誰かと付き合ってみたい(4)

 15:54


 窓越しに、ゆっくりと過ぎていく景色が見える。電車の濁った空気に意識を奪われそうな人々を自然の美しさで救い出す。

 星間島は人工島で、もちろん現代の都市かま大きな面積をカバーしている。しかし、山や川なども少なくない。植物のカバー率も高い。

 いつも灰色のビルに囲まれた人達にとって、それは美しく新鮮感のある風景。


 車内の人はあんまり多くないけど、空いた席はもうなくなった。

 スイカはせっかく取った席にのんびりと足を組んで座っている。隣の人の体に押されているけど、彼女は気にしていない。

 さっき電車に入った時、察しのいいスイカと和祁は早速押しあった人込み越しに、唯一残った席を発見した。

 スイカは直ちに猫のようにすらと飛び出して、人と人の隙間を越えて、席についた。

 そして、和祁はそばで立っていて彼女を見るしかできない。


 スイカはスマホをいじっている。


(僕も曲聴きたい!)

 前思わずにスマホをスイカに渡したけど、今和祁も暇だ。

 でも今更素直に言い出せない。スマホを取り戻すくらいなら、最初から渡さなかった方がよかった。

 一緒に曲を聞くと提案したら、潔く断られるだろし。さすがそれは馴れ馴れしすぎる。

 そしていつもスイカのニーソ履いた足を観賞するのも変態らしいし、すぐ気付かれてしまうし。


 だから、彼は風景を見ることにした。



 一方、スイカは落ち着いたように見えるけど、心の中では波が打つ。

 和祁のスマホを自分だけがいじるのはやはり良くなさそうだと、彼女はイライラしている。

(いや、気にするな。曲を聴き、昼寝の続きを!)

 と、彼女は目を閉じたが早いか、何かの気配が彼女を目覚めさせた。

「カツケ?」

 彼女は自分に近付こうとする和祁に声をかけた。


「あっ。」

 和祁は驚いた様に見えて、手はスイカに伸ばしかけたまま。


 疑問を抱いて、スイカは頭を傾げて、綺麗な目を見開いた。


 空気の中、二人の視線が絡む。


 和祁はぼうっとするだけで、さらにスイカの疑問を増やす。


「?」

 スイカは理解できないように和祁を見つめている。


 そして、魔が差したみたいに、和祁は思わずにその手を続けて伸ばしていくーーーースイカの目へと。


 思いもよらなかった動きだから、スイカの反応は一拍遅くなった。

 和祁の手はスイカの瞳に触れる寸前だった。


 幸いスイカは頭を動いて避けた。


「ちょっと、危ないだぞ?!私の目を潰す気か!?」

 信じられないげど、今和祁は絶対スイカの瞳を触るつもりに違いない。


「あっ、いや、僕も……なんとなく……それより…」

 和祁もわけを知っていない。彼は気が付いたら、もう終わりだった。知っているのは自分はへんなことをした、それだけだ。


「それより?」

 スイカは片耳のイヤホンを外して、会話をする。


「さっき入ってきたOL、おかしくない?そこに立ってるやつ。カバンにへんな紋がある。」

「はぁ?どこに問題ある?普通のOLでしょ。まぁ、その紋は確かに変だね。」

「そっか。気のせいか。」

「一体どうしたの?」

「そいつはこっちを睨んでるような気がする。」


 二人はOLのことを話し始めて、さっき和祁の危なかった動きを放っておいた。なぜならば、二人はお互いを信じていて、その些細なことを気にしていない。

 時にはこういう信頼は油断をもたらす。



「和祁が見てるから、見返したってわけじゃない?」

「そうじゃないと思う。それなら僕もわかるはず。」

「だからこそ、気のせいというものでしょ?」

「でも……僕は密かに彼女を見ただけ、気付かれるはずがない。」

 武装学園の生徒として、和祁も垣間見るのを練習していた。


「察しのいい人だけでしょ。でも確かに気付かれるとはね……」

 スイカもわかる。和祁はいつも慎むように動く。しばらく、彼女は続けて言った。

「それに、そいつが能力者だとしても、私達に関係ないでしょ。犯罪者だとしても、他の誰かが彼女を捕まえる。」

「それはそうだけど……でもスイカ、その言葉、フラグらしいな。」

「フラグなんかじゃないわ。私達みたいな存在感のない普通の高校生は、変な事件に巻き込まれないはず。」


「でも……」

「それに私は強運を持つのよ、3パックごとレジェンド1枚くらいの強運。」

 冗談を言って、スイカ自分が笑い声を漏らした。


「だけど…」

 和祁はまたそのOLを見た。彼女はさっきのままに立っている。


「ほら、大勢の前に他人の陰口言うな。本当カツケはそのOLの外見に見惚れただけなんじゃないの?」

「いや、綺麗かもしれないけど、おばあさんに見えて、好きになれない。」


「おばあさんと呼ぶのは、酷いね。」

 スイカはツッコミした。そのOLの外見から見ると、和祁達とはあんまり年齢差がなさそうだ。高校卒業したばかりだった可能性もある。


「あっそうだ、その人のスカートを見て。」

 何かに気付いたらしく、和祁は急に目を見開いた。


「スカートって、やはりその人に惹かれてんじゃないか?」

 言いながら、スイカも好奇心に満ちたこねこみたいにそのOLを見ていく。


「ありえない、年上キャラに興味ないって。あなたを見た方がマシかも。」

 ふと、和祁はスイカに振り返りそう言った。


「……………………うん!?」

 スイカはしばしポカンとしてからいつもの冷静さを捨てて驚き声を漏らした。

 その言葉はスイカの外見を褒めているに違いない。突然の褒め言葉に彼女は慌てた。

 でも落ち着くと、その言葉に変なところがあると、スイカはなんとなく気付いた。


「ましって、私の外見に文句あるの?」

「いや!そんなわけないって。」


 直接スイカを褒めるのは変だから、和祁は言葉遣いを変えていた。


「本当?」

 スイカは見逃すつもりはない。


 だけど電車は止まった。


 和祁達もこの駅で降りるべき。

「すいません。」

 和祁はお願いしながら、辛く門へと歩く。


 小柄なスイカはそうする必要がなくて、一目散に電車から飛び出した。

 そして彼女は電車内にいた和祁に振り返った。


 和祁は電車を出るまで、正確にいうと人込みに押し出されるまで、ずっとOLのいた場所を見ている。

 しかし、OLの姿がない。

 彼女もこの駅で降りたのか?あるいは人込みに隠れたのか?



 空港の近くまで歩いたあと、和祁はまだそのOLのことを考えている。

「ぼうっとしたら、犬のうんちを踏みつけちゃうわ。」

 耳元から入ったスイカの声は和祁を不意打ちした。

 和祁がぼうっとするのを見て、スイカは密かに背伸びして口を彼の耳に近付けて声をかけた。


 二人は歩道を歩いている。ぼうっとするとやはり危険だろと、スイカはそうした。



「さすがこんなところでうんちなどないだろ。」

 和祁は確実に驚かされたけど、冷静さを保っていて、余裕のある声で即答した。


「最悪を覚悟するってことわざあるんじゃん。」

「ないだろ。」

「油断するな。気配なく現れるものこそ敵よ。」

「うんちはそうするものじゃないだろ。」

 二人はふざけ合う。


「あっ、あぶーーーー!!」

 急にスイカは絶句となった叫びを上げた。同時に和祁に手を伸ばした。

「うん?」

 和祁が迷ううち、スイカは彼の腕を掴んでいきた。


 しかし、それだけでは和祁の足を止められなかった。

 最後、和祁はそれを踏んだ。

「ワンワンンン!!!」

「うわっ!うわわわ!!」

 尻尾を踏まれた犬は吠える。そして和祁も負けないように大きな声で叫びだした。


「結局敵はうんちじゃなくて、犬か。」

 スイカは犬の和祁を傍観して、信号機を睨んだ。


 そして信号機は青になった瞬間を狙い、スイカは和祁の手を掴んで凄まじいスピードで走り出した。


「やめて!ちょっと!!!」

「これくらいの早さでもダメか?最近の体作りまたサボったの?」

「いや!そうじゃなくて!その!……うしろ、うしろ見て…」

「うん?」

「犬がついてて、危ない!」

「はぁ?まだ付いてるの?だったら走り続けば逃げ切れるでしょ。」

「そうじゃなくて!後ろ見ろ!」

 和祁はそう叫んだ。

 スイカは迷いながら後ろに振り向く。




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