専属メイドさん(5)

 2025/3/13(木)ーーーー16:52ーーーー星間島ーーーースイカの屋敷ーーーー台所


「お嬢様、和祁様、晩ご飯はホットケーキとゼーリーにしてよろしいのですか?」


「お菓子か、悪くなさそうね。カツケは?」


「確かにあんまり飯など食べたくないし。お菓子でいいと思う。でもどうして?いつも『主食と副食、お菓子と果物、スープと飲み物、六種類の食べ物はふさわしい場合こそ最高の価値を持ちます』っていうのに。」


「感動しちゃいます、和祁様!ちゃんと覚えてくれましたね。おめでとうございます、満点ですよ。でも今日見せたいのはただのホットケーキではありません!旅の修行成果でございます!ある婆さんから教わったとっておきです!わらしべ長者のようなやり方で取り替えたとっておきですよ。」


「またそのネタかよ。」

 スイカはつっこんだ。


「えっ、しかも500円硬貨いちむいで。」


「安っ、乞食じゃないな。」

 和祁もつっこんだ。


「このホットケーキも、ゼーリーも、珍しい食材を使いますから、栄養性は普通の主食にまけません。あっ、食材はお土産として持ち帰りました。合計四万三千円税入りです。ほぼ旅行予算の半分です。これはお嬢様に感謝を示すためでございます。」


「グルメ番組みになってないか!?」

 和祁はつっこんだ。


「別にちゃんと自分に使ってよかったのに。」

 スイカは恥じらうように言った。旅行予算は全部彼女が真弓に与えたから。


「ところで、スイカ……その金……」

 和祁はスイカを睨んだ。多分真弓に嫉妬した。


「マユミさんは我が白鷺家の第一メイドであり、家事万能、忠誠心も、優しさも持ってる。要するにとても可愛いだから、もちろん一番の待遇を与えるべきよ。」

 スイカは説明しながら真弓とてえてえする。


「光栄の極みでございます。この命が燃え尽きるまではお供します、お嬢様~」

「よかろうマユミさん~」


「差別しすぎ!旅の予算は僕の借金に超えてんじゃん!夕食食べなかったら借金を少しでも減らしてもらえないか、スイカちゃん~」


「いや!お金貸してあげるのはもうたいした恩だよ。ちなみにその『スイカちゃん』きもい。」


「せっかくの食材ですから、和祁様はぜひ食べてください。」


 三人は笑いあった。


「お嬢様、暇になったら、この料理を教えてあげましょう。」


「ありがとう、マユミさん。ふふ、カツケ、私の料理もよりうまくなるぞ。」


「はいはい。」

 和祁は適当に答えた。


「これでは、わたくしは料理を始めますから、お二人先に行っていいです。」


「手伝っていいよ。」


「いいえ、お嬢様はごゆっくりしてください。」


「うん、頼んだ。」


「頑張って、真弓さん。」


 そう言って、スイカと和祁は台所を去ろうとした。


 だがーーーー


 台所のドアはどっと開かれた!


 和祁がそれにぶつかってしまうところで、スイカは彼を引っ張って避けさせた。


「チャンチャンチャンチャン!!!スイカちゃん~ええっ?スイカちゃんいませんか?」

 ユミリが『大』のような仕草で現れた。彼女が見回してもスイカの姿が見当たらない。


「私はここに。」

 和祁が体勢を正すと、スイカは彼の後から出てきた。

 小柄なスイカは和祁に遮っていた。


 スイカは少し頬を膨らんでいる。

(ユミリさんは私の身長を皮肉ってるのか!)


 ユミリもスイカの不満を感じた。

(まさか、わたしは第一時間でスイカちゃんを見つけなかったことで怒ってますか!わたしバカですね。)


「ユミリ様、晩ご飯を作ってますから、ごゆっくりしてください。お腹すいたら、冷蔵庫の食べ物をどうぞ。」


「サマ?この呼び方は?あっ、わたしはまだお腹すいてません。」


「ええ、ユミリ様も白鷺様みたいなお嬢様ですので、様で呼んでます。」


「そうですか。勉強になります。」



「何をしに来ましたの?」

 スイカは割り込んだ。


「スイカちゃんの部屋でゲームを見つけました。スイカちゃんと一緒にゲームを遊びたいです。」


「えっと……」

 スイカは何かを言おうとした。


「ダメですか?」


「ダメですよ。」


「ええっ?なんで?」


「こういう時は『遊ぶ』を使いません、play game は日本語でゲームをやると言いますの。」

 さすがにスイカはゲームの誘いを拒む必要がない。


「わかりました!ではゲームをやりましょう。」


「いいですよけど。」



「おお~国語先生白鷺様ですね。」

「何のゲーム?」

 真弓と和祁も割り込んだ。


 ユミリは和祁を無視した。


「しらん……私のゲーム多いし……しかもどの隅で見つけたかもしれない。」

 スイカは苦笑しながら和祁に耳打ちする。


「じゃ、ご武運を。自分のゲームで負けないでな。」


「買ってからやったことないゲームかもしれないけど。」

 スイカは苦笑するまま。





 傍らに会話する二人を見ているユミリは不安になる。スイカと和祁の声が小さいから、聞こえない。

(その男!もしかしてスイカちゃんを脅かしてますの?スイカちゃんをいじめるな。わたしは絶対に彼を旦那にさせません!そしてスイカちゃんを守ります!)


「早速行きましょう!」

 ユミリは無理やりスイカの手を引っ張って去ろうとする。


「ちょっと?」

 スイカは抗っていない。そのままユミリについている。


 勝ったと思ったら、ユミリは足が敷居にぶつかってしまった。痛みが襲ってきて、彼女の意識を奪った。


「えっ!?」

 代りにスイカが声を漏らした。

 彼女は急に前に突進する力を感じてから、自分の手でその力を覆し、倒れていくユミリの体を引き戻した。


 でも、ユミリはおおげさな仕草をして、慣性を強めた。故に、ユミリは後ろのスイカに倒れていく。

 ユミリにぶつけられて、スイカも思わず一歩退いた。すると、スイカは後ろの和祁に寄りかかってきた。密着した。


 それに、スイカは片足は真っ直ぐ伸ばされて、和祁の両足の間に入った。


 連鎖で、そんな曖昧な仕草に、なってしまっている。


 突然すぎるので、和祁もユミリも呆れている。


「だい、大丈夫ですか?気をつけてください。」

 真弓も状況に気付き注意した。


 一方、和祁が見下ろすと、スイカの綺麗な形した足が目に入った。


 しかも近い、股間の下に。


 今かってに動くと事故を起こすかもしれないから、和祁は動かずにただ加速していく鼓動を抑えている。


 彼には見えないが、スイカの顔は真っ赤に染まっている。彼女も今の仕草の曖昧さを思い知っている。自分の背が和祁の起伏する腹に張り付いていて、軽挙妄動できない。


(カツケの匂いがする。)







 ーーーーーーーーーーーーーーー


 和祁達がはしゃぐのと同時に、ある部屋である少女が大きなスクリーンを見ている。


 スクリーンに映ったのは、衛星で撮ったスイカの屋敷の映像だった。


 長い金髪が腕に垂れ下がる少女は手を振ると、髪が煙みたいに揺らいだ。


「ディス家ですね、正門から入らせていただきます。」



 18:02ーーーースイカの屋敷ーーーーリビングルーム


 広いリビングルームの東に食事用の大きなテーブルがある。

 和祁、スイカ、ユミリ、真弓がそれを囲んで夕食を食べている。


 和祁はホットケーキを食べてみた。

(確かに特別だな。いくつかの味が混ざってるけど、気持ち悪いとは思わない。逆にとても美味しい。)


「良いですね!」

 ユミリも称賛した。


「お口にあえて、光栄でございます。」


「洋菓子ですけど、なんか日本の感じがしますね。」


「日本の食材を込めましたから。」


「日本料理偉いですね!」


「ですからわたくしは……」


 ユミリと真弓は楽しそうに話している。


(このふたり、仲良くなれるかも。)

 スイカはなんとなく思った。

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