お嬢様の来たる(5)

 スイカの頭を見下ろして、和祁はその水晶みたいにつやつやな髪に見惚れた。

「えっ?綺麗と思うけど。」


「オタクのカツケはわからないね。とにかく洗いたい。」

 スイカは強い眼差しで和祁を見上げる。


「明日真弓さん帰ってくるじゃん。一日我慢すればーーーー」

「明日帰るからこそ、いいイメージで出迎えたいの。」

「なら……ユミリさんに頼んだら?彼女はまだ寝てないじゃん。」

「バカか。お嬢様を使用人扱いする気?」

「手伝いだけだろう……ってか、僕は使用人!?」

「ふふ、私に仕えるのを栄光と思え。」

 思わず、スイカはお嬢様キャラを真似してみた。


「はいはい。」

 和祁は頷いた。やはり強気なスイカに抗うことは出来ない。


 24:12ーーーーバスルーム


 制服姿のままのスイカは椅子に座りながら、頭をかしげて和祁を見る。

「早く始めて。」


「えっ?このまま?」

 和祁は疑いめいた声を出した。


「はい?」

 スイカは目を細める。

(まさか私のタオル姿が見れると思った?)


「その、制服が濡れると逆にスケスケじゃないか?」



 と、和祁に言われたら、スイカは悟って、顔を赤くした。


 彼女は目を細めてふと床を見下ろす。


(いや、それを防ぐため、私の制服は防水でオーダーメイドしてるんだけど。でも、確かに、大量の水をかけられたら透けるかどうか確かめたことないし。念の為やはり……)


「ちょっと出てけ。」

 しばらく考えてから、スイカは命令を出す。




 和祁ぎ再びバスルームに入った時、タオルだけを身につけたスイカは彼の目を奪った。

 スイカは小柄なので、ピンクのタオルは胸元から脛までの部分を覆っている。そして胸の膨らみは全然見えない。

 だけど、腰とお尻の曲線はとても可愛い。普段見えない肩と足もはみ出ている。その足は贅肉がなくて、足指は角張った形をしていて華奢に見えていてとても綺麗。それに肌が白くて、脈などの目障りも見えない。


 ちなみに、肩にブラの紐が見えないから、スイカは下着を着ていない可能性は高い。



 まぁ、和祁はそれに気付いていない。


「ちょっと、タオルを制服の外に巻けばよかったな。」

 急に、和祁は名案を思いついた。


「……」

 スイカは目を細めて和祁を睨む。


 でも今更はもう遅い。


 スイカはゆっくりと椅子に腰をかける。後ろにいる和祁の気配を感じて、思わずに腕でタオルを強く押す。


 こんな状況は初めて。


 そして、スイカは確かに下着を着ていない。


 緊張する。



 和祁は水の満ちたバケツをスイカの後ろに置いてから、そのまましゃがんだ。

 彼はシャンプーを取る時、視線が自然にスイカの肩に落ちる。

 無垢な肌と脆そうな骨。


「……どうやって……?」

 本当に始めようとする時、和祁は迷った。髪が長すぎて完全に浸けるのは困難だった。


「どうした?」

「いや、その、シャワーでいい?」

「私は構わない。」


 スイカは頷いた。だけどシャワーを使えば和祁自身がびしょびしょになりやすい。和祁はまだちゃんとした制服姿でいる。


 最後、和祁はタオルで髪を洗うことにした。


 タオルと髪の摩擦する感じがつるつるで、洗うのが手軽だった。


 水とシャンプーが混ざりあって、泡が生じる。楽園のような雰囲気が出た。


 和祁がこしこしと洗いつつあり、スイカの気持ちも緊張からだんだん緩まっていく。


 尋ねる必要もなく、褒め言葉もいらず、二人は沈黙の安寧を堪能している。



(このままずっと続けばいいの。終わりたくない。)

 と、スイカは祈った。実際彼女の髪の長さからすると、確かにまだまだ終わりではなさそうだ。


 一方、和祁は疲れたのか、動きが遅くなった。でもなんか心の中に喜びが感じられる。


「ながっ。」

 と、和祁はつい呟いた。


「だからユミリさんにやらせちゃダメだって。」


「真弓さんも大変だよな、更に褒めてあげないと。」

「ふふ、真弓さんの苦労を思い知ったよね?だから執事になろうなんて、私はカツケみたいな暇な人を飼わないわ。」


「うむっ。」

 今朝のことを思い出すと、和祁はなかなか恥ずかしく思った。


「それにーーーー」


「それに?」


「いや別に。」

 スイカは何かを言おうとしたが諦めたようだ。


 和祁はその顔が見えないから、スイカの言いたいことを推測できない。


「ついでに体洗わない?」

 唐突に、和祁が尋ねた。


「はぁ?体?あなたが?」

 スイカは冷たい声で言った。それは『私の体を洗うつもりかお前』という意味だった。


「いや…」

 和祁はただ話題を変えようとしたが、変な言葉遣いをしてしまった。


「まぁ、気分によってね。」

 もちろんスイカは和祁の意味がわかる。



「ところで、やはり小さいよな。」

 急に、和祁はそう言った。


「うん。体も、胸も。」

 事実だし、スイカは素直に認めた。


「肩も。」


「えっ?」


 そして和祁は右手でスイカの肩や首のあたりを握った。


 悪意を感じないから、スイカは阻止していない。


「まるで子猫を抱いてるような感じ。」

 和祁は何気なくそう表現した。


「え?えっ!?」


 スイカが驚き声を出すと、和祁は慌てて手を離した。

「いやなのか?」


「ふっ!カツケは子猫抱いたことあるのね!羨ましい!ずるい!」


「そこなの!」


「覚えてるよ、以前カツケは子猫だいたってひけらかしたのね。」


「スイカは抱いたことないのか?」


「うん。あんまりチャンスないから。」


「でも今日は犬抱いたよな、同じもんだし。」


「その件言うでない!噛まれたぞ、私は!やはり猫がいい!」


「僕もそう思う。」

 和祁は同意した。弱気な彼も幼い頃から犬が苦手だった。


「ところで、カツケ。その……私はバカ力があるけど……体はあんまり強くはないよ。本当に子猫のように脆いから。私のことを、大事にしてね。」

 スイカは恥ずかしさをこらえて、こんな言葉を口から絞り出した。


「うん、わかってる。あっ、水が汚れた、そろそろ替えようか。」

 和祁はバケツの濁った水を指さして、スイカに任せるつもりだ。


「わかってねぇな!」



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