第28話 『悪役』と主人公

 ハルト・ウルリッヒ、『学園カグラザカ』における主人公。作中ではいつも半透明で黒一色で塗りつぶされた男性素体そたいで描写されていたもんだから、どうりで目の前のイケメンの顔を見たことが無いわけだ。


 作中で主人公は様々な生徒と交流を広げ、そのカリスマ性とコミュ力で学園の中心になっていくのが『学園カグラザカ』の本筋のストーリーだ。


 平民の立場でありながら貴族に物怖じしない態度と、恵まれた才能と強さ。それが主人公……この場合はハルト・ウルリッヒがその人物にあたる。


「ふんっ、やっと観念したか」

「…………」


 俺の記憶が正しければこんなチンピラみたいな受け答えはしてなかった気はするけどな?


「決闘の内容は?」

「おう、コラ。その前にこの手のヤツ解除しやがれ」

「俺は回復師ヒーラーじゃないから無理だな。そこら辺にいる奴らに《アンチ・パラライズ》を掛けてもらうか、解けるまで待て」


 そう、俺は付与師であって回復師ヒーラーじゃない。自分が掛けたデバフは別の場所に掛け直すか解除出来るまで待つしか無い……まあ、自分で解除出来たとしてもこんなヤツに使ってやる気は無いがな!


「《アンチ・パラライズ》……頑張ってハルト君っ、あんなやつに負けないでね!」

「おうっ、俺に任せとけ!」


 俺たちを囲んでいる生徒達の中から一人の女子生徒が出てきてハルトに《アンチ・パラライズ》と熱い声援を掛ける。


 それに応えたハルトの言葉に、周りの生徒が色めき立った。うぜぇ、『頑張ってー!』とか『期待してるぜっ』とか周りがハルト中心に掌握しょうあくされている。


 主人公補正……よくゲームでも物語りでも言われる『ご都合主義』な展開を引き起こすカリスマ性。


 この異常な光景が俺の目の前にあるのも、こいつのせいか。俺が四面楚歌な状態でうんざりしていると……


「なんですかこの集まりは?一カ所に人が集まって騒いでいたら迷惑ですよ」

「うるさーい……ボクは眠いんだよ、騒ぐなら保健室の近く以外のところでやってくれないかい?ふわぁ……」


 シアン姫が不思議そうに、そしてフルル先生がすっごい眠そうに来た。シアン姫がこっちに来ようと歩き始めると、彼女の歩みを止めない為にザッと今まで俺の道を塞いでいた生徒が割れるように両端に寄る。


 この光景だけ見ると本当に王女様だな、本当はポンコツでワガママだけど。というかシアン姫のお陰で道が開けたじゃん、決闘する意味なくなったわ。


「むぅ、君はなんで昨日の今日ですぐケガをするような真似をするんだい?」

「モーレット先生、ケガとは?」

五月蠅うるさくて保健室にまで声が聞こえてきたんだよ、『決闘』だってさ」

「何ですって!?」


 俺を前後に挟んで会話する二人。いやあの、なんで俺挟むんですか?保健室から出てきて絡まれたから、フルル先生は後ろから来たしシアン姫は前から来たのは分かる。


 でも会話する時はせめて人を挟まない方が良いと思うぞ?ほら、横にずれるとかさ……俺がそう思っているのを余所よそに、二人は状況を確認していた。


 そして決闘の話になると、目をつり上げてシアン姫がこっちを向いた。ケガをした次の日に決闘とか何考えてるんですか!?とか言って心配してくれるんだろうか?


「私が先です!」

「あ、止めるとかでは無いんですね」


 思ったより脳筋だったわうちの王女様、フルル先生がはぁ……とため息をついてシアン姫のところまで歩いて近付く。


 そしてペシリと軽くシアン姫をはたいた、身長が足りなくて叩いたのは頭じゃ無くてお尻だったけど。


「ひゃんっ」

「彼は病み上がりだぜ?先生として、『決闘』は許可しないな」

「ああいえ、シアン姫のお陰で決闘しなくてよくなりましたので大丈夫です。ご心配をおかけしました」

「私の、おかげ?」


 シアン姫が首をかしげる、あなたはもう少し王女という自覚を持ちなさい。俺が悩んでた生徒の壁、モーセの奇跡みたいに割れたぞ?


 それはそれとして……道が開けた俺は、フルル先生に軽く頭を下げる。騒ぎが大きくて起こしてしまったんだ、本当に申し訳ない。


「お騒がせして申し訳ございませんでした。ゆっくりお休みになられてください」

「まぁ、ケガしないのなら良いよ……」


 そう言いながら、ちょいちょいと手招きをするフルル先生。なんだろう?俺が先生の目線に合わせるようにしゃがむと……先生は俺の顔を両手で優しく掴んできた。


「むぎゅっ」

「君は嫌われても目的が達せられれば良いと思っているタイプの人間だと思うけどさ、『嫌われに行く』のと『嫌われる』は似て非なるものだぜ?」

「ふるるひぇんひぇい……」

「君の努力や覚悟は伝わる人には伝わっているから。周りを遠ざけて一人で強くなろうとするんじゃないぞ、タイタン君」


 小声で言って微笑むフルル先生。先生はどこまでも俺のことを考えて心配してくれていたのを感じて思わず涙ぐむ。ママぁ……


 じゃあボクは寝るから、絶対にうるさくするんじゃないよーと保健室に戻っていったフルル先生を見送った後、俺はシアン姫と一緒に歩き始める。


「むぅー……」

「なんですかシアン姫、そんな不満げな顔して。そんなに俺と決闘したかったんですか?」

「違っ……くは無いですけど、どんな話してたんだろうなぁって……」


 あんな親しげに、顔まで近づけてと口を尖らせているシアン姫。そんなに除け者にされて秘密の会話をされていたことが不満だったんだろうか?


「悪い話じゃありませんよ、シアン姫」

「別にそこは気にしてませんっ」

「?」


 その後もブチブチ「変態……」とか「馬鹿……」とか歩きながら言ってくるシアン姫。すみませんって、次からはちゃんとシアン姫も混ぜて一緒に内緒話をしますから……


 ん?違和感の解決?それはあの場から動けなかったときの優先度だ、今は動けるようになったのだからもっと有意義なこと強くなるために時間を使いたい。


 というかフルル先生ママに「決闘するな」って言われたんだからやっちゃダメだろ?


 俺たちはそのまま訓練場の方へと歩いて行った。後ろや周りから凄まじいほどの怒気や呪詛のオーラみたいなのをヒシヒシと感じてるけどぬるいぜ、アンデルセン王の方がまだ怖かったわ。


「舐めやがって……タイタン最弱キャラの分際で……」

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