第98話『悪役』と現状の振り返り

「しっかし……のぉ、タイタン殿」

「なんだ?」

「その戦い方。お主が思うより『破壊的』じゃぞ」


 ヒサメがいきなりそんなことを言ってきた。

 破壊的?と俺が首をかしげていると、ヒサメが刀を鞘ごと抜いて前に突き出す。


「誰しも自分の歩調がある。早かったり遅かったり、そのぶつけ合いがサシでの仕合しあいなのじゃが……お主のそれは、その歩調を破壊する戦い方じゃの」

「……まあ、相手に全力を出させないようにするためにはまず相手のリズムを崩すことからしないといけないしな」

「うむうむ、道理じゃ。拙者が戦った後にすぐ自分の型をなぞらねば、一生歩調が崩れたままになってしまうほどにはすごい威力じゃった」


 ヒサメが困ったように笑いながら誰もいないところで刀を抜き、一通り型を見せてくれる。

 ……わずかだが、身体の動きがぎこちなく見える。いつものような滑らかな体捌たいさばきが、今のヒサメにない。


 俺の感じた違和感を肯定するかのように、再び納刀したヒサメが首を縦に振りながら自分自身を分析した。


「うむ、やはり崩れておるのぉ。あとはタイタン殿以外と戦って修正するとするか」

「あー……まじか」

「ここにおるシアンたち程の実力であれば自力で修正出来よう、あとは魔物か――そもそも直感的に戦闘をおこなっておる存在は効かぬであろうな。ただ……」


 並みの人ならば、一生剣を振れぬ身体にしてしまおう。そう言ってヒサメはくぅ!っと悔しそうに身体を曲げる。


「口惜しい、実に口惜しい! 邪道であるが、それは間違いなく強き者の剣じゃ。受けとめる相手が頑丈でなければ、たちまち抜き身になってしまう魔剣のようなもの」

「……封印しておいた方が良いか?」

「使う相手を選んだ方が良いであろうな。誰彼構わずその戦い方をすれば、たちまち剣を振るえなくなった者たちへの怨嗟の炎で焼かれることになろうぞ」


 そう締めくくったヒサメは、ユノを連れて早速とばかりに次の試合を始めた。それを観戦しながら、俺はさっきのヒサメの言葉を思い返す。


 使う相手を選んだ方が良い、か……魔法の代わりの保険が出来た程度で考えておくのが吉か。

 ステータスが足りないから技術で埋めたら、相手を破壊する戦い方になっていた件について。いや、悪役らしいといえばらしいし……『最強になる』という目標に一つ近づいたということで納得する。


 俺がうんうんと軽く頭を縦に振っていると、ちょこちょこと遠慮気味にフルル先生とシアン姫が近づいてきた。


「なんというか……残念? でしたね」

「いえ、《パラライズ》や《ポイズン》に代わる手札が一枚増えたと思えば前進です。安全性も威力も下がった劣化手札ですが、使えないわけじゃない」

「技術で相手を破壊する、かぁ……ボクは戦闘に関してはからっきしだから分からないけど、すごい技見つけたねぇ」


 君が周りの生徒たちと同じぐらい強かったらと思うとぞっとするよ、とフルル先生は冗談めかして自身の肩を抱いて震える。

 どうだろう……自分がタイタンのように弱くなかったら、こんなに必死になることは無いしこんな技を思いつくこともないかもしれない。

 卒業までまったりレベルを上げて、この世界での学生生活を楽しんでいたと思う。


「自分に余裕が無いからこそ出来たことですよ。周りと同じぐらい強かったら、もっと上手く生きてます」

「タイタンさんが……上手く!?」

「その驚いた顔はなんですか」


 ありえないといった顔で驚愕で目を見開くシアン姫に思わずツッコむ。俺の新しい技は、ポイズンに引き続き封印されることになったのであった。


 ……結局、レベルが上がった以外入学してから使える技が変わっていないような気がする。むしろ《パラライズ》を首輪で封じられているから入学前より技が減ってる?


「なにか、また新しい戦い方を考えなければ」

「まだ強くなるんですか?」

「強くなる……というか、入学前より弱くなってますよ今の俺。レベルと武器が前より上がっているからそう見えるだけです」


 シアン姫が呆れながら言ってきたので、俺はそう返すとシアン姫とフルル先生は揃ってジト目を俺に向けてきた。


「まぁ、事実だけ並べたらそうなんだけどねぇ……」

「技量と『本来持っているもの』が強すぎて、勝てるビジョンが全然見えないんですよ……」

「? 俺が言うのもなんですけど、さっきのヒサメのように流れを取って力で押しつぶされたら簡単に負けますよ」


 貧弱、脆弱、圧倒的弱さ――状態異常魔法を使わないタイタンなんて、ただ主人公にいきってすぐ死ぬだけのモブキャラだ。

 弱いながらも『学園カグラザカ』において悪役というキャラを担えたのは、全力で主人公たちの足を引っ張ることに特化した存在だったから。


 俺は弱い、自分の現時点をしっかりと把握しておかないと――死亡フラグはすぐ横にある。

 そう自分の手のひらを見ながら俺は慢心を捨てる。そんな俺の姿を見て、二人は深いため息を吐いた。


「『流れを取って力で押しつぶす』……簡単に言ってくれますね」

「それをさせないための技量が桁外れなのにね、シアン姫?」

「シミターの怒涛の連続攻撃でそもそも上から流れを取られますし、力で押しつぶそうにも避けたりいなしたりされますもん」


 そうでもしないと負けるからな、誰しも負けないように動くのは当たり前だろ?

 そんな会話をしていると、一戦終えたヒサメとユノが戻ってくる。


「……ん、勝った。ぶい」

「くぅう、まさか投げて地面に落ちておったナイフを蹴り上げて狙ってくるとは思わなんだ。発想力がタイタン殿並みに育ってきておる」

「……拾う暇がなかったから、地面に刺さってるところから直接狙った」


 どうやら聞くところによると、持っていたナイフを二本とも投げて武器がない状態になったユノにカウンターを仕掛けようとヒサメが距離を詰めたら、横をすり抜けるようにかわされたらしい。


 そして態勢を整えようと振り向いたら目の前にナイフの切っ先があり、慌てて弾いたらユノが肉薄していたという戦いだったという。


「……正面からぶつかったら、負けるのはユノ」

「じゃから拙者の態勢が整う数瞬で流れを取るために、とっさに考え付いたのか。拙者も技や力だけでなく、すぐさま次の手を考え付ける思考力を身につけねばならんのぅ」

「……森の中とかだと使えない。ただ今勝つためだけの技だった、ユノも頑張る」


 お互いが反省しあいながら感想戦をしている。俺もやらないとな、とシアン姫と対峙してシミターを抜くのであった。

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