第70話 『悪役』と再び迷いの森
「うぅ、どうしてこうなったのさ……」
「に、似合ってますよモーレット先生!」
「シアン王女様、それは先生のボクにとっては褒め言葉じゃないんだよ……」
時が流れて週末。戦闘訓練の講義を受けるために馬車に乗っていた俺たちは、そんな制服姿のフルル先生が力なく肩を落としながら言った呟きを聞く。
なんでフルル先生は制服姿なんだ?『迷いの森』に向かう馬車に揺られながら俺は首をかしげた。
「ん、コスプレ?」
「止めてユノ君!『先生も生徒として戦闘講義に行く以上、制服着用は義務です』って教頭に言われただけなんだ!」
「先生というのも難儀なものじゃのぉ……」
ヒサメが呆れたようにため息をつく。制服姿のフルル先生のスチルなんて存在しなかったから新鮮だ……ゲーム内でパーティーに加入するときも白衣だったし。
「学園側もそんな事言いながら、すぐにボクの学生服を用意するのは無理って言われてさ?
死んだ目をしながら体育座りをするフルル先生、ははっ……と力なく笑うその姿を見ていると何となく庇護欲に駆られる。
シアン姫もそう思っていたのか、隅っこで座っていたフルル先生を抱え上げて自身の膝に乗せる。フルル先生の腰に両手を回してホールド状態だ。
「うわわ……もう、シアン王女様やめてくれよ~。ボクは大人なんだぞ!」
「すみませんモーレット先生、でもどうしてもしたくなってしまって……ッ!」
「むぅ、王女だから無理矢理引き剥がせないし……助けてくれよタイタン君~」
無理ですフルル先生、俺も見てて凄いしっくり来ているので。あと助けを呼ぶなら一貴族の俺よりヒサメに言った方が良いですよ?
そういう意味で視線をヒサメに向けるが……あ、だめだ。ヒサメもしっくりきているのかうんうんと頷いている。
というわけでそのままです先生。俺は話題を変えるようにそもそも先生が制服を着るようになってしまった理由について聞く。
「というかなんで先生がパーティーに?戦闘訓練の講義では先生は引っ張りだこだった予定じゃ……」
「君たちのパーティーに入りたいという上級生が一人もいなかったってのと、教頭の『非常勤なんだから貴女がやればいいでしょ?』の一言のせいさ……ッ!タイタン君、教頭のあの薄い頭皮に効くデバフはあるかい?」
「絶対にやっちゃダメですからねタイタンさん!?」
シアン姫から慌ててダメと言われる。いや……ハゲる魔法とかこの世に存在しないから、あったとしてもやらないから。
それにしても、『俺たちのパーティーに参加する人がいない』のは予想していたが『フルル先生が参加することで強引に解決してくる』のは予想外だった。
俺としては教頭にはサムズアップしながら褒めたい気分ではあるのだが、フルル先生は『非常勤だからってヒマだと思われて仕事増やして良いと思ってるんだよあの
ユノは無表情でフルル先生をヨシヨシしながらカバンからリンゴを取り出してフルル先生に渡している……半分同情、半分あやそうとしてるよなユノ?
ありがとう、と両手でリンゴを持ってシャリシャリ囓っているフルル先生が死ぬほど可愛い。シアン姫に抱っこされているフルル先生にほっこりしながら、俺たちは『迷いの森』に向かうのだった。
さて、帰ってきたぞ『迷いの森』。そこらの草むらからスライムやゴブリンが出てくるが、その先からシアン姫やユノが狩っていく……速い速い。
「拙者の分がないのぉ……」
「まあ、俺たちのレベルならここいらのモンスターは一撃だしな」
「確かにこれじゃあ、ヒーラーなんて要らないと言うのも分かるね。ボクが学生服着る意味あったかな……?」
シアン姫のレイピアとユノのナイフがモンスターを串刺しにしていく、というかさっきからモンスターが出すぎじゃないか?俺が石ころを投げていた時と明らかにモンスターの数が多い。
俺がレベル1だった時にこの数が現れてたら終わってたぞ?
「っと、こっちからも出てきおったな。拙者も参戦するかのぉ!」
「あ、あぁ」
「ん?どうしたんだいタイタン君」
ヒサメが後ろから現れたスライムに突撃していったのを見送った後、あまりにも多すぎるモンスターの数を疑問に思っているとフルル先生が近寄ってきて俺にそう聞いてきた。
《ポイズン》のこともあったし、こういうのは素直に言った方が良いよな。俺は感じた変化をフルル先生に伝える。
「前に来たときより、明らかにモンスターの数が多いんです。俺たちのところだけ多いなら良いんですが……この量が他の生徒のところにもいたら、ちょっと対処が厳しいのではないかと」
「なるほど……確かにそうだね。シアン王女様やヒサメ王女、ユノ君があまりにも素早く倒しているから気にしていなかったけど、さっきから戦闘回数が多い」
「ですよね、救護テントの様子を見に行くべきかな……おーい!」
何か嫌な予感がする、そして『死亡フラグ』の匂いが微かに漂っている気がする……俺はシアン姫達を呼び戻して救護テントに戻るように提案した。
「ユノはまだ平気」
「私も、ケガはしてないんですが……」
「分かってる。だがこのモンスターの量、俺たちならともかく他の生徒のレベル帯なら壊滅してるぞ」
だから戻るべきだ、と続けようとしたところで『キャアアアアアアァァ!』と多数の生徒の悲鳴が!あっちは、たしか救護テントの方!?
「行くぞ!」
「何が起こって……っ!?」
「ふむ……これはちと不味いかもの」
俺たちは顔を見合わせ救護テントの方に戻る、そこで起きていたのは……大量のモンスターと戦う多数の生徒の光景だった。
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