第99話 『悪役』と部活

「そうそう、そう言えば君たちに言っといてくれーって言われてたんだった」

「はぁ、はぁ……言われてたこと?」

「ぜぇ……ぜぇ……少し、休憩してから……お願いできますか?」


 いつものように朝練をこなしていると、フルル先生があっと声を上げてそんなことを言いだした。

 ハイテンポでシアン姫を攻めつぶしていた俺は、息を荒げながらも先生の言葉に疑問を投げかける。シアン姫は受けるので精いっぱいだったようで、息も絶え絶えだ。


「君たち、部活どうするの?」

『あー……』

「1年はどこかの部活に入るのが原則って校則で書いてたでしょー? このままだと強制的にどこかの部活に入れられちゃうよ」


 それは君たちが望むことではないでしょ?とフルル先生が俺たちの分であろう入部届の紙をポケットから取り出してひらひら揺らす。

 そういえばゲーム内で部活動もあったっけ……と好感度とお金稼ぎのシステムだったそれを俺が思い出していると、ヒサメとシアン姫が同時に渋い顔をしていた。


「ぬぅ、拙者はあえて遅らせておったのじゃが……お主らもか」

「はぁ、はぁ……ふぅ。私も多分ヒサメ様と同じ理由です。その……王族と同室で長時間滞在できるというのは、みなさん垂涎すいぜんものですし」

「ぶっちゃけると拙者ら王族がこうして自由に動けるのはタイタン殿の悪評のお陰じゃしの。部活動でタイタン殿と別れれば、利権を得たい者たちに囲まれるのが目に見える」


 王族というものの苦労を語る王女二人。フルル先生は苦労するねぇと言いながら俺とユノの方を向いた。


「で、そこの平民さんと貴族さんは?」

「俺を受け入れるような奇特な部活があると思いますか?」

「……興味ないから忘れてた」


 なんともらしい回答をした俺とユノに、フルル先生は苦笑いを返す。ユノはともかく、俺は部活に入ること自体がリスクでしかない立場にある。

 嫌われ者が入っている部活となれば、部全体が忌避される対象になってしまうだろう……そんな危険性があるのに俺をわざわざ入れたいと思うか?


「規則は規則だからねぇ……特にタイタン君が言いたいことはすごい分かるけど」

「自分が選ぶより、学園側が選んで強制的に入れられた方がヘイトは少ないとは思いますよ? 部員側も『貧乏くじを引かされた』っていう言い訳を周りにできますしね」

「それを言うってことは、今学園にある部活に興味はないって感じかな?」


 フルル先生の言葉に即座に頷く。正直ゲーム内での部活はヒロインたちとの交流が主なものでRPGとしては蛇足の部分だ。

 無論、エロゲとしては専用スチルがあるのでヒロインが所属する部活はすべて網羅しなければならない必要な要素なのだが……青春を送る暇がない以上どの部活にいても幽霊部員になること間違いなしだろう。


「それに、部活動の時間より魔物狩ってお金稼ぎたいですし」

「……ん。ユノも、部活で食べれる量が減るの嫌」

「じゃあ『ダンジョン系』の部活に入るとか? 『ダンジョン探索部』とか『魔物研究会』とか」


 女の子が全くいない部だから、ユノ君が入部したらちょっと面倒なことになりそうな気もするけど……と、困ったように笑うフルル先生。

 ユノがサークルクラッシャーの姫になるのか……地雷系ファッションをしたユノの姿を想像してしまって俺はつい笑ってしまう。


 それを馬鹿にされたと思ったのか、ユノが無表情ながらに頬を膨らませてこちらを見てきた。


「……なに」

「いや、ユノに群がって部員の男同士がギスギスする様子を想像したら面白くてな」

「……先生。それ以外で」


 フルル先生の方を向いてユノがそう尋ねると、フルル先生がん~と頭を捻りながら考え込み始めた。

 その間に、ヒサメとシアン姫がこちらに近づいてくる。


「タイタン殿は、どこかに入るのかの?」

「嫌われ者だからな。すごい消極的だ」

「あぁ……と言っても私たちも乗り気じゃないんですよね。出来ればみなさんと一緒に居れられればとは思うのですが、王族二人が一つの部活に集まったとなれば混乱を招きかねませんし」


 シアン姫の言葉に俺はつい納得してしまう。シアン姫とヒサメが一つの部活に入ったとなれば、他所の部活から大量の退部届が出されて彼女たちの部に流れ込んでくるだろう。

 コネか、単純に仲良くなりたいか、もしくはただ一目見てみたいか……まぁそんな奴らで瞬く間に大人気な部になるのは火を見るより明らかだ。


「まあ、提出期限は今週末までだからそこまでに考えておいてくれると嬉しいな。ボクもみんなの意見に合いそうな部活を出来る限り探してみるからさ」

「ありがとうございますフルル先生」

「なに、保健室の先生なんて生徒が大けがしない限りは案外暇なもんさ。君たちを気にかけてあげられるぐらいにはね」


 フルル先生がそう言ってポケットに紙を再びしまう。王族二人に、学園の嫌われ者がいるグループに気軽に話しかけられる先生がフルル先生しかいないので彼女に押し付けたのだろう。


 Aクラスだから、本来はAクラスの担任がしなきゃならないことなのに……と、そこまで考えた俺はハルト贔屓びいきしている気弱なジャージ姿の先生担任の姿を思い出して思わず閉口した。


「お疲れ様です先生……」

「いやまぁ、厄介ごとを丸投げされたのは分かってるけどね……担任のくせに面倒ごとに関わりたくないって、すーぐ楽な方に逃げるんだよアイツ」

「王族二人と距離が近い『学園の嫌われ者』など、誰しも触れとうないと思うがの! かっかっか!」


 ヒサメが担任のフォローをするようにそう言って快活に笑う。まあ俺も、もし第三者の視点から俺たちに関わりたいかと言われれば――無理だな、厄介ごとのにおいしかしない。


「ボクたち大人先生子供生徒を守り導くのが役目だってのに、まったくもぅ!」

「どうしても私たちは『王族』という身分が付いて回りますからねぇ」

「貴族として社交についての勉強をしていた時、『王族に対して不敬にならないように気を付けつつ自分の意見を述べる方法』とかあったな」


 俺がそう言うと、ジト目が王族二人から向けられる。


「……そのとき寝てたんですか?」

「いや、ちゃんと起きていたし覚えていたぞ。『知識として』な」

「不敬云々うんぬんを問うなら、真っ先に槍玉に上げられそうな男がなにか言うとるぞ」


 なんだよ、二人してそんな顔して。俺はただ知ってるけど使ってないだけだ、遠回りに迂遠うえんに意見を述べるとかまどろっこしい。

 不敬だなんだと言うなら世辞や脚色を加えて王族に余計な時間を食わせることの方がよっぽど不敬だろう。


 それに……


「貴様ら二人は、『こっちの方』が良いだろう?」

「ぬぅ……バレておる」

「確かに、そうですけど……そうなんですけどぉ!」


 なら何も問題ないよな?

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