第65話 王女とシャワー室

 私達はタイタンさんと別れた後、訓練場の更衣室に併設されているシャワー室に。寮まで戻る必要が無いのは良いですね~。


 制服のリボンを解いて、首元を緩める。ブレザーを脱いで、カッターシャツのボタンに手を掛けた……ところでヒサメ様とユノさんがこちらを見ているのに気がつきました。


「な、なんでしょうか?」

「……なんでもない」

「いやぁ、脱ぎっぷりが様になっておるなぁと思ってのお」


 そんな豪快な脱ぎ方してませんけど!?プチプチとボタンを外しながら口を尖らせていると、ヒサメ様が『単純に絵になっておるという意味じゃよ』と笑いながらリボンを解いていらっしゃいました。


 ホックを外してパサリと床に落ちたスカートを拾い上げて、更衣室のロッカーに収めた私はスパッツを脱ごうとして……ヒサメ様がスカートの下にスパッツを履いていなかったことに気がつきます。


「ヒサメ様!?スパッツは……」

「すぱっつ?とはなんぞや?」

「これ、ユノもシアン姫に付けろって言われた」


 ユノさんが自身の脱いだ黒のスパッツをプラプラさせながらヒサメ様に見せる。ヒサメ様はそんなものがあるのか!と驚いていらっしゃいました。


「その、激しい戦闘で下着が見えてしまいますから……」

「じゃ、じゃがその……肌にぴったり吸い付くようなものは拙者に合わぬと言うか」

「ヒサメ姫の下着、どうなってるの?」


 ユノさんが制服を脱いだヒサメ様の姿を見て首をコテンと横に向ける。確かに、ブラもパンツも見たことが無いタイプですね?


「ん?これは『さらし』と『ふんどし』じゃよ。どちらも一枚の布で出来ておってな、こうして結び目を解くと……」


 するっと胸に巻いた布を解いたヒサメ様が『さらし』というものを手に持ちながら倭の国での下着なのじゃよ、と私達の前に見せましたが……


 私はそれよりも、急に膨らんだヒサメ様の胸の方に驚いていました。うそ、私より大きい。制服の上からだと私とモーレット先生の間だと思っていたのに!


 あんぐり口を開けている私の横で、ユノさんがヒサメ様の胸を突きながら――


「ん、こんな大きいものどこに隠してた」

「あんっ、や、止めてたもう?さらしはきつく縛れば小さく出来るから刀を振るときに邪魔にならぬのじゃ……」

「ふぃ~、ボクもシャワー浴びよっかな!やっぱり朝からシャワーを浴びれる贅沢が出来るのがこの学園の良いとこ――」


 更衣室に入ってきたモーレット先生がヒサメ様を見て固まる。へなへなと絶望的な顔で床に座り込んだ後、ぺちぺち更衣室の床を力なく叩き始めました……


「なぜ世界というのはこんなにも残酷なんだい……?」

「その、モーレット先生……気持ちは分かります」

「シアン王女様は普通の大きさだから良いじゃないか……ボクは『貧』なんだよ」


 フォローに回ったら更にモーレット先生を傷つけてしまいました……私も決して小さくは無いんですよ?でもユノさんとヒサメ様が大きすぎるせいで私がなんか小さく見えてしまうんです!


 ゆるゆるともの悲しい顔をしながらモーレット先生が脱いでるのを見届けつつ、私達はシャワーを浴びる。ふぅ……汗が流れ落ちてさっぱりします、流石に汗だくの状態でタイタンさんに会いたくはないですからね。


 い、いえ!別にタイタンさんだけではなく王女として人前に出れないというのももちろんありますが!


「ハハハ、最近の子ってなんで発育が良いんだろうね?ボクも学生時代にちゃんと寝ておけば良かった」

「モーレット先生……」

「珈琲ばっかり飲んでるけど、牛乳を飲むことにすると今決めたよ、うん……」


 隣のシャワーを浴びながらモーレット先生がそう決意している、そんな落ち込まなくても良いじゃないですか。


 それにしても……肌綺麗ですねモーレット先生、本当に子どものようなたまご肌。モーレット先生の隣のシャワーを使っていたヒサメ様もそう思ったのでしょうか、モーレット先生に言葉を投げかけます。


「フルル先生殿はそのままでも十分魅力的ではないかの?ほれっ!」

「んんっ……もう、突っつかないでよぉ」

「おぉっ、もちもちな肌触感……っ!もっと触っても良いかの!?」


 ヒサメ様が興奮したように何回もモーレット先生の白い二の腕を触る。わ、私も……えいっ、わぁ!すごいもちもちすべすべです。


「これは……やみつきになりますね」

「ユノも触りたい」

「先生を囲んでぷにぷに触るんじゃないよもぅ!お返しだ!」


 モーレット先生がお返しとばかりに私のお腹を突っつきます。あぁん、くすぐったいです!


「おぉ、流石シアン王女様。シャワーの水が肌に弾かれてる……ハリがあってツルツルだ。ボク、何時間でも触っていられる」

「くすぐったいですよぉ、ってあれ?みなさんどうしてこちらを向いて?」

「……そういえば、他国の王女の身体を触れる機会などそう無いと思ってのぉ」

「貴重。ユノもこの機会にいっぱい触る」


 ヒサメ様?ユノさん?どうして近付いてくるのですか?お二人のシャワーの場所はモーレット先生を挟んで私と反対じゃないですか!

 あっ、ああ、んなああああああああっ!




「なんというか、はしゃぎすぎたのじゃ」

「はぁ……はぁ……ホント、反省してくださいね?ユノさんも……」

「ユノも、やりすぎた……かも」

「ま、まあ次シャワー浴びるときは見慣れてるだろうし大丈夫だと思うよ……うん」


 たっぷり1時間も使ってシャワー室から出てきた私達は、全員顔を真っ赤にしていました。

 そ、その。キャーキャーと騒ぎながら触りあいをしているとどんどん過激になっていってしまい……ユノさんの胸、すごいふかふかでした。


「タイタン君、流石に待ちきれなくて食堂行ったんじゃない?」

「あっ!今何時でしょう……って、一限まであと30分ぐらいしかないじゃないですか!?」

「朝食を抜くのはちと不味いのぉ、今から食堂に行けば間に合うかの?」

「……席、残ってるか怪しい」


 私達は急いで食堂に向かいます、同年代の女の子とワイワイ楽しくイタズラし合うのはちょっと夢だったので満足していたのは秘密です。


 食堂に到着したとき、私達が目にしたのは……テーブルを一席確保して、腕を組んで目を閉じているタイタンさんでした。


「ん、来ましたか。フルル先生、何食べたいですか?お子様ランチですよね?あぁ、大丈夫ですよ。分かってます、『あーん』も追加しますから」

「大変待たせてしまったのは申し訳ないけど、その罰だけは勘弁してくれないかなぁ!?」


 そ、そうですよ!私達も同罪ですから……その。『あーん』を私にも……なんて。

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