第41話 王女と『悪役』の差
強くならなければいけない。王女として、民を護る力が欲しい。そう思っているのに……
「はぁ、何やってるんでしょうか私……」
恥ずかしさのあまり訓練場から逃げ出してしまった私は、廊下で深いため息をつきます。
そりゃ、そりゃですよ?下着を見られて平気な子なんていません。それも一度ならず二度までも……!
タイタンさんに悪気がなかったのは分かってます、ええ分かってますとも。でもやっぱり女の子的にはダメなんですううう!
モーレット先生に膝枕されているタイタンさんを思い出す。嬉しそうに鼻を伸ばしちゃって……!私がユノさんと戦っているのを横目にデレデレして!
嫉妬とかではありませんよ、ええ決して!でも私達が頑張っている横であんなにリラックスしてる表情をされたらイラッとくるじゃないですか誰だって!
「もー!人の気持ちも知らないでえええー……全く」
落ち着きましょう、私は廊下の窓際に腰掛けて外を見ます。そういえば小さい頃、お父様に遊んで貰えなくて、窓からみえる城下町の景色を眺めながら平民の暮らしを想像していましたっけ。
自由に遊んでいる子ども達がいて、忙しそうにしながらも笑顔で働いている人がいて。
その中で私はただの一人の女の子として暮らしていて、一緒に女友達とわいわい色んな遊びをして楽しむ場面や同じ年齢の男の子に恋をして毎日その子を想って身綺麗にしている場面……
何度想像したでしょうか?王家の私が見ていた叶わない夢……それがまさか、『カグラザカ学園』に来てから曲がりなりにも叶っています。
色んな遊びとまでは行きませんが、一緒に剣を交えたユノさん。変態で傲慢で、王女である私を煽ってくるようなどうしようもない人ですけど、いざとなれば助けてくれる
私が恋い焦がれていたものではありませんでしたが、その夢に繋がる彼らはとても私の中で大きな存在です。
「そうそう、ユノさんとタイタンさんが……一緒に歩いていらっしゃいますね?あれ!?私だけ仲間はずれですか!?」
窓の外を眺めていたら学外に行こうと歩いている二人が。ズルい!また私だけ仲間はずれにして!私はすぐさまお二人の元に向かいます、なんで毎回私だけハブられているんですかああああ!
「ちょーっと待ってくださあああい!」
「あ、シアン姫」
「何?」
急いで追いかけて来たものですから息が上がって……はぁ、はぁ。ちょっと待ってくださいね?
息を整えた私はいきなり現れた私に驚いてる二人に向かってビシッと指さしました!
「私だけ仲間はずれにして
「何処って……」
「お金稼ぎにモンスター狩り」
早く行こ、とユノさんがそう言ってタイタンさんの袖を引っ張る。タイタンさんも満更でもなさそうな顔をして、そうだなとまた歩き始めました。
ズルい……ズルいです!なんかそういう『言葉にしなくても分かる』的なの!私は両手を広げてお二人を止めました。
それに対して気分を害されたのか二人は眉をひそめます。何ですか!?私には言えない事があるんですか!
「私も連れて行ってください!」
「はぁ……タイタン、どうする?」
「どうするもこうするも……」
私の方を向いて困った顔をするタイタンさん。いつもは厳しいですけど、こういった時は最後は私を助けて――
「置いていくしかないだろ」
「…………え?」
タイタンさんはそう言い切りました。え、そんな、嘘ですよね?驚く私を
「ん、同意見。シアン姫、そこどいて」
「なんで……」
「ん?」
「なんで、ですか」
私の声が震えます。怒り?悲しみ?違う、多分これは『言われたくないこと』を言われてしまうことへの恐怖。
聞いてしまってはダメだと分かっているのに、それでも
「今のシアン姫を守りながら戦える余裕なんて無いんですよ。俺たちは」
「守……る?」
「ん。ユノ達は今日のご飯代を稼ぐのに必死、シアン姫まで手が回らない」
「ま、待ってください!」
守るって何ですか!私が弱いとでも言うんでしょうか!?私だって強敵であるあのフードの男を倒したんですよ、その私を……弱いと言うのですか!
「はぁ……いい加減にしろよ貴様」
「……っ!」
タイタンさんが私のことを『貴様』と呼称する。これはタイタンさんが怒っているサイン……私は思わず口をつぐむ。
「ユノと俺は文字通り死に物狂いで強くならなきゃいけないんだ。貴様のような『寝てても王になれる』
「ぬ、温いですって!?貴方はっ、私がどれだけ強い想いで『民を護る』と……」
「だったら何故さっきのユノとの戦いで『王剣発破』を使わなかった」
「それはっ……」
「使えなかったから、という言い訳はさせんぞ。俺は動きの型は教えたはずだ、貴様の実力なら練習すれば出来たはずだ」
「……でも」
「ユノはやったぞ」
それ以上は話すことはないとばかりにタイタンさんが視線を外す。それが私が見捨てられているようで、すごい惨めで。
なんで、どうして……さっきまで、あんなに楽しげにやってたじゃないですか……呆然としている私に、ユノさんが近付いてきました。
「ユノ、さん……」
「死なない講義なら、良い」
「っ」
「でも、モンスター相手は死ぬ。寸止めなんてない」
だから、
私だって、死にかけましたよ?フードの男に恐怖して、それでも頑張るって決めて勇気を出して踏み出したんですよ?その私の気持ちが……
先ほどの剣技の講義とは打って変わった二人の雰囲気に私は硬直します。今度は私も追いかけることはせず、俯いてジッと固まっていました。
すると……
「ッチ、いつまでそこで立ち止まってる気だ貴様」
「……え?」
「足りないものは教えたはずだ、俺たちに付いてくる為に必要なこともな」
「…………」
タイタンさんが立ち止まって、そう言いました。少し振り返って、立ち止まっている私を睨み付けて言葉を続けます。
「俺たちと行きたいなら、さっさとやってこい。お前の言う『民を護る』という言葉の重みを証明しろ」
「ん、ユノもモンスター狩りに行ける人数が増えたらお金も稼げるから。良い」
彼はそう言い残してユノと二人で学外に出て行きました。残された私は、先ほどまでの
馬鹿だったのは私の方でした!何ですか『夢が叶った』って、脳内お花畑なんですか私は!?
思い出すのはフードの男の戦闘、タイタンさんが必死に戦いながらもそれを見ることしか出来なかった私……
倒した?勇気を出した?タイタンさんがいなかったら何も出来なかったくせに!?
王女という立場に甘えて、他より頑張っているからと勝手に決めつけて安心して!まだ『現実』を見れていないんですか私はッ!?
最後のタイタンさんの言葉は、最後通告であり……優しさだ。彼らがどれだけの覚悟でこの学園にいるのか私には分からない、でも私が彼らと比べて足りないことだけは今、教えてくれました。
「何がズルいですか……追いつけていない時点で、私が弱いだけじゃないですか」
足りない……足りないッ、足りないッッ!覚悟が、実力が……何もかもが!
私は訓練場に足を運びます。《王剣発破》の取得……だけじゃダメです、タイタンさんの様に先ほどのユノさんの動きに対応出来るように頭の中でシミュレートしないと。
強さというものに
与えられたもので満足できるほど、私はお利口ではありませんから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます