか?」
「そんな展開だったら、スイ……白鷺さんは孤独でさらにわがままになっちゃうじゃない。」
「……反論できない……たしかにそれは嫌だね。」
和祁を大事にしない自分なんて、スイカは思うだにむかつく。
和祁は見下ろして、スイカの横顔に見惚れている。
(スイカの真面目に考え込む顔はやはり可愛い。)
「ねぇ、カツケ、私達、今、親友だよね。」
「うん。」
「いま、一度抱いていいよ、私を。」
初春の夜は涼しい。スイカはなんとなく暖かさを求めたいと思った。
「えっ?」
和祁はぽかんとした。
「変な意味じゃない!」
「それはわかる。」
和祁は落ち着いたように答えたけど、こころはドキドキして止まらない。猫みたい可愛いスイカは所詮猫じゃなくて、女の子だ。
可愛い女の子を抱くのはやばすぎる。
和祁はぎこちない顔で、ぎこちない動きで、左腕でスイカの肩を抱いた。
スイカも大人しく彼に寄りかかってくる。
「和祁は大事な親友。」
「あっ。」
和祁はどう答えていいのかわからない。しかし、一つのこと彼は忘れないーーーー
彼は右手でひそりとスイカの膝を撫でている。
スイカの足に近付くチャンスはどうしても見逃せてはダメだ!
スイカちゃんとももちろんそれに気付いた。一度軽蔑な眼差しで睨んでから続けて話す。
「せっかく出会ったから、きっと、カツケとの関係……その絆を大事にする。」
「僕も。」
二人とも月を見上げている。
恥ずかしいだから見合うのが嫌だった。
「だから、私の執事なろうなんて許せないから。」
「うん?」
「私達はパートナー、親友なんでしょう?その関係を汚(けが)したくないから……」
その言葉に、和祁は大きく目を見開いた。気持ちは瞬間に晴れた。
(なるほど、そんな考え方もあるんだ。スイカは僕達の関係のため色々考えてるな。)
スイカはやはり繊細な子だな。
「そっか。スイカの気持ちに気付けなくて……もうそんな事言わない。僕もスイカを大事に。」
二人はゆっくり近付き、抱きしめ合う。
(お金なんて聞けばあげるよ…)
(あっ、スイカを社長などとしようと思ったなんて、僕バカだったな。)
今夜の月のように、円満なエンディングである。
しかし、まだまだ甘いスイカは自分の言葉のもう一つの意味に気付いていない。
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