第42話 『悪役』と風吹く丘

「タイタンはやっぱり厳しいけど、優しい」

「なんだそれ、矛盾してるぞ?」

「分からないなら、良い」


 俺とユノは『カグラザカ学園』を出て、草原を歩いている。目的は今日の魔物狩り飯代稼ぎとレベル上げ、この近くだと……『風吹く丘』か。

 適正レベルは12と今の俺たちにとっては少し高めだが、足が遅いモンスターしか出ないのでユノはそこで昨日狩りをしていたんだろう。


 無茶だが、不可能ではない。スピードがない俺にとっては少し厳しい場所だが……やってやる。


「タイタンは、ユノと同じ」

「ん?」


 ユノが突然そんなことを言う。いや?全然違うぞ、俺は別に貴族だからとかいう理由で人殺そうとしないし。俺が首を捻っていると、ユノが言葉を続ける。


「何かに取り憑かれてる。ユノは復讐、あなたは強さ」

「……まあな、その為なら死地に迷い無く飛び込める自信はある」

「ん、やっぱり同じ」


 シアン姫はユノ達と違ってが足りない、とユノはそう締めくくった。まあ、それは環境の差でもあるから仕方の無い部分でもあると思っているので、俺はユノに苦笑いで返す。


 誰からにも慕われる存在、というのは気持ちが良いものだ。それが主人公補正のある野蛮人ハルトを見れば分かるだろう……


 何を言っても肯定される、それこそ王女様シアン姫に暴言を吐いても『何者にも怖じ気づかない勇敢な人』と勝手に解釈される野蛮人ハルトの人生は常にバラ色。才能も多分にあるが故に、努力という辛いことをしなくても幸せを享受できる。


 シアン姫も立場的には同じだ。王女という立場の関係上、誰からにも好かれる存在で……いつも誰かに守られて生きてきた。


 その環境の中で生きていたら、それが普通だと思って『甘え』がどうしても出てしまう。


 死んでも強くなろうとしている俺と、死んでも復讐してやろうとしているユノと同じ覚悟を持てるかと言われれば……無理だろ?


 そもそも『死ぬかもしれない』なんて状況、今までなかっただろうし。


 フードの男?あれは異例中の異例だ、しかもあの戦闘でも後ろでガタガタ震えてただけでほとんどの攻撃は俺が背負っていたし。


「あまり言ってやるな。俺たちとは文字通り、住んでるところが違うんだから」

「……ユノは嫌い」

「それ、シアン姫が聞いたら泣くぞ」


 和気藹々あいあいと剣術の講義で仲良かった人から嫌いと言われたら誰でも多少は泣くか。


 特にシアン姫はキャラクター紹介欄に『王女であるが故に友達に飢えていて、時々その思いが暴走して迷惑をかけてしまう』って書かれてる程に普通の学園生活に憧れているんだから尚更なおさら


「しらない、貴族は嫌い」

「そうか……」

「あなたは不可能なことを言わない、だから出来ない事を出来ない状態で置いているシアン姫は見ていて……」


 イライラする、そう言って無言になったユノ。その言葉、抜き身のナイフだからシアン姫ボロボロに傷つくぞ……


 俺はあくまで「俺と同じ速さで強くなりたいなら」という前提で話しているから、別に俺に合わせなくても3年間『カグラザカ学園』で学んで楽しく成長していけばそれでも強くはなれる。


 だが、その場合は置いていくだけだ。ユノは悠長に待っていられないだろうし、俺は周りと同じだと『生き残れない』……俺たちは強くならなければならない、っと。


「おでましか」

「ん。まずはあなたがやっていい」


 モンスターが現れた、名前は確か《ブルカウ》……闘牛のような見た目の大きな牛型のモンスターだ。

 突進攻撃は強力で、レベル10でも食らえばかなりのダメージを受けた経験がある……が。


「力が強い敵に試したいこともあったから丁度良い」

――ブルルル……


 俺たちに気がついて後ろ足を二回蹴る……突進攻撃の予備動作だ、俺はロングソードを抜くと同時にユノに素早く注意する。


「俺の横にいろ」

「……バカ」


 罵倒された、なんで?俺今からやるの、後ろにいたら危ないからな?そう思ったのもつかの間、ブルカウが自慢の角で俺を刺し貫こうと突進をかましてきた!


 ブルカウ の 《突進》!▼


 ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


 俺はロングソードを、もう片方の手をロングソードの腹に当てる。そして一歩左にズレながらブルカウの突進攻撃を後方に受け流すように剣をぶつけた!


 突進の勢いを止められないブルカウは俺の右スレスレを通る。その無防備になった横腹に俺は《パラライズ》を放った!


 タイタン の 《パラライズ》!▼


 ブルカウの心臓 は 麻痺 になった!▼


――――ブ……クッ……

「ふう、出来た」


 剣を使った超至近距離での回避、からのカウンター。ブルカウは俺の後ろでドサリと倒れる……そしてドロップ品をばらまきながら消えていった。


 野蛮人ハルトとの戦闘で思いついた最速のカウンター、それが今の一連の流れだ。

 今の俺には攻撃を真正面から受ける力は無い、だからオーク戦やフードの男戦では大きく回避しなければならなかった……


 それを剣を使って受け流しつつ、最小の動きで躱して横腹にパラライズを叩き込んで即死させる。タイタンが今までやってきた15年間の努力と、俺の持っているゲーム知識を合わせて初めて出来るカウンターだ。


「……今の、何?」

「ん?」

「ブルカウがあなたの横を通ったら、死んだ」


 意味が、分からない……そう目を丸くして呟いたユノに俺がやったことを説明する。


「突進を受け流しながら横腹から心臓に向けて《パラライズ》を撃ち込んだだけだ。上手く出来たが、手に痺れが残ってる。完全に勢いを流しきれなかった証拠だな……」

「……あなたって、もしかして最強?」

「まさか。心臓に《パラライズ》を撃つには0距離じゃないと届かないし、まだまだ剣の腕は不十分だ……こんなので『最強』なんてとても名乗れない」


 足りないものはレベルと、剣の腕。遠距離攻撃を使う敵が来れば俺の剣のレンジに来ないからこのカウンターは出来ない、避ける以外の手段を見つけないと……


 俺が今の戦闘について脳内で振り返っている間、ユノがポツリと呟いていた。


「こんなの、誰が勝てるの……?」

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