お嬢様の来たる(2)

「あんまり大きな屋敷に見えませんが、実際中にも当主から下僕まで一切なしです。私と一人のメイドさんだけが住んでます。今日からあなたも住んで来ますのね?楽しく暮らせるなら私も喜ぶんです。」


 実は暗くて何も見えないけど、スイカは何気なく続けて紹介した。


「あっ、はい。」

 ユミリはスイカの言葉を『今夜は泊まっていい』とした。そして感謝するように気軽に受け止めた。


「これからの日々宜しくお願いします。」


「えっ?」

 そう言われて、ユミリは呆れた。


「カツケも早く何か言ってよ、新しい同居者だし。」


「うん、その、とりあえず、よろしく頼む。」

 和祁はいいながらぎこちない笑顔を見せた。


「よっ、よろしく、お願いします。あの、その気持ちは受けますけど、ちょっと間違ってません、んか?今晩は止まることにしますけど、いつもここ、に住み、住むわけではません。」

 下手な日本語は和祁達にユミリが外人だったことを思い出させる。


「誤解してるのはあなたでしょう?まだわかってませんか?あなたを助けた理由!」

 突然、スイカは不機嫌に言った。


「リーユー?」

 ユミリはその言葉を繰り返した。


「私は命賭けて知らない人を助けるお人好しなんてじゃありません!私はなんの目にあったのかわかってないんですね!恩人に対してこんな態度ですか??」


 さっき犯罪者達にかかれた恥を思い出し、スイカの怒りはやがて爆発した。


 狂気に染まるスイカに、ユミリだけでなく和祁も驚いた。彼も常にスイカに叱られるけど、そこまで冷静さを失うのは珍しい、特に知らない人の前で。


 金はいくらでもあります、あげますーーーーと言おうとしたが、ユミリはやはり黙った方がいいと思った。


 自分が見上げられている方がだけど、ユミリは逆に小柄なスイカから圧迫力を感じる。


「スイカ、どうしたんだ?」

 口喧嘩は良くないと、和祁は勇気を出してスイカを止めようとする。


「……別に……」

 蚊のように小さい声だった。スイカも自分の失態に気づいた。


「ちょっと……」

 ユミリは急に信じられない顔して、聞き出した。

「スイカというのですか?まさか……スイカ・ディスです……か?」


「えっ?」

 初めて会ったはずの人に名前を呼ばれて、スイカは呆れたような顔をする。


「白鷺スイカだよ。」

 スイカにとって氏族の苗字は禁物。和祁はスイカを怒らせないように言った。


「えっ、人違いですね、ごめんなさい。」


「いや、確かに……私をそう呼ぶ人もいます。」

 スイカは恐る恐る答えた。

 自分はその氏族の子孫だったことを認めたがらないけど、ユミリに真実を隠すわけにも行かない。


「やはりですか!ごめんなさい!!ずっと気づいてませんでした!!!」

 ユミリはすごく楽しく見えている。彼女は一歩進んでスイカの手を取った。


「えっ?」

 今度迷ったのはスイカの方だ。


 和祁は空気を読んで退いた。


「わたしったら、本当に馬鹿でした。スイカちゃんの気持ち気づけなくて、ごめんなさい!許してください!」

 ユミリは頭を下げてそう言った。



 スイカは更にわけわからなくなってしまう。まるで疑問符は頭の上に浮かんでいるみたい。


「ずっとーーーー」

 ユミリは楽しそうにまた何かを話そうしているが、言葉をスイカに絶たれた。


「ちょっと、ちょっと、ちょっと、どういうことなんですか?」

 スイカは一旦事情を聞こうとする。


「えっ?わたしのこととても心配で、助けてくれたんでしょう?すべてわたしのためだったのに、わたしは礼を言わなくて、怒ったのでしょう?ごめんなさい、もう一度礼を言います。」


「それは一応合ってますけど……ですけど、どうして私の名前を?」


「酷いですね、スイカちゃん。わたしの、その、覚える能力を舐めるなんて。スイカ・ディスという名前はずっと覚えてますよ。」


「スイカでいいです。いや、どうして私の名前を知ってるのか聞いてますの。」


「当然覚えてます!」


 ユミリは『覚える』という言葉を使っている、間違いとは思えない。


 そして、ユミリは語り続けていく。


「スイカちゃんは小学校のころ、わたしの館に来たのではありませんか?」



「あっ……」

 スイカは納得した。ラフェル家はディス家の仲間だ、確かに自分はラフェル家に連れらたことがあるかもしれない。

 スイカはそれを覚えていないけど、今は大体事情をわかった。


「楽しかったですよ。それにーーーー」

「それに?」

「それからはずっと日本に行ってスイカちゃんに会いたかったのです。そのために日本語を学んでいます!」

「そう、そうなんですね。やはり……状況は複雑ですね、まずきゃくまに入りましょう。」

「キャクマ?」

「リビングルームのことです。」

「うん。わかりました。」


「カツケ、鍵はまだ?おい、財布を噛むな!」


 和祁はさっきもらった財布の飾りを噛んでいて、本物の黄金なのか確かめている。

 普段はスマホで玄関の門を開くけど、権限を持ったスイカのスマホは電池が切れている。


「歯の跡が、のこるんだな、黄金だな。」

「……よだれも残ってる……」

「すまん、興奮しすぎて。鍵ってどれ?」

 和祁はキーホルダーを見つけたけど、鍵が多い。


「ユミリさんが起きてきてよかったね。」

 と言って、スイカは和祁からキーホルダーを奪い取って、門を開けた。


 そして三人は中に入った。


「暗いですね。」

 ユミリが言ったが早いか、スイカはスイッチを押して明かりをつけた。

 客間の大きい空間は瞬間に白い光に照らされて、天国みたいな感じだった。


「小さくありませんよ。」

 ユミリは称賛しているけど、逆にスイカに不快を与えた。


(大きくないと思ってるんだね、ちっ、生意気なお嬢様だね。)

 と、スイカは思った。そして彼女は自然に視線を下ろすと、ユミリの裸足が目に入った。

「ちょっと!なぜ靴脱ぐのですか?」


「日本では家に入る時靴を脱ぐのではありませんか?」

 ユミリは頭を傾げる。

 彼女の両足は直接に寒い床に触れている。足の形はポチャリで、足指もちょっと太い。爪はちゃんと切っている。

 なんか、セクシー。


 和祁はそっとユミリの裸足を睨んでいる。

(この太さはちょうどだな。スイカみたいな直線的な感じはより美しいはずだけど……なんか、こんなのも悪くないな。)

 健全な男として、和祁はもちろんエロいことを考える。



「洋式屋敷ではい要りませんよ。」

「そっ、そうですか。」


 そしてユミリは靴を履き返そうとする。まずは左足を靴に突っ込もうとしたが、失敗して靴を押し退けた。そして足指で靴を引き返した。


 可愛い動き。


 和祁は見惚れている。

 それは足フェチの和祁に致死量のダメージを与えそうだった。


 一方そんな和祁に気づいて、スイカは不快を覚えた。


 ーーーーーー


 しばらく、三人は席についた。それはテーブルをl¯¯lのように囲んだ三つのソファー。和祁は中間のに座って、スイカは右で、ユミリは左。


 スイカは慎みそうに膝を合わせて綺麗に座っていて、両手を太ももに置いて握り合う。彼女は真剣にユミリを見つめている。

 、その視線は剣のように鋭い。

 和祁は気まずさを感じたが、これこそ伝説の修羅場だとは思いつけない。


 一方、要としたユミリの方はーーーー

(スイカちゃんかわいいです!本当にわたしのこと大事にしてますね!!)


 結果的には、スイカの視線で脅かし計画は失敗した。


「まず、今の状況を、あなたの視点で語ってくれていいですか?」

「えっと、シテンってなんですか?」

「うっ、それは、つまり、viewです。」


 まずは相手から情報を取ると、スイカは思った。


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