第105話『悪役』と説得

 次の日の朝。いつものように訓練場に集まって数戦こなした後、休憩中に俺は部活のことを話題に出してみる。


「そう言えばフルル先生、部活の件ってどうなってます?」

「昨日の今日だから対して収穫がないんだよねぇ……『マッスル愛好部』とかあるけど?」

「なんですかその『筋肉万歳!』とか言ってそうな部活」


 フルル先生の提案にいやそうな顔をするシアン姫。俺たちが入って『筋肉万歳!』『筋肉万歳!』と言いながらダンジョンに特攻していく姿が想像できん……俺は早速とばかりに渋い顔をしているみんなに話を持ってくる。


「一つ、良さそうな部活は見つけた」

「なんと、タイタン殿から出てくるとは。お主はそこが良かったのか?」

「『俺を受け入れてくれる』という点で俺に不満は無い。そこは部員が少なくて廃部寸前の部活だから俺でも入れたいという理由だったが」


 それでも部活自体はダンジョン系で活動理念もしっかりしている、と俺は『魔術研究部』の存在をみんなに話した。

 フルル先生が言った通り、もう一年生は俺たちだけしか入部届を出していない生徒が残っていないから新規で生徒が入ってくることは無い。


 そして部員が少ない……というかフィノラ先輩一人だから、シアン姫とヒサメのような王女が入ったところですでにいる部員とのいざこざは他の部活よりない。


「――ユノも、強くなるために魔法の習得はしておいた方が『もっと搦め手の手段が増える』……どうだ?」

「……ん。問題ない、ユノが食べるためのお金が減らなければそれでいい」

「しっかし、随分とその魔術研究部に肩入れするのぉ。消極的な理由で受け入れられたのじゃろう?」


 拙者は別に大きな問題がないなら問題はないのじゃが、と疑わし気な目で俺を見てくるヒサメ。まぁ、俺らしくないと言われればそうだが……


「『俺が強くなるために必要だから』以上の理由が要るか? 貴様らにもメリットを提示してるのだから、納得したなら黙って入れ」

「うーむこの傲慢ぶり……拙者抗えぬ! 入るぞ!」

「少しは考える素振りは見せましょうよヒサメ様……」


 はぁはぁと荒い息を吐きながら即入部を決意したヒサメに呆れた目を向けるシアン姫。美人の、しかも一国の王女がやっちゃいけない顔しているがもう慣れたので無視する。


「で、どうです」

「構いませんよ。余計ないざこざがなければ私としてもありがたいですし……私だけ他所よその部とか仲間外れみたいで寂しいですし」

「うんうん、良かった。これでボクも『まだですか?』ってハゲ――教頭先生にねちねち言われなくて済むよ~」


 フルル先生が心底安堵したようにほっと溜息を漏らす。大人って苦労しているんだな……と俺たちは先生に憐憫の目を向けていると、『同情するならこの入部届にサインしてくれよ~』とポケットから俺たちの分の用紙を出してきた。


 必要事項を埋めていると、シアン姫が参考までに……と俺に問いかけてくる。


「その一人だけの先輩って、男性ですか? 女性ですか?」

「その質問に意味ありますか……?」

「いいから、答えてください」


 横から圧を感じる。いや、横からだけじゃなくユノ反対ヒサメ側からも謎に圧を感じる……そんなに重要なことか?

 あー……まぁ、男の先輩とかだったら仲良くなるまで時間がかかるというのもあるか。ダンジョンに潜る以上、相性や性格の問題もあるもんな。


「女性ですよ。マイペースですが魔法に対して熱い思いを持っているいい先輩です、すぐ仲良くなれると思いますよ」

「…………みなさん集合」

「……はぁ」


 タイタンさんはそこにいてください、とシアン姫が俺に言ってユノたちを連れて訓練場の端っこの方に。

 女子同士の秘密の話があるのだろう、耳をそばだてるのも卑しいか。俺はシミターを抜いて、仮想敵と戦うことにした。


「やっぱり女性でしたね」

「……ん。しかも魔法職」

「魔法職、のぅ……拙者、痴女の巣窟と思うておるのじゃが」

「あっはは、否定できないのが辛いところだね。治癒職ヒーラーはそうじゃない……と良いんだけど」


 ふっ、くっ……なかなかに厄介だな。仮想敵として今の全力である自分を想定しているが、いい一撃が入らない。

 強くはない、が攻め切ろうと焦ると心臓を狙われる。全身に注意を向けていないと、手足を持っていこうとしてくる。


 《パラライズ》を見切ろうと距離を離せば《ポイズン》の追撃……一撃必殺であることを知ってるがゆえに避け切らないといけない……っ!

 やりにくいなぁ……タイタン。


「で、その先輩のところに入部ですか」

「なんでタイタン君って一人にすると、すぐ新しい女の子増やすんだろうね……」

「も、もしや拙者もその一人なのかの!?」

「……ん」


 だああぁ! くっそ、単純に魔法ありの俺を相手に魔法なしの俺が戦って勝てる訳ないだろ!

 ブラフも手札も向こうの方が上だ、圧倒的に物量で負ける。もっと、なにか弱点を見つけないと……俺はもう一度、仮想敵として俺を呼び出す。


「入学して1か月しか経ってないですけど、ほぼ毎週単位で増えてません?」

「……唯一、実技講習の時だけは増えなかった」

「学園での評価は地の底だというのに……あれかの、『危険な男』というのに引き寄せられてしまうのかの? 拙者は噂を聞く前じゃったから仕方がないとして」

「あー、放ってられないみたいな? その感覚分かるよ~、見てないとタイタン君勝手にどこかに行って、どこかで死んでそうな危ない雰囲気あるもん」


 しばらく戦っていて思ったが、俺って狙う場所を視線で追っている癖があるな。《ポイズン》は全体を狙うからまだしも、《パラライズ》に関しては腕、足、心臓と視線が目が追っているのを殺意で感じる。


 こんなに正確に自分自身の戦い方を頭の中で想像できるのは、2つのことを同時に考える練習を行っていたからこそだろう。今までの俺ならこんなことは出来なかった……向かい合ってシミターを構えている魔法ありの俺に勝てているのは、その並列思考だけってところか。


「なんと言いますか、ヒモの素質ありますよねタイタンさん」

「まあ、タイタン殿自身が誰の手も借りないと思うておるからヒモになる未来は微塵も無いとは思うが……分かるぞ」

「……ん。戦うことを考えてないタイタンは、弟感がある」

「まぁ、タイタン君のことを知らないと分からないことだよねぇ……ボクたちだけしか知らない彼の秘密さ」


 的確に突いても避けられる、同じ速さだからステータスでごり押しできない。いい訓練だなこれ、やれるときに定期的にやってみるか……

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