プロローグ 許嫁のお知らせ(2)

「あなたからの借金まだ返済されてないではありませんか。それの一部を仕事で返したいです。」

諦めずに、和祁は事情を語って、もう一度お願いした。


「私をバカにするなよ?どうせ和祁はただ金欲しいだろう?まぁ…もう一回チャンスをあげようか。それでは、戦闘力の試験を、始める。」

「戦闘力か…なんで?」

「執事はご主人を守るべきだからね。」

(それは用心棒の仕事ではないか…)

和祁は心の中でつっこんだが、口ではその説明を納得した。

「わかっ…りました。でも僕こそ守られる方でしょ?」

スイカはちっちゃくて華奢に見えるのだが、実際近接戦能力と総合戦闘力は学園にS級と評定された。一方で、和祁は体の弱い非戦闘員である。

「と言っても、屋敷を守るくらいの力必要だろ?」

「はい…」

「試験の内容はね、私を傷付けること。ちょっとした傷だとしても、合格。」

まさかこういう試験か。和祁は全然予想できなかった。もと、彼は試験がただスイカと一戦すると思っていた。

和祁にとって出来る可能性はほぼゼロほどの大変難しい試験の内容を、スイカがはっきりと彼に知らせた。

それは不合格を宣告したも同然。

しかも和祁はスイカを傷付けたがらない。なぜならば、親友だから。


「もちろん武器使っていい。ここハサミあるよ。」

言いながら、スイカはテーブルに置いてある鋏を指さしている。

「ナイフなら台所にある。そして、銃でもいいわよ。」

スイカは腰につけられたホルスターから、拳銃一本を抜き出してテーブルに置いた。

それは完全に黒に染まれた拳銃である。置かれたとき重い声がした。

「…」

(これではやるしかないだな)

と、和祁は覚悟して、いじいじと、手を鋏へ伸ばす。こうしながら、彼はスイカを余所見している。ついに、彼女の胸元を見た。

鼓動のゆえ、そこはゆるやかに起伏している。

それを見たが早いか、和祁は突然壊れた機械のように動きを止めて、手だけが激しく震え出していった。

ナイフで、その胸を突き刺した映像が、和祁の脳裏に浮かんできていたから。

(いやいや、流石にそんなこと、僕ではできないだろ。)

何回も自分を慰めたけど、和祁はまだそんな予想を追い払えなかった。

「どうしたの?別にそんなに緊張しなくてもいいのよ?ど…」

「どうせ合格できないって言いたかったんでしょ?」

和祁は作り笑いをみせて、ツッコミをして、少々ショックから立ち直ってきた。

考えが見透かされたゆえ、スイカの顔は赤くなった。そして、弁解できずに、返事をした。

「そうだよ。だって和祁弱すぎっ。まぁ、軽んじるわけじゃないけど。」

「それな。」

(僕にやはり、スイカを傷付ける力がない。)

悔しくなんかなく、嬉しい。

こう考えると、和祁はほぼ落ち着いてきた



だけど、勝ち目がないと知っていても、彼は頑張るつもり。

彼の頑張って戦うところを見たら変則的に執事やらせるかもしれないと。

和祁は手を鋏から離し、拳銃に目を注ぐ。

(うむっ、銃強いけど、やはり危険過ぎて駄目だね…そして鋏弱いし…)

「ナイフでお願いします。」

「はい。私がもってくる。」

スイカはすいすいと立ち上がって台所て走っていく。その姿まるでことり、あるいはこねこのようで、とても可愛くて。その上、動いている黒ニーソの足が、和祁にとって大きな誘惑だ。

実は、和祁にその足をいじるのを想像したことが何度もある。

彼は正真正銘の足フェチである。



間もなく、スイカはナイフを持っていて帰ってきた。

ナイフを受け取って、和祁は深呼吸した。

「スイカ、いつから始めます?」

「今は、スイカさん、あるいはスイカ嬢さまって呼んでください。試験の始まる時間なら、あなたで決める。知らせてくれる必要もなく、攻めてくる時、始まる。」

わずかだけ手加減だが、規則は和祁に有利。

彼は何回深呼吸をして、自分を落ち着かせる。

ナイフを振りかざしながら前に踏み出した彼は、スイカの手を刺そうとする。

そして次の瞬間、ナイフを持っている手が動けなくなったことを、和祁が気付けた。

腕はスイカに掴まれたから。

そこから激痛が走っていくので、和祁は思わずに手を離した。それで、ナイフは投げられたみたいで、高く飛んでいく。

同時に、和祁はスイカからの瞬発の一撃を受け、後ろへ倒れた。

疑いなく、彼はもう負けた。

こういう結果は予想されたが、流石に早すぎた。

「もう終わり──」

スイカは結果を告げ始めたばかりで、落ちてくるナイフに気づき、彼女は手を振ってナイフを弾き飛ばしたけど、手の甲に長くて大きい傷口を残した。どんどん流れ出す血は静かにその手を伝い、床に落ちていく。

これゆえ、彼女の言葉は中途半端だった。

二人ともあっけらかんとなってお互いを見詰める。

「あっ、あのー」

ちょっとした沈黙のあと、和祁が慌てて立ち上がりじどろもどろした。

「いやいやいや!意外!これは意外だ!あなたの実力を示せないで、試験の結果にはならん!」

スイカはもっとどぎまぎしているみたいで、大声出したり、一息に長い言葉を言って終わった。

こんなスイカを見て、和祁は冷静さを少し取り戻した。

「そ、それより、怪我大丈夫?医者呼ぶのか?」

心配そうな言葉を聞き、スイカはしばらくポカンとしていた。

「ただ皮が破れたみたい。大丈夫と思うわ。」

「そうか、よかった。」

( ´ ω ` )のような顔を、和祁が見せた。

スイカがいくつかの魔法陣みたいな光るものを身に現れさせた。それらは体の違う部位に差し込んでいる。輝いているけど、全然眩しく思えなくて、まるで光っていないようなもの。実在するものと重なる部分も見えなくなるし。それに、何のものにも影響を与えられなくて、空気より空気らしいものである。

だからこそ、こういうものに幻紋(イールサレライト)という名がつけられている。

幻紋は人造のもので、それをつけた人間の身体能力は強化され、幻紋が多いほど強くなる。人は幻紋技術で改造されれば、幻紋は彼の体のランダムところに秘める、そしてその位置は変わることない。使うとき、幻紋は現れる。

大体こんなものだ。

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