第55話 王女と買い物

 私はトードー様とユノさんを引き連れてこの前ユノさんを連れてきた女性服店にやって参りました。


 目的はユノさんの私服を買うのと……単純に私も私服が欲しかったからです、トードー様も3年間こちらで過ごされますし可愛い服が売られている店は知っておくべきですよね。


「ほう、この国の服は見目みめうるわしいものばかりじゃのお!」

「倭の国ではこういったお洋服は無いのですかトードー様?」

「二人とも『ヒサメ』で良いぞ、硬っ苦しいのは気に食わん。拙者も距離を感じるのはちぃとばかし寂しいのでのぅ……それで、倭の国の事じゃな。倭の国では『着物』と呼ばれる反物たんものが多くての」


 このように生地を重ね合わせて立体的なひらひらを作るような服は無かったのじゃ、と女性服を物珍しそうに見るトードー様……ではなく、ヒサメ様。


 そういえば子どもの頃に見た倭の国の使者もヒラヒラとした服では無くシュッとした一反いったんモノを着ていらっしゃいましたね。あれが『着物』というのですか。


「ん、布一枚で服が出来るなんて便利。ユノも着る」

「意外と不便じゃぞ?足を大きく動かせぬから細かなすり足で無いとすぐ太ももの付け根まで足が見えてしまう」

「……安いならあり?」


 無しですよーユノさん。昨日お金『投資』したんですからちゃんとしたお洋服買いましょうね~?


 私達はこのままお買い物を続ける、あっこれ可愛いな。王家の者である以上、私の私服は全てオーダーメイドの一品モノではあるのですが……それでも注文内容を決めるのに女性服店は良い刺激になりますね。


 というわけで基本的にはヒサメ様とユノさんに合うお洋服を探すことになりそうですね。どれが良いですかね?


「ユノ殿は動きやすい服が良いのか?」

「ん。あと安いの」

「ふむ……おっ、これなんかどうじゃ!?柔らかいから動きの邪魔はせぬぞ」


 ヒサメ様とユノさんが良い物を見つけたようですね。私が二人の方に近寄ってみると……ヒサメ様の手には薄緑色のネグリジェが。


「それは寝巻きです!私服にしちゃダメですよ!」

「ほう……これは寝巻きなのか。薄くて袖が無いので動きやすいと思うたのじゃが」

「夏までは着れそう」


 そうでした、ヒサメ様はこの国の服事情は知りませんし、ユノさんは少し前までブラすら買えないほどに困窮していらっしゃってました……ネグリジェなんて知るわけ無いですよね。


 私がお二人に合うお洋服を選びます!だから下着コーナーに行かないでくださいませんか!?『これなら動きやすい』じゃないですからあああああ!



「はぁ……はぁ……ふぅ、やり遂げました私」

「ん。満足」

「拙者、こんなふりふりした服はあまり……っ」


 お昼になって天高く昇った太陽が眩しい、一仕事を終えた方の達成感というのはこういうものなのですね……


 ユノさんとヒサメ様の手を引っ張りつつ、似合いそうな服を手にしては更衣室に彼女達を放り込むのを繰り返していた私。そのお陰でこんなにも可愛いお二人が爆誕いたしました!


「動きやすいし、胸張ってもボタン取れない」

「そう言っていただけると、嬉しいですね」


 ユノさんがくるりと一回転してそう呟く。ユノさんには灰色の髪色に合うようにあえて白と黒というシンプルな色合いで統一してみようと思いまして、それで選んだのが白のカッターシャツに黒のショートパンツ。


 ユノさんが元から持っていた無骨なかわのショルダーバッグもアクセントとなって大人びた雰囲気が出ています……私センスありますね!


「のう……やっぱり拙者には合わないように感じるのじゃが」

「何言ってるんですかヒサメ様!ヒサメ様に似合ってますよそのお洋服!」


 一方ヒサメ様は恥ずかしそうに背を丸めて両腕で身体を隠すようにしている。何しているんですか、シャキッとしてください!

 ヒサメ様は黒髪がとてもお綺麗でしたので、赤やピンクといった激しい色では無く寒色系……今回だと水色のワンピースを選ばせていただきました。


 ヒサメ様は『ふりふり』と言ってますが、このワンピースはむしろ落ち着いたエレガント系。水色のロングスカートに携えられた、刀の黒色のさやが全体的に雰囲気をシュッと引き締めてくれますね!


「大丈夫、ユノは可愛いと思う」

「ユノ殿ぉ……ほんとかの?」

「はい、とっても可愛かわいらしいですよ!」


 私がそう褒めると、『ならば我慢するかの……』と諦めたようにヒサメ様が前を向いた。そもそもワンピースでダメなら学園の制服とか着れなかったのでは……?


 私がそう疑問に思ってヒサメ様に質問すると、ヒサメ様が困った顔になりながら――


「うむ……しかし郷に入っては郷に従え、慣れねばならぬと学園に来るまで着てきたのじゃよ。最初の頃など、すかーとすら着ていて落ち着かなかったものじゃ」


 余りにも破廉恥はれんちすぎではないかのぉ、とヒサメ様は顔を真っ赤にしておっしゃられた。


 ま、まあ確かに足を大胆に晒す上にズボンのようなものと違って激しく動けば下着が見えてしまいますし……

 あれ?待ってください、そう考えると『カグラザカ学園』の制服がなんだか卑猥なものに見えてきました!?


 流石に由緒正しい学園の制服なのでそんな目的では無いんですが……タイタンさんの前では絶対にスパッツを忘れずに履こうと気持ちを私は固く持ったのでした。


「今度はユノが案内する番。美味しいパン屋さんがある」

「ほう、『ぱん』か!拙者も昨日の食堂で初めて食べたが、あれは美味かったのお」

「倭の国では、米が主食なんでしたっけ」


 ユノさんが先導して、次の場所に向かう私達。楽しいですねっ、友達と遊ぶの!


……今度はタイタンさんも誘って一緒に買い物でもしましょうかね。

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