第69話 『悪役』と見学

 次の日、俺たちはいつもの訓練場……を囲むように設置されていたギャラリー席に座っていた。昨日は俺たち剣技組がアピール戦を行ったから、今日は魔法学組のターンというわけだ。


「ファイアーボール!」

「プロテクション!」

「杖で……殴るっ!」


 様々な生徒が魔法をバカスカ撃ち合って……一人杖で殴りかかっている女子生徒がいるな?向こうの女子生徒達もアピールに必死なのか、少しでも強い生徒達に拾われようとパンツが見えるギリギリまでスカートがめくったり胸を揺らすように上下にジャンプしたりと『最早何をアピールしてるんだよ』といった状態だ。


 そして俺は、視界を背後からシアン姫に遮られながら魔法学の生徒のアピール戦を見ている……いやもう見るも何も無いんだが?


「あの……見えないんですが」

「タイタンさんは見なくて良いです!」

「これは……見るに耐えんというのが正しいかのぉ」


 ヒサメが呆れた声でそんなことを言う。そんなに?目を押えられてるから想像でしかないが、そんな酷い光景が広がっているのか?


 ユノもそれを肯定するようにヒサメの言葉に続く。


「タイタンを責めてたくせに、自分で同じ事やってる」

「最早どれだけエロいかを競う戦いになってますね……」

「だからさっきからギャラリーの男たちは大歓声を上げているのか」


 俺は肩を落とすように少し俯く、シアン姫が俺の目を押えている手がズレないように少し近付いたせいか背中に柔らかい感触が。


 慌てて顔を上げると『ああもう動かないでくださいよ~』とさらに密着して柔らかい感触が更に強まった、もう少し周りの目というのを分かって欲しい。


 今まで男性という存在と交遊して来なかった、王女という立場のシアン姫は時々距離感がバグってることがある。具体的にはこんなふうに身体を密着させていても気がつかないぐらいには。


「シアン殿、いちゃついておるのぉ。身体をそんなにひっつけるとは……やるのぉ!」

「え?……きゃっ!」


 ヒサメのからかうような発言でやっと自分の現状に気がついたシアン姫が、胸を隠しながらバッと赤面しつつ離れる。


 目を押えられていた俺は、いきなり明るくなった視界を慣らしてやっと魔法学の生徒達のアピール戦が見える……といったところで次はユノの手によって光が閉ざされた。


「タイタンは見ちゃダメ」

「な、ナイスですユノさん……」

「それにしても、拙者達が欲しいと思える生徒はおるのかのぉ……」


 ヒサメが嘆息する、最悪『迷いの森』にいくために回復職ヒーラーがいるってだけの話だから適当に誰か選べば良いんじゃないのか?

 そうユノに目隠しされながら俺は提案するのであった、もう試合内容すら見れないんだから俺が言えることはこれぐらいしかない。


「君、光るモノがあるね!ボクと組まないか!?」

「お前の魔法、格好良かったぜ。良ければ俺と……」


 魔法学のアピール戦後、剣技の生徒が訓練場になだれ込んで我先にと女子生徒に話しかけている。目は血走って見ている先は胸と尻、これが普段禁欲に禁欲を重ねている男子生徒の末路か……


 一応魔法学の女子生徒の中にも貴族はいるんだからちゃんとしとけよ、と思ったが剣技の生徒の人気筆頭ハルトが『貴族も平民もここでは平等!』スタイルを貫いているため誰もそこに関してはツッコまない。


「男って、みんなエッチなのでしょうか……?」

「まあ、そういったものに興味津々な年齢ですし」

「そもそもそういった目で見てもらうようにアピールしてたんだ、彼女達に向けられているあの目は自業自得だよ……っと」


 シアン姫が引いているのをまあまあとなだめていると、そう言ってフルル先生が近付いてきた。魔法学もケガをする事はあるからな、アピール戦の時に訓練場の端に小さくフルル先生がいたのを思い出す。


「見てたぜタイタン君~、しっかり両目を押えられてたじゃないか」

「代わりに俺は見れませんでしたけどね……それで、フルル先生からはオススメの生徒とかいます?」

「うーん……入学して1週間程度だから回復職ヒーラーの熟練度ってみんな同じぐらいなんだよね」


 つまり先生の目から見ても似たり寄ったりという評価か、そんなことを言ってる間に次々とパーティーが組まれていく。強くなるために少しでもレベル上げしたいんだけどなぁ……


 シアン姫とヒサメも良さそうな生徒を見つけられないのか自分から声をかける事はないし、ユノに至っては興味すら失ったのか手元でナイフをクルクル回してる。


 え、すごっ。ナイフでナイフを弾いてお手玉してる、持っている方のナイフも逆手にしたり柄を指にひっかけて一回転したりと一瞬たりともナイフが止まってない。


「パーティーを結成した生徒達は名簿を揃えて先生に報告してくれよ、パーティー登録が終わったグループから今日は解散だ!」


 先生のその言葉にパーティーが結成したグループがどんどん訓練場から出て行く。そして……


「拙者らが残った、と」

「王女というのも不便なものですね……」

「俺の噂も相まって尚更な」


「はぁ……ボクの方からどうにか出来ないか探してみるよ。上級生から誰か引っ張ってこれるかなぁ?」


 『参加したいのに参加出来ない』というのは学園側の問題だしね、とフルル先生が手をひらひらさせながら訓練場から出て行った。もうこれは先生に任せるしかないか……俺ももう少し噂を否定する努力もしたほうが良いと思えた日だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る