1話

「うーん……」

 一人個室の中、腕を組み唸り続ける男子。

 ……いや、俺の事なんだけど。

「結局、ダメなのか」

 はぁ、と深いため息をつき、その机に突っ伏した。


 五月一日、日曜日。

 高校生になって、早くも一か月が経ってしまった。

 高校一年生、高橋裕翔たかはしゆうと。別に特技とかあるわけはなく、そこら辺にいる、普通の高校生だ。……そんなこと言ったら、周りの高校生に失礼か。

 一応趣味としては、音楽を聴くこととか、……なのかな。

 今俺がこんな状況になっているのは、納得のいく世界が書けないから。

「…………」

 顔を上げ、もう一度さっき作ったプロットを、まじまじと見る。

 何度見ても、納得がいかない。もういっそ、破って捨ててしまおうか、と一瞬考えてしまった。

 だけど、それはあまりにももったいない。もしかしたら、これから作っていく世界で、このプロットが役に立つかもしれない。

 そう思い、数々のプロットをストックしてきたのだが……あいにく、使う機会というのは訪れなかった。

「俺が作ろうとしている世界は……なんなんだ?」

 ただ、適当に、世界を作ってボツにする。そんなこと、あってはならないことだろう。

 だけど……正直、俺が作りたい世界って、なんなんだろう。

「うーん…………」

 椅子の背もたれによりかかり、大きく背伸びとあくびをする。

「……9時か」

 ふと時計が目に入り、時刻はちょうど9時をまわった所だった。

「……よし。外に出て、プロットづくりの参考になるものを探そう」


 ——という訳で、俺がやってきたのは、少し遠くにある大型デパートの中だった。

 理由は簡単。小説のネタを探しに来たんだ。いや、正確には、俺が作りたい世界のネタというべきだろうか。

「にしても、デカすぎだろここ」

 デパートに入り、数メートル歩いたのちそう呟く。

 このデパートは、どうやら五階建てらしい。俺は、五階まで行ったことがないから分からないが、なぜそこまで大きくする必要があるのだろう。

 縦にも大きいが、その分横も広い。一階を全て歩きつくすには、多分2時間はかかるだろう。

 それが五階分……とんでもないな、ここ。

 まあ逆を言えば、多くの人でいつも混んでいるのだ。

 歩くのもやっとだし、空いている所で休憩しようとしても、誰かに座られ休憩ができない。もちろん、俺だけじゃなく、他の人だってそうだ。

 そんな休憩スペースの取り合いが、俺の目に映りこんでくる。

 休憩スペースくらい多くしろよ……とか思いながら、適当に歩いていくだけ。

 買いたいものなんか何にもない。強いて言うなら、ご飯が食べたいくらいだろうか。

「……なんだこれ」

 適当に歩き、写真展のようなところを通りかかったとき、ある看板に目がいった。

「女の子、貸します。……は?」

 その看板には『お好みの女の子を貸します!お金が無くても大丈夫。最初は無料で試せます!』などという文章が書かれていた。

 簡単に言えば、レンタル少女とかいうものだろうか。

 しかも試せるとかって……まんま物じゃねぇか。

「ふーん……なるほど」

 あごに手をやり、もし少女を借りれたら、という意味の分からない想像をした。


「よし……」

 数秒の後、俺は——少女を借りることに決めた。

 ただ変なことをしたい、とかいう訳ではなく、俺の元に妹のような存在がいればどんな感じになるのだろう、という浅はかな考え。それ以外にも、今後の小説の参考として使いたいという考え。

 ……もしかしたら、変なことをするかもしれない。それは、ゼロとは言えない。

 なんせ、俺は男だ。近くに女の子がいれば、そういう考えも少しはしてしまうだろう。

 俺はもう一度、その看板をじっくりと見た。

 看板の端の方に、どこでその少女を借りれるのかが書かれてあった。

「……行くか」

 小説のネタを探すため、という目的ではなく——少女を借りる、という目的に変わってしまった。



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