第68話 『悪役』と結果

 さて、俺たち含めて剣技の講義を受けている生徒のアピールも終わった。そして……


「あのっ、私達とパーティー組んでください!」

「なによっ、私が先なんだから!」

「おいおい、俺はまだお前らの実力を見ていないんだ。明日、頑張ってくれよな!」


 ハルトが多数の魔法学の女子生徒に囲まれているのを、俺たちは遠くの方からボーッと見ていた。

 おお、流石は主人公補正。女子生徒の大軍が出来てやがる……


「なんか、凄い人気ですね」

「まあ、顔は良いですし。性格は終わっていますが才能自体はあれでレベル1と考えると『迷いの森』程度のモンスターだと相手になりませんからね」

「……ユノ達に話しかけてこないの、ちょっと不満」


「何かと悪い噂で持ちきりのタイタン殿と、王女二人がいるグループに話しかけられるような剛毅な者はそうそうおるまいて」

「まあねー、色々と特別なグループだし仕方ないぜユノ君」


 そう、一人も話しかけてこないのだ。俺はユノの胸に連続ダイブかましてしまって魔法学の女子生徒からゴミみたいな目で見られてるし、王女二人は自身の持つ圧倒的なオーラによって人が避けていく。


 誰が『死ぬかもしれないリスク』がある場所に王女達と俺を連れて行くかって話だよな、ハルトが人気なのも自分を守ってくれるという考えをみんな持ってるからだろうし。


「誰かに守られ続けていれば、真の成長など無いというのに……っ」

「シアン姫……」


 シアン姫のその言葉には、悔しさと自分への戒めがにじんでいた。あの日、ユノと俺に置いていかれたことを思い出しているのだろう。拳を握りしめて手を震わしていた……


 でもそれは自分がやっているんだから他人もやるべきだという『努力の押しつけ』に過ぎない、それは自分が上に立っていると思っている証拠だぜ。


 俺はその考えを改めさせるようにシアン姫に注意する。


「アホか貴様、守られながら戦っても成長は成長だ。学園生活をいとなむという点ではむしろ間違っているのは俺たちの方……自分の尺度だけで人を測っていたら、判断を間違うぞ」

「そうじゃな、拙者もあのハルト痴れ者に『同じにするな』と怒りはしたが『間違っている』とは一言も言っておらぬ。それは拙者が見ているものが他者と違うからに他ならないと自覚しておるからじゃ」

「っ……そう、ですね。そうでした、すみません」


 同じ王女の立場であるヒサメの援護もあり、すぐに俺の言葉を理解したのか謝罪するシアン姫。

 すぐさま俺たちに頭を下げるが……遠巻きに見ていた生徒達が怒気を俺に向けているから止めてくれ、悪い噂がさらに強固になってしまう。


 面倒くさい未来を想像してげんなりしていると、ユノが話を変えるように俺の袖を引っ張りながら口を開いた。


「じゃあ、パーティーはこのまま?」

「うーん、魔法職はタイタン君がいるから良いとして、回復師がいない中でモンスターを狩りに行くのはボクは先生として止めざるを得ないなぁ」

「ん?拙者らはほぼ毎日『風吹く丘』でやっておるぞ?」


 ヒサメは首をかしげながら言っているがフルル先生は、はぁ……と深いため息をついて『君たちは異常なんだという前提で聞いてくれ』と説明し始める。


「回復師というのは万が一のリスクを潰せるんだよ、相手の行動を予測出来るタイタン君がいるから君たちは回復師無しでも動けている」

「そういえば……ずっとタイタンさんのサポートありきで戦ってましたね」

「ん、まるで未来を見てる」


 見てないぞー、と『まさかっ!?』みたいな目で見てくるシアン姫達を手で追い払う。未来見えてたらフードの男の襲撃とかもっと安全に立ち回れているわ。

 フルル先生はパンパンと軽く手を叩いて俺から自分に注目を戻す。


「そもそも『戦闘訓練』は講義だ、『死ぬかもしれない』という可能性を極限まで削るのも訓練なんだぜ」

「それならフルル先生殿が回復職として入れば良いのではないか?」

「ヒサメ王女様、ボクは先生だぜ?ケガした生徒の救護に駆り出される予定だよ」


 そうじゃった、とポンッと手のひらに拳を落として納得するヒサメ。さては半分忘れてたな?

 そう、この戦闘訓練においてフルル先生は使えない。訓練なんだから魔法学の生徒の訓練にもならなければならないからこそのアピール戦だったんだよ……まあ、アピール失敗したけど。


「取りあえず、明日魔法学の生徒の方のアピール戦を見て考えるしか無いんじゃないですか?」

「うむ、最悪王女の権力で指名してやればよい!」

「あまりそういうのは良くないと思うのですが……」


「ん、ユノも貴族の権力使ってるのは嫌い」

「分かっておる、冗談じゃよ」


 ムッとしたシアン姫達にヒサメが笑いながら冗談だと弁明する。他の人の機嫌が悪くなったから慌てて言い直した感じではなく、最初から冗談めかして空気を変えようとして言っていた感じだから本当に悪気は無かったんだろうな。


 ヒサメはこういう空気の機微を感じ取れるのが人気の1つだった。ムードメーカーとしても人気でよくパーティーに入れているプレイヤーも多かったなぁ……

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