第53話 『悪役』と新しい可能性

 今日も稼いだぁ……4人パーティーになってからモンスター集団の囲い込みが出来る様になったのが良かった。


 シアン姫もレベルが上がり、俺たちも戦闘経験を積めたから大満足だ。……俺もそろそろ《ポイズン》の新しい使い方を考えていかないとな。


 《パラライズ》は相手の行動阻害で、《ポイズン》は武器破壊……そう考えていたが《ポイズン》は武器破壊をするために時間が掛かりすぎるんだよ。


 思い返すのはアンデルセン王の戦い。シアン姫を盾に時間稼ぎをしなければ、俺はあの場で死んでいた……俺は《ポイズン》の説明を思い出す。


《ポイズン》:敵に毒を付与する魔法


 『敵』に『毒』を『付与する』魔法がポイズン。俺はこの『敵』という部分を逆手に取って、タイタンの憎しみに助けてもらいながらロングソードに毒を付与する事が出来た。


 そのロングソードで相手の武器と打ち合う事で、相手の武器を毒の継続ダメージを与えていた……もっと良い方法は無いのだろうか?


「どうしたのじゃタイタン殿?はっ、まさか拙者との将来を……!?」

「頭お花畑か貴様は……単純に自分に新しい可能性を模索していただけだ」


 ヒサメが抱きついてこようとにじり寄ってきたので素早く距離を取る。考え事の最中にノイズをぶち込んでくるな……ほら、ユノとシアン姫がまさか!?みたいな顔してるじゃねえか。


『風吹く丘』からの帰り道、俺は自分の学園に入ってからの事を思い返していた。


 学園に入学してから5日間、毎日剣技に関しての強化をしていた……それのお陰で気がついたことや最速カウンターという技を思いついたのは成長だと思う。


 だが、《ポイズン》に関しては武器破壊のみだ。人に使えないのもあって使い道の幅が中々広がらない……


 モンスター相手に有効な使い方が無い、心臓に《パラライズ》で即死させるのにも限界があると考えていた俺は《ポイズン》に新しい可能性を見つけようとしていた。 


「そういえば、明日はお休みですね!」

「おぉ、拙者は昨日学園に着いたから気がつかなんだが。明日は土曜日じゃな」

「ん。今日の稼ぎがあれば明日は休める」


 俺がああでも無いこうでも無いと考えている横で、シアン姫達が明日のことを話している。そうか、明日は休日か……


 ゲームでの休日では、好感度を上げたいキャラと一日デートをする日だった。

 といっても別に誰かを攻略したいという気もさらさら無いし、俺は『風吹く丘』でレベル上げかな。


「で、どこ行きますかタイタンさん?」

「ん?」

「鍛錬も、休まないと体潰す」


 シアン姫とユノが突然そう言ってくる。いや、そうは言っても俺には別に行きたいところなんて……あ。


 俺は腰で揺れている借り物を思い出して、しなければならないことをシアン姫達に伝える。


「俺は武器屋だな。このロングソード借りっぱなしだし、強いダメージを与える武器が欲しい」

「ぬぅ、拙者は一日中タイタン殿とむつまじくイチャイチャしていたいのじゃが……」

「ヒサメにとってのイチャイチャはどうせ『斬り合う時間』だろうが」


 この《バトルジャンキー》め……俺が肩を落としてため息をついていると、シアン姫とユノはヒサメと俺の間に割って入って来た。


「トードー様は私と一緒に城下町を案内いたしますね!」

「穴場は知ってる、ユノも一緒に行く」

「そ、そうか……拙者も学園以外の場所は知らぬのでそれは頼もしい」


 女性陣は休日にヒサメに街案内をするようだ。この街を愛しているシアン姫と、この街で生きてきたユノにとっては紹介したい場所がいっぱいあるんだろうな……俺も、鍛錬続きだったしここらで休息を取るべきだろう。


 疲れた頭で良い考えも思いつかないだろうし、《ポイズン》の新たな使い道は明日考えよう。


 俺たちは売却所にドロップ品を持ち込んで換金してもらう、そのお金を4等分しようとすると……ヒサメとシアン姫が拒否してきた。


「その、私はお金に困ってませんので……」

「うむ、拙者もじゃ。王女である以上、特に金は困っておらぬ」


 俺とユノは顔を見合わせる、流石にそれは忍びないよな。どうにかお金を渡したいところだが……俺がそう思っていると、ヒサメが快活に笑い飛ばしてきた。


「カッカッカ!ではこれは拙者からお主に対しての『投資』という事にしておけばよい。良い鍛錬は良い道具から成る、拙者達を強くするためにお主らの装備に使うのじゃ」

「ヒサメ……」


 こういうところは、ヒサメの良いところだよな。《バトルジャンキー》であるからこそ、強くなるために必要なことを深く理解している……俺はヒサメの言葉に了承し、お金を受け取った。


「わっ、私からも『投資』ですからっ。その……ちゃんと還元してくれると、嬉しいです……」

「シアン姫……分かりました。週明けを楽しみにしておいて下さい、必ず還元して見せます!」


 そういうことじゃ……いえ、それも嬉しいんですけど……ともにょもにょ言ってるシアン姫を横に、ユノとお金を半分に分ける。

 そうだよな、みんな俺に期待してくれているんだ。俺もこのままじゃ居られない!


 ヒサメが笑みを妖艶に変えて舌をペロリと出す。


「男子、3日合わざれば刮目して見よ……どれだけ強くなっておるのか楽しみじゃ」


 そんな呟きが耳に入ってゾワッと背筋に悪寒が走る。あれ?俺もしかして借りちゃいけないところにお金借りた?

 手に持ったお金の重みがいきなり増したように感じる……はぁ。

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