第54話 『悪役』と休日
朝、俺は寮のベッドで起きて……剣を掴んでから今日は休日であったことを思い出す。
そうだった、今日は朝練が無いんだった。俺はボーッとした頭を覚ますように顔を洗う、備え付けのタオルで顔を拭いて……よし、スッキリした。
服を着替えて……っと、私服も数が無いからクローゼットが寂しいな、新しく買うかぁこの機会に。
無地の白シャツに学生服のズボン、私服のズボンは『迷いの森』の時に全滅してしまったから……これでも私服っぽく見える、はず!
うん、貴族のくせに休日に着る服に困ってるとか終わってるな。絶対に買いに行こう、と俺は脳内の買い物リストに服を追加するのであった。
「らっしゃいらっしゃい!世にも珍しい
「ブルカウの串焼きはいかがー!?一本30ギルでお買い得だよー」
「おっそこの可愛い子ちゃん達、今ヒマ?丁度俺たちも同じ3人だし、何かの縁だと思ってそこでお茶しなーい?」
「邪魔、ユノ達忙しいの」
休日ともあって城下町の大通りは朝から大賑わいだ、左右で開かれている露店は料理から怪しげな物品まで様々。ここはゲームとは全然違うよな……
朝から元気にナンパしている集団もいる……あ、フラれた。諦めずに食い下がってるその中の一人が、乱暴に黒髪の女の子の腕を掴もうとして逆に捻り上げられていた。
すげぇ身のこなしだなあの子、っと遠くでボーッと見ているヒマなんて無かったんだった。武器屋武器屋……っと。
――――カランカラン……
扉に付いてたベルが鳴る。俺が中に入ると、所
カウンターの奥からはカンッカンッと金属同士がぶつかり合う鈍い音がする。鍛冶屋の人が
「すみませーん」
――――カンッカンッ……
「あの、すみませーん!」
――――カンッカンッ……
うーん、時間が合わなかったか?でもさっき俺が入って来た扉には『営業中』の看板が掛かっていたし……これは単純に
俺は返事が返ってこないのをそう解釈し、諦めて武器屋の商品棚を見ていく。片手剣、片手剣っと……あった。
「ふむ、この中で一番強い武器は『バスターソード』か……だが若干長いんだよなぁ」
今俺が持っているロングソードは大体1メートルぐらい、一方『バスターソード』は見たところ……1.5メートルぐらいか。片手でも使えるけど基本的には両手で握って戦うスタイルになってしまう、これだと回避重視で戦っている俺には扱いにくい。
他の武器も見てみるが、俺に合う武器は無い。剣身の幅が大きかったり重かったりと、ゲームとは違う現実的な問題に俺は頭を悩ませる。
最後の片手剣を見終わって、結局ロングソード以上に良い武器が見つからなかった。シアン姫とヒサメにお金をもらったのにこんな不甲斐ない結果に終わっちまうのか……?
「おう若いの」
「っ……!」
「俺の打った剣じゃ不満か?」
俺が眉をひそめてそう悩んでいた時に、背後から声がかかる。俺が振り返ると……全身から汗を流した筋骨隆々なスキンヘッドがいた。
「相談乗るぜ、若いの」
首にかけたタオルで顔を拭きながら、その男は笑った……
「ほう、ロングソード以上の武器か。これなんかどうだ、『バスターソード』」
「いや、これじゃあ俺の戦闘スタイルには合わないんだ。長いし重すぎる」
「ふむ……見たところ、回避重視の戦い方か?」
俺とその男は一緒に商品棚を見ながら話を始める。さっきまで聞こえていた槌の音が聞こえない、この男がこの店の店主なのか?
俺がそんな事を思っていると、あぁすまん!といきなり男が謝ってきた。なんだ?
「自己紹介がまだだったな。ようこそ『グリズリー武器屋』へ、店主のベア・グリズリーだ」
「そういえば、言ってなかったな。タイタン・オニキスだ、よろしく頼む」
「そのズボン……『カグラザカ学園』の生徒か。これからも俺の店をご
にかっと快活に笑うベア。俺も若干の汗臭さを我慢しながら笑顔を返した……って。
俺はそこで店主の言った言葉を思い出す、どうして俺の戦い方がわかったんだ?俺は不思議に思ってそのまま
「良く気がついたな、俺が回避重視の戦い方って。盾を使う防御型かもしれないのに」
「足の筋肉が普通の生徒より発達している、走り回っている証拠だ。その上『バスターソード』が重いと感じるほど腕の筋肉が無い戦い方なら回避型しかねぇとピンときてよ」
「ほう……」
『盾を使う防御型なら、左右の腕の筋肉にばらつきが出るがそれもねえしな』と言われ更に俺は
そう思っていると、ベアのおっさんは『ま、現場で剣振ってる奴よりかは素人目かもしれないけどよ』と前置きを置きながら種明かしをしてくれた。
「ま、オーダーメイドも長年受けてきているからな。それなりに戦い方ってのは色んな奴から詳しく聞くのよ」
「あぁ、なるほどな」
「そんな俺からの提案だが……ショートソードとかどうなんだ?」
回避重視の戦い方ならショートソードの方が小回りが利くぞ?とショートソードの方をオススメしてくるベアのおっさん。
分かってはいるんだが……ショートソードじゃダメな理由がちゃんとあるんだよこれが。
「いや、走り回っているとはいえ速度はそんなに無いんだよ。リーチはあった方が良い」
「あー……お前もしかして《前衛》の回避盾か?」
「いや、《後衛》の付与師だ」
俺がそう伝えると、一瞬目を丸くして『付与師が剣とはねぇ……こりゃまた珍しい』と呟くおっさん。それでもベアのおっさんは冷やかしだとは思わなかったのか真剣に俺の話を聞いてくれていた。
俺の悪評が広まってない場所での対応ってこんなにも柔らかかったんだな、俺ちょっと感動してるわ今。
「となると剣は護身用か?」
「一応剣の腕はある。あくまで攻撃用だ」
「攻撃用で、軽い剣……それでいてロングソード並のリーチかぁ」
うーん、と首をかしげるベア。ちょっと注文多かったか?そう思って流石に条件を減らそうとすると――
「どういう攻撃スタイルなのか教えてくれ」
「え?」
「ただ単純に回避して横から突っつくならレイピアで良いだろ?だが剣を持って敵とぶつかり合う戦闘をするならレイピアじゃ折れちまう。だからお前の戦闘スタイルと教えてくれ」
武器ってのは自分を守るためのもんだ、妥協はしたくねえだろ?とニヤリ笑うベアのおっさん。全く……いい人ってのはどこまでも優しいなぁ。
俺はベアのおっさんにできる限り詳細に戦い方を話す。ベアのおっさんから見て、今の俺にはどの武器が合ってるのかをゲーム知識では無い知識から学びたい。
「基本的に守りの剣で、反撃を主体とする戦い方だ。剣で敵の攻撃を逸らしたり強引に弾いたりする以上、レイピアじゃ耐久力に不安がある……教えてくれ、何が良い」
「そうだな……」
そう言って数秒考えた後、これなんてどうだ?と商品棚にあった片手剣の中から一本の武器を取り出すベアのおっさん。マジ?俺がその武器使っているのを想像付かないんだけど?
俺が口を引きつらせていると、ベアのおっさんはニヤリと自信たっぷりな笑みを浮かべた。
「耐久力があって、受け流しが基本的な戦術。強引に弾けもするし比較的軽い……お前にぴったりだろ?《シミター》は」
三日月型の曲刀が俺の手に渡される。今ならお買い得だぜ?とベアのおっさんは俺の肩に手を置いた。
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