第43話 『悪役』と復讐者と王女と

「どうしたボーッとして?ブルカウの角1個だとオムライス1つも買えんぞ」

「……はっ!」

「ここはモンスターが蔓延はびこる場所だ、気を抜きすぎると……死ぬぞ」

「分かってる。ユノも行く」


 ユノが両手にナイフを持って次のモンスターに突撃していった。俺もこの場所で通じると分かったんだ、ユノに負けずにモンスターを狩らないと……


「ユノ!今日の稼ぎで少なかった方が今日の飯、相手に一品おごりな!」

「ッ!絶対勝つ」


 うお、更にユノが加速した!負けてられねぇ、俺も『風吹く丘』のモンスター狩り尽くす勢いでやらねぇと!


 俺とユノはその後、日が暮れるまで風吹く丘でモンスターを狩り続けた。最後の方、ブルカウが怯えて逃げていくのをひたすらに追いかけて狩っていたユノを見てビビったのは内緒だ……




「ふっ、4200ギル」

「くっ……3920ギルだ」

「ユノの勝ち」


 ぶい、とピースサインをして無表情でドヤ顔しているユノ。カウンター主体の戦い方の俺では、狩るスピードはユノの方が上だった……

 何で逃げるんだよブルカウ、俺に向かってこいよ!?


「約束」

「分かってるよ、飯一品おごりだろ?」

「ん。全力で高いの注文する」

「言っとくけど今の俺の全財産、昨日と合わせて4500ギルちょいだぞ」


「じゃあ、4000ギルを攻める……ッ!」

おごるのは飯一品だからな!?」

「むぅ。分かった」


 ユノが不満げに了承する。攻めるな攻めるな、俺には今『ロングソードよりも強い武器を買う』っていう目的があるんだから。

 

 ……なんというか、今日あの野蛮人に負けてからユノの態度が柔らかくなっている気がする。同情、なわけないか。

 でもこうやって気楽に話せるのは少しだけ楽だ、周りからめちゃめちゃ嫌われてるからな。


「そういや、俺の噂ってどこから湧いたんだ?」

「多分、ハルト」

「あぁ、アイツか……」


 俺がふと湧いた疑問にユノが短く答える。そりゃ3日で俺が完全に嫌われるように仕向ける事が出来るヤツ、あいつかシアン姫ぐらいしかいないわな。


 もしかしてあの野蛮人、自分の好きなルートに早く行きたいから俺を『悪役』になるように強引に仕向けたのか……?いや、考えすぎか。


 しかし、改めて主人公補正の凄さを実感する。まるで洗脳だな、フルル先生やシアン姫、ユノはハルトのご都合展開に巻き込まれる前に俺に会ったから今日の講義中にハルトの味方をしなかったとか?


 流石に俺の影響力を高く見積もりすぎか……俺は難しそうに眉をひそめていると、それを俺がイラついていると勘違いしたのかユノがフォローに入る。


「大丈夫、ユノはあなたが強いの知ってる」

「ユノ……」

「ユノが戦って、ハルトは殺せるけどタイタンは殺せない」


 袖をちょいっと引っ張って無表情でユノが俺を見る。全く……俺はガシガシとユノの頭を撫でた。


「『今は』、を付けとけよユノ。俺を殺せないと復讐なんて夢のまた夢だし、ハルトの才能はムカつくけど本物だ。気を抜いてるとすぐ抜かれるぞ」

「……分かった」


 俺はユノの頭から手を離す。ユノが両手で頭を抑えてしばらくボーッとした後、手櫛てぐしで髪を整えた。すまん……


――ヒュンッ

「ッ!」


 訓練場の裏手を歩きながらそんな雑談をしていると、突然訓練場の中から風切り音が聞こえた。何か細いものが鋭く通り過ぎた音……俺はユノと顔を見合わせ、お互いに頷いた。

 やはり、俺の聞き間違いじゃ無かったか。こんな時間まで訓練場で剣を振ってるヤツがいるだと……?


 俺たちは慎重にその音が聞こえた方角へと足を進める……すると。


「ぜやあぁあ!」


 シアン姫 の 《王剣発破》!▼


 訓練場の地面を浅く切り裂きながら衝撃波が飛ぶ、威力はアンデルセン王より弱いけど間違いない、《王剣発破》だ!シアン姫、やりやがったな!

 

「はぁ、はぁ……ダメ。こんなんじゃユノさんに勝てない、威力もスピードも……」


 シアン姫はそう一人呟いて、また《王剣発破》の構えに入る。シアン姫、ユノを越えようと……!


「あれじゃダメ」

「ユノ?」

「あの衝撃波、初見だと当たるけど。もう見た」


 ユノがそう言って訓練場に入っていく、おい!?シアン姫はいきなり入って来たユノを見て驚く、俺もユノに続いて訓練場に入った。


「ユノさん、タイタンさんも……」

「それじゃユノは殺せない」

「っ……!」


「おいユノ!」

「タイタンは黙ってて」


 ユノは鋭く俺を制止する、シアン姫は唇を強く噛んで下を向いていた。ユノの言葉口撃は続く……


「確かに衝撃波を放つのは初見だと強い」

「じゃあ……」

「それだけに依存してちゃダメ」


 《刺突一閃》を混ぜる戦い方や、対人の読み合いとか。しなきゃいけない事はいっぱいある、とユノはバッサリとシアン姫を斬り捨てた。


 その言葉は、今日一日やっていたシアン姫の努力を否定する言葉。おいおい、いくら貴族嫌いとはいえそれはダメだぞユノ。


 ちゃんと相手の努力や功績は認めないとそれは慢心に変わる、俺が眉をひそめていると――


「では……」

「…………」

「ではどうしたら良いんですか!?あなた達に置いていかれて、一人で強くならなきゃいけなくてっ……!これ以上の努力をどうしたら良いんですか!?」


 頭を振りながら自分の無力を嘆くシアン姫。目には涙がたまり、持っていたレイピアを取り落として座り込んだ。


 そんなシアン姫にユノはさも当然と言った顔でシアン姫に告げる。


「?ユノやタイタンと戦えば良い」

「え?」

「別に彼は《王剣発破》?を使えなかった事を足りないと言ってただけで、『一人で強くなれ』とは言ってない」

「あっ……」


 ユノの言葉にシアン姫は何か気がついたかのように目を見開く。そうなんだよな、フルル先生に『一人で強くなろうとするんじゃないよ』と言われた以上、俺は他人に一人で強くなれとかは言わない。


 ユノだって俺を使って強くなっているし、俺も自身の中にいるタイタンを見習っている。『一人で強くなれる』のは、それこそハルト野蛮人レベルの才能があるヤツぐらいだ。


「ユノは、タイタンを殺す気で戦っている」

「……っ、それは」

「間違っているのは分かってる。でも、そのために考えるしそのために彼に質問する」


 それを彼は了承してくれてる、とユノはジッとシアン姫の目を見る。


 分からないだろうな……俺が殺されるのを良しとしている事も、殺したいほど嫌っているヤツに教えを請おうとしているユノの事も。


 それを受け入れるほどの覚悟が俺たちにはある。そう考えていると、意外にもシアン姫は俺たちの関係に口出しをする事は無かった。


「殺すつもりなのに……その人に教えを請うのですか?」

「ん。ユノは、強くなるために彼に甘える」


 だから、シアン姫も強くなるためにユノに甘えて。そう言って座り込んだシアン姫に手を差しのばすユノ。


 シアン姫がそろりそろりと緩慢な動きでユノの差しのばした手を握る。ユノはシアン姫を引っ張り上げながら――


「ユノの手を握った以上、半端は許さない」

「っ、はい。お願いしますユノさん」

「ん。殺す気で来て」


 じゃないと、死ぬ。そう言ってシアン姫から手を離したユノはビシッとシアン姫に指をさした。


「まず、飯を食べる。彼に教えられた強くなるための最初のこと」

「……なんですか、それっ」


 ユノがそう言うと、シアン姫が微かに笑う。なんですか、飯は重要ですよ?ここの飯が美味いのはシアン姫が教えてくれた事じゃないですか。


 俺たち三人は、食堂に向かって飯を食べた。何故か流れでユノだけじゃなくてシアン姫にも飯を奢るはめになったが……まあ、ユノとシアン姫が楽しく会話しているのを見れたから良いか。

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