第10話

 ミナはとうとう完全なる人間へと変貌したのだ!


 愛しいミナ。


 あなたを喜ばすことに私は専念しよう。

 あなたのために生きよう。

 私にはもう何もいらない。

 やっと私の最愛なる者が現われたのだ!


 神よ、見ているか!

 私はあなたのように創り上げた!

 人間を創り上げたのよ!





 ミナはリビングで片足を上下させ、腕を水平に伸ばして「フゥフゥ」と荒い息を吐いた。

「何をしてるの?」

 私が尋ねるとミナはその動きを止めずに言った。

「ダイエット」


 私は驚いて聞き返す。

「ダイエット? 何でそんなことを?」

 ミナは頬を膨らませた。

「だって二の腕のぷにぷにが気になって」


 足元にはタブレットが置かれ、女性ファッション誌のウェブ版が表示されていた。

「エクササイズ記事でも見たの?」

「うん」


 私は汗だくになるミナを見ながらため息をついた。

「そのままでいいのよ」

「よくない。だってこの人、背は高いし、すっごい細くてカッコいいんだもん」


 ミナが美意識を持つようになるとは。


「今でも充分可愛いよ」

「だってぇ~」

「大丈夫。いつでも私が治せるんだから」


 今のミナを変えるつもりはなかったが、ミナはあっけなく運動をやめた。

「そっか、博士が居るからいつでもスラッと変身できるんだぁ。じゃ、つらいことするのはやめた~」


 それ以来、ミナはダイエットをすることはなくなった。


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