第64話 『悪役』と成長した王女

 俺はシミターを腰に提げなおし、返却予定だったロングソードを抜く。持ってきてて良かったー、それを見て不満そうにシアン姫が頬を膨らます。


「……私にはシミター使ってくれないんですか」

「さっきヒサメにも言いましたが、今の俺じゃ連戦が出来ないんですよ。それに」


 正直、レイピアのような突き技をメインに戦う武器と戦うのにシミターは練習不足過ぎるんですよとため息をつきながらシアン姫と対峙する。


 まあ、そもそもシミターを使うのは俺の練習だし。シアン姫のレイピアと戦うなら……ロングソードの方がやりやすい。


 それほどまでに、シアン姫のレイピア捌きは日々上手くなっている。


「シミターを見てどう思いましたか?」

「息も切らせぬような舞い踊る連続攻撃に、一撃が斧のような破壊力を持っている……感じでしょうか?正直、私には欠点というものが見えませんでした」

「シアン姫、あれはヒサメだからこそ出来たことなんですよ?」


 ウォーミングアップと言わんばかりに軽く打ち合いながら先ほどのヒサメとの戦闘を俺は解説する。


 基本的にレイピアは突けばすぐさま戻す動作を繰り返す。体幹さえしっかりしていれば、後方に流してもすぐにリカバリーが可能なんだよ。

 

 シミターのような湾刀を、相手の武器に当てて剣身を流すように使っている今の俺にはシアン姫の突き技には対応出来ない。

 そのことをシアン姫にありのままに伝えると……


「じゃあ私、タイタンさんに『強い』って思われてるという事ですか!?」

「えぇ、というか俺シアン姫に『弱い』とか『雑魚』とか一度として言ったこと無いですよ?」

「そういえば……」


 温いとか覚悟が足りないとは言ったが、弱いとは言ってない。というかレベルが10近く離れている俺に対して、攻撃面で圧倒している時点で才能ステータスは主人公に勝るとも劣らない。


 そもそも俺は最初に出会ったクラス分けの時からシアン姫のことを買っていたし。『ボス戦やこの『クラス分け』イベントの様に単発での戦闘なら火力として強い』って。

 そして今の彼女なら……


「さあ、休日の成果見せてくださいよ?」

「もちろんです!貴方の期待を凌駕りょうがしてやりますよ!ハァッ!」


 ギアが一段階上がる、先ほどまでの軽い打ち合いじゃ無い本気の一撃。その突きの狙いは……俺の足かッ!


 左足を狙ったシアン姫の突きを、俺は右足を軸として左足を引くように半身になって回避する。流石だな、いきなり勝負を決めにいかずに機動力を削ぐことを念頭に狙ってきたか!


 彼女も外れる事を予期していたのかすぐさまレイピアを引いて次の動作に移る。このまま《刺突一閃》を撃つ気か!?

 

「やぁ!《刺突一閃》!」

「くっ……!」


 半身になっていたのが幸いし、バックステップを踏むことでシアン姫の攻撃範囲から逃れる。だが《刺突一閃》は身体全体を出す言わばフェニッシュブロー、躱されればそれは致命的な隙になるぞ!?


 俺は目の前を高速で過ぎ去っていったシアン姫の背中に向かってロングソードを振り下ろす。今までのシアン姫ならこれで負けていたが……


「……っ、シッ!」

「そこから通常攻撃突き技に派生するのか!?」


 なんとシアン姫は、《刺突一閃》の動作モーションの関係上、一番最初に地面に着く右足を軸にそのまま一回転した!左足も訓練場の地面を擦りながら反転し、そのまま俺に向かって目くらましのように砂を蹴り上げて俺の攻撃を妨害。


 俺は舞い上がった砂のせいで攻撃の手を止めざるをえない、そう……シアン姫に


 シアン姫の戦い方がガラッと変わっている、明らかに進化している!《刺突一閃》で伸びきった腕を次の攻撃に活かすために、自分ごと身体を動かすのは俺から盗んだか?


 そのまま突きを放ってくるシアン姫に、俺は思わず後ろに下がる。そう、俺は下がらされてしまった……


「っ、ここ!《王剣発破》!」


 お互いの剣のリーチにいない、そうなれば『飛び技を持っているシアン姫が一方的に有利な状況』になる!


 すごい、すごいですよシアン姫!ゲームには無かった『相手にターンを渡さない』戦い方をしている!


 俺は迫り来る斬撃を横に躱しつつ、殺気が飛んでくる場所にロングソードを差し込む……と、その場所にシアン姫のレイピアが現れる。

 俺はロングソードの剣身でシアン姫のレイピアを受け止めるという離れ業を繰り広げながらシアン姫を褒めちぎった。


「流石ですシアン姫、防がれた時の次の手段を常に考えつつ『相手を倒す』ことだけでは無く『そのために相手を崩す』ことを考えて戦術を練ってますね!」

「~~っ、そうです!そうなんですよ、分かってくれましたか!?」

「最初にあったころとは比べものにならないレベルです!ヒサメとの《瞑想》のお陰なのか冷静に立ち回れてますね」


 打ち合いながら俺がシアン姫を褒めちぎっていると、目をキラキラさせて『頑張ったんです!』と言ってくる彼女。

 俺には見えるぞ、銀色の美しいイヌの尻尾がブンブン激しく振っているのが。もっと褒めてほしいと言わんばかりにシアン姫はその攻撃を苛烈にしていった。


 くっ、速い!レベルが上がったのもあると思うがマジで切れ味が1週間前と比にならねぇ!俺とは違う、舞いを見ているようで俺は無意識に声が漏れる。


「美しい……」

「~~っ!?」

「!?乱れたっ!」


 いきなりシアン姫の突きの精度が落ちた!?俺はその隙を見逃さずにロングソードでシアン姫のレイピアを巻き上げるように上に弾くッ!何かに動揺したシアン姫はそのままレイピアを弾き飛ばされる……俺の勝ちだ。


「どうされましたかシアン姫?集中力を欠いたように見えましたが」

「それはタイタンさんが……っ、もにょもにょ……」

「……?」


 もにょもにょ何を言ってるのか聞き取りづらい、俺が集中力を欠かせた?普通に戦法として使えるかもしれないから聞きたいんだが。

 俺がそう思って聞いてみるが、しきりに『絶対に教えません!』と顔を赤らめて頑として聞かない王女様。


 はぁ、とため息をついていると朝の鐘がなる。朝食やシャワーの事もあるし、ユノとの戦いは剣技の講義中かな。


「残念……」

「この後の剣技の講義でも戦えるんだ、まずはシャワー浴びて飯だ飯」

「おっ、じゃあ早速ボクはタイタン君に奢られるために待ってようかな!」


 カグラザカ学園、第2週が始まった。

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