第17話

「ミナ、もう街へ行かないと言うなら開けてあげる」

 私は部屋の中に呼び掛けた。

 しかしミナは何も答えることなく黙っていた。

「仕方ない……」

 私は部屋から離れた。



「ミナ、お腹が減ったでしょ? あなたの好きなミートパイがここにあるの」

 しかし返事はない。

「仕方ない……」



「ミナ、音楽聞きたくない?」

 しかし返事はない。

「仕方ない」





「ミナ、いい加減誓ったらどう? ただ私に誓えばそれでいいのよ?」

 もう10日になる。


 ミナは飲まず食わずでも1ヵ月は大丈夫だろう。

 しかし空腹や喉の渇きは人間同様に感じる。


「いつまでも依怙地いこじになっても仕方ないでしょ?」

 私は心配になって部屋に話し掛ける。

「ミナ?」

 それでも今まで同様返事がない。

「ミナ! 居るなら返事をして!」


 しかし返ってこない。

「ミ、ミナ! 大丈夫?」

 私は慌てて錠前をはずした。


 幾種もの錠前を不安からか震える手で焦りながらはずしていく。

 ようやく全ての錠前をはずし、私は扉を開けた。

「ミナ!」

 しかしミナは居ない。


 ど、どういうこと!?


 私は部屋を見渡す。

 窓は壊されていない。

 他に逃げられる場所などない。


 と、同時に開けた扉の後ろから影が動き、部屋の外へと飛び出した。

「ミナ!」

 私は急いで追い掛けた。

「ミナ!」

 私はもう一度叫ぶ。

 するとミナは走りゆく足を止めた。



「ミナ、部屋へ戻りなさい!」

 ミナは振り返り、私をにらんだ。

「わたしは行く!」

「まだ分からないの!」


 ミナは首を横へ振った。

「どうして……どうしてこんなことするの? わたしはただタカフミが好きなだけなのに……」

 ミナは目に涙を浮かべた。


「どうして……」

「ミナ……」

「どうして博士はわたしの自由を奪うの!」


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