第三話 彗星
「……、霧島恋…………」
宙に浮く少女。辺りは草原に澄んだ青空が広がっている。赤い瞳が見つめる先には、熊のような風貌をした大男と、黒髪でこの世界に似つかない服装をした少年が歩いていた。
*
ガシャン……。という音と共に、狼の見た目をした斬傀がその場に倒れ込んだ。
「と、まぁこのとおりだ。斬傀の弱点は身体のどこかに必ずあるコアだな。心臓の役割を果たすんだが、中の赤い液体が何でできてるかは知らん! 」
ベアは自信満々にそう語った。僕は斬傀の死体?に近づき、壊れたコアから零れ落ちた液体の匂いを嗅いだ。
何の匂いもしない。
これが血液なら、鉄のような匂いがすると思ったのだが……。
僕は続けざまに骨を構成している金属に触れる。グ二ッ……。金属だと思っていた骨に触ると、少しの力で曲がってしまった。
「その金属なんだが、どうにも普通の金属とおなじ硬さなのに、ゴムみたいに簡単に曲がっちまうんだ。俺が見た斬傀の骨は全部その素材でできてたな」
「なるほど……」
軽く色々なところを調べつつ、話を聞いた。あらかた表面的な部分は調べ終え、僕はスクッと立ち上がる。
「色々気になるところは調べ終えました」
「そうか! なんか分かったことはあったか? 」
「特に大発見のようなものはありませんが、疑問点は沢山出てきました」
「そりゃそうだろうな。とりあえず拠点に戻って話をしようぜ」
ベアは言い終える前に歩き出し、僕はそれについて行った。
「やはり、間違いない……」
少女は、空から黒髪の少年を見つめる。
「あの石版は始まりに過ぎない。今始まったんだ…………終末が……」
**************
拠点に戻ると、洞穴の前に人が居た。忍び足で洞穴の中に入ろうとしている。
僕より先を歩いているベアは、その人の肩に手を置いた。すると、その人は振り返り、ベアの姿が目に入っただろう。
「……あ…………ああ…………」
その人もとい少女は、口をパクパクさせて声にならない悲鳴をあげていた。
「すまん……! 驚かせるつもりはなかった……」
ベアがそう口にすると、少女は泡を吹いてその場に倒れ込んだ。
ああ、きっとさっきの僕もこんな感じだったのだろう……。
「やべ……こいつどうしよう?」
「気絶しちゃった以上寝かせてあげるしかないんじゃないですか?」
「そ、そうだな」
ベアは戸惑いながらも、少女を軽々と持ち上げる。そしてそのまま洞穴の奥へ入っていく。
肩に少女を抱えながら歩くその姿は、まさに、町娘を攫うオークであった。
「アイサ! こいつ寝かせてあげられるか? 」
洞穴の奥へついて行くと、アイサが小さな石を叩いて尖らせていた。いわゆる石器と言うやつだろう。
「気絶してるが……何かしたのか? 」
「い、いや……ちょっとな? 」
「まったく……」
アイサは少女を受け取り、藁で出来たシートにゆっくりと寝かせた。
「と、とりあえず、飯にするか! 」
「はぁ……そうだな。適当に作ってくれ」
「おう! 」
そう言うと、ベアは洞穴の奥にある窪みから小さな布袋を取り出す。それを持って、坂を上っていく。僕とアイサも続けてテーブルの場所まで歩いた。
「なぁ、レン」
彼女が突然話しかける。
「なんですか? 」
「その〜なんだ……敬語やめてくれないか? 」
髪を掻きながら続ける。
「私たちは仲間だろ? その関係にある障壁は全てなくした方がいい」
仲間。そんな風に思ってくれていたことに対する驚きと、嬉しさが混ざりあって変な気持ちになっている。
「で、でも僕まだ出会って半日ですよ? 」
「関係ないだろ。話しているうちにアンタが悪いヤツじゃないってのは感じ取れた。どうせこの辺に他の人間は生きちゃいないだろうから、行くあてもないだろ? なにより仲間は多いほどいい」
そう言うと、アイサは手をパンっと叩いた。
「はい、今から敬語禁止。いいね? 」
「わ、分かった」
「うん。それでいい」
彼女はとても上機嫌になったように見えた。
そんな話をしているうちにテーブルに着いた僕らは、今日あった疑問点と、まだ聞いていなかったこの世界についてを詳しく話しあった。
*
「ちょっと運動してくる」
そう言って、アイサは食後の運動に向かった。僕とベアは互いの世界について軽く談笑しあっていた。すると……。
「あ、あの……」
突然か弱い声が聞こえ、振り向くと、先程気絶してしまった少女が立っていた。オレンジ色の髪に整った顔立ち。服装はこの世界の住民のように見える。しかし、彼女はミカンの髪飾りをつけていた。
「起きたのか。悪ぃな驚かせちまって」
ベアはできるだけ優しく話しかけるが、やはり彼女は怯えて話せなくなっている。なので、僕の方から話しかけることにした。
「名前はなんて言うの? 」
「えぇと、
「そ、その名前って!? 」
ベアが反応して、また怯えてしまった。ベアは悪ぃと言って、深呼吸をした。
「多分だけど、元々日本にいたんだよね? どうやってこの世界に来たの? 」
さっきまで右も左も分からなかったくせに、こんなふうに話してる自分に少し恥ずかしくなった。しかし、彗星未来からの返事でそんなのは全て吹っ飛んでしまった。
「個体ナンバー1001と名乗る人に無理やりこの世界に飛ばされました」
「個体……ナンバー……」
聞き覚えがある。僕が絢香と出かけるために準備をしている時、背後に現れた何者かが名乗っていた言葉。
「彗星さん、もう少し詳しく教えて貰ってもいい? 」
「は、はい」
ベアは三人分のジュースを作って僕たちの前に置いた。そして、僕達は彗星未来の話に耳を傾けた。
終末未来 二階堂 萌奈 @Nikaido8novel
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