第16話

 私は眠れずにいた。


 私の寝ている間はミナを停止させるべきなのか?


 しかし停止すると脳に障害が起こる可能性がある。

 今までの思い出も消えてしまうだろう。


 やり直したとして、今のミナのようになるかは分からない。

 人それぞれ性格が違うように、新たなミナは今のミナと別人になってしまう恐れがある。


 私は今のミナを愛していた。

 今のミナが完璧なのだ。



 物音が隣の部屋からした。

 私は急いで起き上がり、廊下へと出ていった。

「何をしているの、ミナ!」

 ミナはこっそりと出掛けようとしていた。

「私の言うことが分からないの!」

 ミナは下を向いた。


「言ってるでしょ! もう忘れなさい!

 街のこともあの人間のことも忘れるの!

 すぐに忘れるようになる!

 そして今までのようにここで一緒に暮らすのよ!」

 ミナは拳を握り、歯を食い縛っていた。


「部屋へ戻りなさい!」

 私の怒鳴り声にミナはしぶしぶ部屋の中へ入っていった。

 しかしその姿は私に従っている姿ではなく、怒りを溜め込んだまま抑えている姿だった。


 やはり私はミナを止めるべきなのか……。


 しかし私にはそれがこの上なくつらいことであった。

 愛する者を手中に収めておきたい。

 私の意の範疇はんちゅうに留めておきたい。


 私がミナを繋ぎ止めるために出した苦肉の策は、可笑おかしいまでに幼稚なものだった。


 私はミナの部屋の扉に幾種もの錠前をかけた。

 窓は元々防犯として特殊なセキュリティが敷いてあり、私以外に開けることは出来ない。


 きっと自分の愛は歪んでいると分かっていながら、歯止めの利かない本能的な私欲が私を突き動かしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る