第110話 『悪役』と生きる道
フィノラ先輩が襲われたということもあり、メンタル的にも今日はお開きという流れになった。
じゃあ俺は一人でも魔物を倒しに……と思ったが引き続きフルル先生に止められる。
『対人戦ならともかく、あの戦い方は魔物には通用しないんでしょ?』とのこと、レベル上げなきゃそろそろシアン姫たちに技量で
「どうしてもダメですか」
「ダメ。別に実習でも強くなるんだし、折角ダンジョン系部活に入ったんだから一人でわざわざ行かなくてもいいじゃないか」
「…………はい」
「あぁ、そんなしょんぼりしないでくれよぉ……そんな焦って一人で強くなろうとするんじゃなくて、みんなと力を合わせて強くなっていけばいいじゃないかってことだよ」
もしダンジョンに行きたいならみんなを誘うことっ!とびしっと指さされながらフルル先生に怒られる。『抜け駆け』じゃなくて『切磋琢磨』が正しい強さの有り方だと思わないかい?と言われてしまった。
「『抜け駆け』をしようと必死になっていれば、いつしか安易な方法や足を引っ張る方に意識が向いてしまうものさ」
「それは――」
違う、と言おうとしたところで俺はゲームの時のタイタンを思い出す。強さ、嫉妬、劣等感。それらが自分の中でない交ぜになった結果歪んでしまい最後は必ず死んでしまう悪役……それがタイタン・オニキスという存在だ。
フルル先生は黙り込んでしまった俺を諭すように、優しく手を伸ばして背中をぽんぽんと叩く。
「君は強い。レベルとか技量以上に、精神がね。強さを求めるために、痛いことも辛いことも我慢できる……並みの人は出来ることじゃない」
「そんな……高尚な人間じゃないですよ、俺は」
「ううんタイタン君。君には、そうだね――『英雄』の素質があるとボクは思う。だから、心配なんだ」
だって、それはいつ死ぬかもわからない孤独の道だからと彼女は少し寂し気にそう言うのだった。
英雄の素質なんて言えば聞こえはいいけど、ボクからしてみればすぐに死地に身を投げ出してしまう大バカ者さ――フルル先生は速足で歩いている俺の少し前に出て振り返る。
「ボクはね、タイタン君。魔物がいる世界だからこそ、出来るだけ危険のない人生を子供達に歩いてほしいんだ。みんなね」
「……みんな、ですか」
「あぁ、みんなさ。だから『切磋琢磨』なんだよタイタン君」
本当は訓練でも真剣を持ってやり合ってるの怖いんだよー?と冗談めかして彼女は言ったが、紛れもない本心なのだろう。だから毎朝早い時間に、俺たちの訓練に付き合ってくれている。
焦るな、と言うことか……いや、確かにそうだな。ここは『エロゲのような世界』であって、エロゲではない。
もうすでに、本来『タイタン・オニキス』が死ぬことがないイベントで何回も死にかけている――記憶しているゲーム内のシナリオ全部が役に立たないというわけじゃないが……タイタンオニキスに関連のイベントはもう役に立たないと考えた方が良い。
「自分を大切にね、タイタン君」
「…………はい」
思い上がっていた、のだろうか。未来を知っているから、正解を知っているからと無謀に突き進んでいた――のかもしれない。
強くならなきゃいけない、それは変わらない。だが、いつ死亡フラグがやってくるうかも分からない。
もしその時、俺の強さが足りなかったら? 最強になるというタイタン・オニキスとの約束が果たせなかったら?
頭の中がぐちゃぐちゃで気持ちが悪い……何が正解なのかが分からなくなってきた。
フルル先生たちと別れて男子寮に戻ったあと、制服そのままにベッドにダイブする。
フルル先生の言っていることは正しい、一人で窮地に陥った時に他人に助けを求められる環境があるというのは危険のない人生を歩むことに必要な重要な事実だと思う。
だが……それでいいのか?だめだ……分からない。わから、ない――……
気が付くと、見覚えのある荒野に立っていた。あぁ……夢か。俺はある確信をもって振り返る。
「……よぉ、タイタン・オニキス。俺を呼んだのか」
「あぁ、うだうだと悩んでいる貴様が不快で仕方なかったからな」
俺が、いた。初めて会った時と同じように尊大に足を組んで近場の岩に腰かけている。俺はドカリと地面に座り込んで、対話の構えを取った。
「ほう、この俺に対して対等な立場で話を聞く……と?」
「俺はお前だ。だから、対等だ」
「はっ、心構えだけは立派だな」
俺の意見にも馬鹿にするように鼻で笑うタイタン。定例報告や世辞でも何でもないから手短に言うぞ、と早速とばかりにタイタンが俺に向かって指をさす。
「貴様は、『死なないため』に強くなっているのか? それとも『最強を目指すため』に強くなっているのか? 答えろ」
「っ……どちらも、という答えは無しか」
「無しだ。そんな玉虫色の答えなぞ俺なら出さん、さあ答えろ」
逃がさない、とばかりに俺に詰め寄って俺の襟首をつかむタイタン。強くなるための理由……そんなの。
「あの日……ブラドに貴様が反論した時、努力をしても報われないという貴様の無念を晴らしてやるためだ」
「ほう?」
「だが、強くなろうとすればするほど周りが足を引っ張ってくる。この首輪が、仲間が……俺を『生かすため』に」
――あぁ、そうか。ずっと違和感を持っていたんだ、俺はタイタンに自分の気持ちをぶつけながらやっと『自分』を理解する。
ただ運命というものが腹立たしかったのだ。型というものが嫌いだったのだ。
どいつもこいつも、俺を好き勝手に型にはめやがる……それがどうしようもなく居心地が悪かった。
「最初は生きるために強くなろうとしていた」
「…………」
「貴様の執念や想いを知って、最強を目指した」
「……それが今になって、最初の『生きるため』の道筋をあの教師に魅せられたから揺らいでいたのだろう貴様は」
あぁそうだ……俺はタイタンの言葉にうなずく。フルル先生は正しい、正しいのだ――だから『タイタン・オニキス』には合っていない。
俺の襟首をつかみながら、目を合わせつつタイタンが続ける。
「首輪の誓約程度で諦めるなぞ許さぬ。身体中が痛くなる? 首が締まる? それで諦めて、『汚く生きる』つもりか貴様は」
「っ……いや、綺麗に死んでやるさ。そうだ、そうだった――俺は『タイタン・オニキス』だ」
「強くなるために人を頼ることもよかろう、道が見えなくなったときに先人に教えを乞うこともよかろう……だが最後に責任を持つのは貴様自身だ。誰かに影響を受けるなとは言わん――」
自分が決めた道は、見失うな。タイタンはそう言って乱暴に襟首から手を離すのだった。
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