第51話 『悪役』と4人目
「おい……今の、見たかよ」
「偶然、か?」
「いや、今の刀当たってただろ!トードー様の勝利をアイツが奪ったんだ!」
ザワザワと周りの生徒が騒いでいるが俺は勝ったという実感に打ち震えていた。
よし、よしっ!初めて出来た、剣技の疑似再現……ッ!《首狩り》は全然未完成だし《刺突一閃》はシアン姫ほどスピードは無かったが……出来た、出来たぞ!
「タイタンさん!」
「タイタン……すごい」
シアン姫とユノが嬉しそうに駆け寄ってくる。俺が二人に手を上げて応える、すまんまだ息が整ってないんだ……
ヒサメが横で自身の手を見て真顔になっている、さっきの戦闘を振り返っているのだろうか?
「す、凄いです!最後のアレ、《刺突一閃》ですよね!?」
「ん。後ろに回ったの、《首狩り》」
「はぁ……はぁ……どっちも、不完全だった、ですけどね……ふぅ。藤堂様が油断してくれたお陰で助かりましたよ」
いや、流石にあれは誰だって油断しますよーとシアン姫が言って、ユノもコクコクと首を縦に振っている。まあ、やったことと言えば刀を振り下ろすより速く地面に倒れ込むように身体を傾けて回避しつつ背後に回り込むまさに
俺ももう一度出来るかと言われたら怪しい、あの瞬間……負けたくないという想いで限界を超えた気がするしな。
やはりレベルを上げないとなぁ、と俺が思っているとヒサメが近付いてきた。その目はキラキラと輝かせて、妖艶な笑みを浮かべている……なんか嫌な予感がするぞ?
そして俺の前に来ると……思いっきり抱きついてきた!?
「なっ!?」
「……っ」
「はああああっ!流石、流石としか言えぬぞタイタン殿!最後の攻防に至るまでの流れ、それに勝ったと思った瞬間に緩んだ気を咎めんばかりの一撃!拙者、痺れたぞ!」
思いっきり抱きつきながら頬ずりしてくるヒサメに俺が固まっていると、どんどんシアン姫とユノの機嫌が悪くなっていく。いや勝ったじゃん!?
フルル先生が遠くの方で地面に転がりながらピクピクしてる、アレ絶対笑い転げてるだろ……
俺はヒサメの突然の行動に固まっていた身体を再起させ、ヒサメの肩を掴んで引き剥がす!やんっ、と艶めかしい声を出したヒサメから距離を取りつつ俺はシアン姫とユノの側に近寄った。
「いきなり何をしてくれてんだ貴様!?」
「あぁっ、つれない態度……。タイタン殿!気軽に拙者のことを『ヒサメ』と呼ぶのじゃ!」
「なんか身の危険を感じるのでヤです!藤堂様!」
そうだったそうだった、ヒサメとの戦いですっかり忘れてた!ヒサメは強い者に対して心酔してしまう性格、それこそ……自分が負けたヤツに一目惚れしてしまうぐらいにはッ!
顔を赤らめながらもじもじしているヒサメに、シアン姫が慌ててツッコミを入れる。
「なっ、ななな何をいきなり言い出してるんですか!トードー様!?い、いいいいきなりタイタンさんの事を名前呼びなんて……ふしだらでは無かったのですか!?」
「む?別にふしだらでは無く、『倭の国では異性を下の名前で呼ぶのは親しき仲でしか許されぬ』というだけじゃぞ?拙者とタイタン殿はすでに親しき仲!そうであろう!?」
「いえ、全然なんのことか分かりません『藤堂様』」
あんなにも昨日熱い一時を過ごしたのに!?と一人トリップしてしまったヒサメに、背後から《桜花飛沫》を叩き込むことを『熱い一時』と呼称するんじゃねえと鋭く訂正するが……ヒサメのやろう、聞いてねぇな。
ヒサメは一旦無視して、さっきからブリザードのような凍てつく目をこちらに向けているユノに俺はおそるおそる声をかける。
「あのー……ユノさん?」
「……何」
「か、勝ったぞー?」
「……そう」
会話が続きません!なんで!?この前めっちゃ自然な感じに会話出来てたじゃん、初めて会ったときでもこんな口数少なくなかったよ!?
俺がいつユノがナイフを出してもおかしくないな……と冷や汗を流していたそんな時、ザワついていた生徒の中からハルトが大声を上げた。
「はっ、何が『流石』だよ。そもそも最後の攻撃、ヒサメの方が先に当たってたじゃねぇか!なぁ?」
「拙者の名を気安く呼ぶな、痴れ者。拙者の名を呼んで良いのは拙者が認めた者のみ、下らぬ妄想を吐いているなら斬って捨てるぞ」
「ぐっ……そ、そういえば倭の国には『女は男を三歩後をついていく』なんて言い伝えがあったな!それで勝てたけどわざと負けたように言ったんだな?」
この国じゃそんな事は無い、取り繕わなくたって良いんだぜ?俺はお前の味方だ、と言いながらヒサメの肩に手を置こうとするハルト。
次の瞬間、ハルトの首にはヒサメの刀が添えられていた……マジか、抜刀する瞬間が見えなかったぞ?
冷たい目をしたヒサメがハルトを見る、明らかに怒気と殺気がハルトの方に向いていた。
「触るな痴れ者。拙者の身体は強者にしか触ることを許さぬ、お主のような弱者が馴れ馴れしく触るでない」
「……っ、てめぇ」
「拙者を敗北も受け入れられぬお主と一緒にするでない……次は斬るぞ」
そう言って刀を納めたヒサメは怒気と殺気を霧散させる。一歩も動けなかったハルトがギャースカ何か負け惜しみのように不正だなんだと言っているが、俺を含めて女性陣は白い目でハルトを見ていた。
「あれ、醜い」
「タイタンさんの実力がどうしても受け止められないようですね……不快です」
「まあ、一度俺に勝ってるから認めたくないんだろ。あと普通に女の子が俺の所に集まってるのが気にくわないんだと思う」
「まあ、剣技の講義を受ける女の子って極端に少ないもんねぇ。ボクも自主練しているタイタン君達の方がケガをする可能性が高いからどうしてもこっちに寄っちゃうし」
「お主、アレに負けたのか!?いったいどういうことじゃ、教えよ!」
「ええっと、タイタンさんはですね……」
シアン姫が俺が負けたときの事をヒサメに説明している。ユノの凍てつく目もハルトの事があってうやむやに出来たし、その点に関しては感謝しといてやるよ野蛮人。
こういうとき嫌でも注目を集めるカリスマ性って便利だな……その後、ヒサメも『タイタン殿以外の他の生徒と同じ環境にいても強くなれぬ』と先生の前で宣言してしまい特別グループへと入れられた。
「よろしく頼むぞタイタン殿!も、もちろん拙者としてはお主が手取り足取り教えてくれるのを期待しておるのじゃが……!」
「よろしくお願いいたしますね『藤堂様』、『藤堂様』はとても強くいらっしゃいますので俺が教えることは何もございません」
「その冷たい目と丁寧な言葉遣い、距離を感じるのう……もっと愛を込めて『ヒサメ』と!さあっ!」
さあっ!とぐいぐい距離を詰めてくるヒサメ。その度にシアン姫やユノが機嫌が悪くなるから困るんだよ……仕方ないか。
「はぁ……愛はねぇが、このしゃべり方面倒くさいからやってやるよ。『ヒサメ』」
「~~っ、良いの良いのぉ。こういう対等なしゃべり方、密かに憧れておったのじゃ」
「……むぅ、私もまだ呼ばれたこと無いのに」
シアン姫が小さく何かを呟いて口を尖らせてすねていた。抱きつかれてないのに機嫌が悪くなるのなんで……?女心って、難しい!
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