第13話

 世間を捨てたはずなのに私は街へ出た。

 ミナを連れて。


「博士ぇ~、街を見たい!」とミナに言われたのもあるが、それ以上に私が行きたかった。


 私はうずうずしていた。

 人々に見せたかった。

 私の創造物を。

 私の愛する者を。



 人で溢れる歩道をミナは目移りしながらはしゃいでいた。

 全てが初めてで、全てが興味の源になっているようだ。


 ミナをよそに私は久し振りの街の賑わいに人酔いをしてしまった。

 目を輝かせているミナを見ると、それでも私に和みを与えてくれていた。


「どう、街は?」

 ミナは大きくうなずいて笑う。

「うん、すごいね、色んな物があるんだね」

 街は日の光を浴びて輝いていた。


 ガラスとメタリックな店が建ち並ぶ。

 体の一部をメナトリウムに代替した人が所々に行き交う。


 しかし誰も気付くまい、ミナは体の全てがそうであるとは。




 私達は食事のために薄暗い店へと入った。

 背の高い男が私達を出迎えた。

「いらっしゃいませ」

 タキシードをまとい、目鼻立ちの整った男だった。

 私でも美男子だと思える。


 その女性は前髪をなびかせながら会釈して私達を迎え入れた。

 私は案内されるままに歩いていると、ミナは入り口で立ち止まっていた。

「どうしたの?」

 私が聞くとミナは後ろを振り返ったまま黙っていた。


「ミナ?」

 ミナは私の声にようやく気付いて私に近づいた

「この人と喋ってきていい?」

 私は驚いて聞き返した。

「どうして?」


 ミナは首を傾げて答えた。

「分からない……。けどこの人と仲良くなりたい」

 私はミナの手を引っ張った。

「ダメ!」

「どうして?」

「どうしても!」

 私は更に強くミナの手を引っ張って、無理やりその男から遠ざけた。



 私はおののくようにしながら、ミナを連れて店を出た。

 街を飛び出し、そのまま研究所へ舞い戻った。



「ごめんなさい……」

 私の強ばった表情を見ながらミナは肩をすぼめていた。

 研究所に帰っても私はミナとろくに喋っていなかった。


「なぜ謝るの?」

「だって……わたし、いけないことをしたんでしょ?」

 私は言葉に窮したまま席を立った。


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