第52話 『悪役』と王女の成長

「はい、あーん」

「……もぐもぐ。ねぇ、もう許してくれないかな?ボクも流石に恥ずかしくて死にそうだよぉ」

「何言ってるんですかフルル先生。助けてくれずに見捨てて笑い転げていたり、自分が困っているときに笑いすぎて呼吸困難になっていた事なんて。俺はぜーんぜん気にしてませんから……ほら、


 食堂でフルル先生を椅子に拘束した俺は、お子様ランチをフルル先生の目の前に置いてシアン姫達の目の前で「あーんの刑」を執行していた。


 もちろんオプションのよだれかけもちゃんと着けさせているぞ。顔を真っ赤にしながら涙目で懇願しているフルル先生を、鬼の心で無視して俺はスプーンをフルル先生の口に運んでいた。


「うぅ、タイタン君の笑顔が怖い……もぐもぐ。くっ、なんでこんなにお子様ランチが美味いんだ……」

「ちゃっかり食べさせてもらってますねモーレット先生」

「ん、これは幼女」

「拙者も『あーん』されたいのじゃが……」


 シアン姫とユノはフルル先生を見て身もだえている。フルル先生の幼女具合に母性がくすぐられているんだろうか?


 一方ヒサメは「あーんの刑」そのものに興味を抱いている。やだよ、普通の女子生徒にあーんとか完全にいちゃついてるカップルじゃねぇか。


「あのっ、私モーレット先生を膝に乗せてもよろしいでしょうか!?」

「ユノは頭撫でる……!」

「やめてくれないかい二人とも……よだれかけこれだけでも相当ダメージを受けているんだ、これ以上ボクを責めないでくれないかい……?」


 フルル先生がぷるぷる震えながらお仕置きはシアン姫達の昼食が終わるまで続いた。口が止まってますよフルル先生?ほら、あーん?




 そして午後、フルル先生が「もう無理、ボク今日保健室から出ない」と保健室に引きこもってしまったので俺たち4人は訓練場ではなく『風吹く丘』の方に移動していた。


 シアン姫は今日の朝練で実力的には問題ないと判断したし、ヒサメがついてきてくれたから万が一敵わなかったとしてもカバーする余裕が出来た。


 俺もレベルが上がったりブルカウの行動パターンに慣れたのもあるから大丈夫だろう……まあ、そんな万が一を起こせばシアン姫は訓練場でお留守番だが。


「シアン姫、ここは危険」

「ええ、分かってます」

「ん。全力を出せば生き残れる」


 ユノがかたわらで緊張しているシアン姫を勇気づけている。『風吹く丘』のモンスターの適正レベルは12、シアン姫のレベルは1だから一見無茶なように思えるが……シアン姫の全力なら倒せるはずだ。


「のう、タイタン殿?」

「ん?なんだヒサメ」

「本当に連れてきて良かったのかの?王女を」


 ヒサメが俺にそう聞いて来た。まあ、本来ゲームでレベル1を連れて行くレベ上げするなら『迷いの森』に行くのが定石じょうせきではあるんだが……現実で、そしてシアン姫だからこそ出来るチートが存在するから大丈夫だ。


「俺たちを遠くの方から監視しているシアン姫の護衛がいる。ちょっと色々あって俺に監視の目が付くことがあってな……かなり強いぞ、あれ」

「……何したのじゃお主。王女を闇討ちでもしたか?」

「そんなことしたら監視の目よりも先に死刑になるわ」


 まぁ、色々あったんだよと言葉を濁しつつシアン姫が危険になったらすぐに助けてくれる人がいる事をヒサメに伝える。


 そうかの、と納得したヒサメは安心したのかこの話を切り上げ前を向いた。ちなみに朝練にも顔を出している、ホント……『信頼を得るのが上手い先生だよな』。


 っと、今は味方なんだし気がつかないフリをしておかないとな。ボクは弱いんだよーってみんなに思わせているんだ、その努力を無駄にしちゃいけない。


「……だから、シアン姫のスピードなら余裕」

「なるほど、一撃では無く細かにダメージを……」

「のうお主ら、どう戦っておるのか拙者にも聞かせておくれ~」


 ヒサメがシアン姫とユノのところに行って会話に混ざる。ヒサメも倭の国の王女だから同年代の友人というのに憧れていたのか、彼女達と話題を合わせようと頑張っているのを俺は遠巻きに微笑ましく見ていた。




「やぁっ!」

――ブルウウゥッ!


シアン姫 の 攻撃!▼


ブルカウ に 34 のダメージ!▼


 レイピアで鋭く突いては、痛がって身体を浮かせるブルカウの破れかぶれの反撃を受けないように距離を取るシアン姫。


 そして再び距離を詰める時間を得るために、《王剣発破》で追撃する!


「ん、あのままなら倒せる」

「荒いがちゃんと攻撃の流れを切らさないようにしているな、ヒサメから盗んだか」

「ほう……凄いのぉ彼女は。目で盗みたいあらわす、学ぶ者として理想の姿じゃ」


 安定した戦い方をしているシアン姫に、俺たちはそう評価する。ブルカウがさっきから反撃に移れていない、それはレベル1であるシアン姫がレベル12の敵に対して圧倒していることの証左であった。


「終わりですッ!《刺突一閃》!」

「あ、焦った」

――ブルウゥ!


 一気に詰め切ろうと《刺突一閃》を放ったシアン姫。ブルカウに当たったは良いが……倒しきれない!ブルカウが反撃に角を振り上げようとする。はぁ……


タイタン の 《パラライズ》!▼


ブルカウの首 は 麻痺 になった!▼


 俺はその振り上げようとしたブルカウの頭ごと《パラライズ》で固定する。首が動かなくなったブルカウに今度こそシアン姫がトドメを刺した。


「はぁ……ありがとうございました」

「焦りすぎだ、ゆっくり組み立てていけ。ここは貴様よりレベルの高いモンスターしかいないのだぞ」

「うっ、そうですよね……」


 焦って勝負を決めに行ったシアン姫を軽く叱りつつ、ドロップしたブルカウの角を手渡す。ユノもヒサメもうんうん、と首を縦に振っていた。


「ブルカウの目、死んでなかった」

「若さゆえの焦りじゃの。拙者も律さねばならぬと日々瞑想めいそうをしておる」

「瞑想ですか……明日ご一緒しても?」


 うむ、とヒサメが頷く。俺も心の鍛錬はした事ないし、参加してみようかな?


 そんなことを考えながらも次のモンスターへと目を向ける……稼ぐぞ、俺。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る