専属メイドさん(2)

2025/3/13(木)ーーーー14:24ーーーー星間島ーーーースイカの屋敷


「ということで、ユミリさんは花見に行きたいようだね。」

 スイカは和祁に耳打ちして相談する。


「あっ、うん。」


「そして私は行きたくない。」


「うん。」


「うんじゃねぇよ、私行きたくない、どうする?」


「確かに花見の時だな、公園は賑やかなるだろ。」


「ちょっと、聞いてる?」


 スイカは手を目の前まで伸び上げて、わざと聞いていない振りをした和祁のえりを掴んだ。


 傍らに見ているユミリは目がキラキラしている。

(何を話しているのかわからりませんけど、スイカちゃん可愛いです!)


「まぉ、別にいいだろ。気分転換にもなれるし。ユミリさんと仲良く出来るし。」


「婚約者さんと仲良くするべきなのはカツケでしょうが。私のかわりに行ってほしい。」


「いや。」


「じゃ、花見の時間はもうすぎたと嘘つく?」


「ユミリさんをバカにしてるの?」


「星間島は特別だって言えば。」


「スイカ、あなたいつ腹黒くなった。」


「うわ、ならどうしよう?」


「スイカが誘われてると思う、ちょっと付き合ってあげた方がいいだろ。」


「誘われ?」


「花見に行きたい理由はスイカと仲良くするかもな。」


「うっ……考えとく。」

 スイカは手を顎に当て、考え込んでいく。

(もしかして私になにか企みあるのか?私に対する情熱さもわざとらしい。うわ、ユミリさんって恐るべし。)

 そして、スイカはこういう結論を手に入れた。


 だんだん近付く足音がスイカと和祁の会話を中止させた。


 それは玄関の外のところ、ちょっと遠いけど、訓練を受けた和祁達にははっきり聞こえた。


 そして解錠する音がした。


「えっ?誰ですか?」

 ユミリもそれに気付いて、思わずたずねた。


 リビングルームでははっきり玄関のところが見える。

 入ってきたのは巻き毛の少女。身長は和祁と同じくらいで、粋な服を着ていて、お姉さんっぽい。


 彼女を見たところで、ユミリはすぐ飛び出した。

「スイカちゃんはわたしが守ります!」

 不審者だと思い込んで、ユミリは震えながらスイカの前に立つ。


「わ、悪い人じゃないぞ。」

「っていうかすごく震えてますよ。」

 和祁とスイカはそれぞれにつっこんだ。


「悪い人じゃないのですか!?」


「どう見ても悪い人じゃないだろう(でしょう)!」

 和祁達は異口同音だった。


「never judge a book by its coverではありませんか?」

 ユミリは弁解する。

 それは英語のことわざ、見た目で判断してはいけないという意味だ。和祁も授業に教わったことがあるわ。


「こういう時にいうのか!」

 和祁はつっこんだ。


「……」

 スイカは聞き取れなかったのでつっこんでいない。パパはイギリス人だけど、彼女は英語が苦手だ。


「相変わらずお二人仲良いですね。それに、お客様自身がいらっしゃったのですね。わたくしは真弓と申します。この屋敷のメイドを務めてます。宜しくお願い致します。」


「メイドですね。はじめまして、その、わたし、は、ユミリです。あっ、偶然ですね、名前に二つのおんが同じです。」


 二つの音節が同じだが、違う国の名前だ。


「えっ、ユミリさんはあんまり興奮してないみたいね、メイドに会えたのに。」

 一方和祁は驚いたように言った。


「さすがにユミリさんはアニオタじゃないよね。」

 スイカは付き合うようにツッコミした。


「えっ?メイドといのは、maidでしょう?えっと、当たり前のものではおりませんか?」


「「…………」」

 しばし沈黙してから、和祁達は相槌を打つ。

「そうだな(ですね)。」


 だめだ、ユミリは正真正銘の外人お嬢様、次元が違いすぎる。


「ところで、昨夜も聞きましたけど、スイカちゃんの家は……その、人が少ないですね。」


 地雷に踏みそうな質問だった。


 ユミリにそう聞かれると、和祁は不安そうにスイカを睨んだ。


 スイカはただ実家からお小遣いを貰うだけで、実際は見捨てられた。だから家来も、親もここにいない。

 元はメイド達がいたけど、彼女達はめっちゃ悪い連中だがら、スイカに追い出された。その後真弓を雇ったのだ、普通の雇用関係だけで、ただ真弓はメイドのコスプレが好き。


 スイカは平然な顔している。それを見て和祁はホットした。

(まぁ、スイカはそんなことあんまり気にしないよな。)



「自分のことは自分でやっていいです。あんまり人手がいりません。節約っていうのです。」

 スイカそう答えた、嘘をついた。①


「oh、そうですか。セツヤクですね。家来達はその、給料ありで、休ませてるというわけですね?」

 すこし変わった言葉だ。


(やはり美徳と間違えてるわけじゃないよな。)

 和祁はつっこんだ。


 一方スイカは不機嫌になった。

(その言い方、皮肉り?喧嘩売る気?)

 そして、スイカは続けて嘘をつく。

「そうですよ。」


 傍らに真弓は微笑みながら彼女を見守っている。


「さすがスイカちゃん!その節約はすごいですね!わたしもスイカちゃんのようになりたいです!!」

 ユミリはスイカに飛びついて、彼女を抱きしめた。



「近づくな。離しなさい。それに、節約と言うのは……とにかく間違えてますよあなた。」

 スイカは苦しそうにあがいている。まぁ、本気であればたやすく抜け出せるけど。



 一方、真弓はハンカチを取り出して目を拭き始めた。


「どうしたの?」

 スイカ達を放っておいて、和祁はユミリに問いかかった。


「お嬢様がこんな仲のいい友達ができて、うれしゅうございます。」


「そうだよな。」

 和祁はその言葉に大賛成。そして彼はスイカとユミリがイチャイチャするシーンを観賞し始める。




 …………………



 15:06


「スイカ、身の上を、その、あんまり気にしなくていいよ。」


「いっ、いいえーーーー」

 スイカは否定しようと思ったが、和祁は言い続ける。


「昔の曲聞いても昔に戻れない。思い出したくなくても記憶は消せない。ただ前に進むだけ。」


「これ言いたかっただけてしょう。中二病再発したか。」


「せっかくかっこいい言葉思いついたのにな。」


「中二度高っ。」


「とにかく、スイカ、さっきのこと……」

 もちろん和祁はスイカが家来のことについて嘘をついたのに気付いた。


「いいえ、本当に気にしてないから。」


「無理しなくていいよ。」


「……」

 スイカ顔を下げた。

 実際彼女は身の上を知られたくないから嘘をついたわけではなかった。ただユミリに対抗心を燃やした。

 でも、ユミリに負けたくないなんて言えるはずもない。


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