第29話 『悪役』と実験

 訓練場でシアン姫と俺は横に並んで剣を構えている。決闘しないんじゃなかったのかって?大丈夫だ、今からするのは決闘じゃ無くて『実験』だからな。


「予備の剣借りられて良かったですねタイタンさん」

「えぇ、本当に助かりました。どっかの誰かさんに剣技の講義をしこたま入れられたのでね、少しでも強くなっておかないと」

「うぅー、もう許してくださいよぉ……」


 シアン姫がシュンとする。うっ……さっきフルル先生に言われたばかりなのに俺ってヤツは。


 皮肉を言ってしまったことを反省して、シアン姫のフォローにまわる。


「大丈夫ですよシアン姫、俺としてもフードの男での戦闘で接近戦の弱さを痛感しましたので」

「ほんとですか……?」

「えぇ、むしろ厳しい道に連れてきてくださってありがとうございます。強くなるために、ぬるい環境にはいられない」


 そうだ、俺は強くなるんだ……空いていた手をグッと握っていると、シアン姫は「私、頼られてますっ」と明らかに嬉しそうに破顔はがんしていた。


 イヌみたいだなぁ……シアン姫に尻尾が生えてブンブン振ってる幻想が見える。俺がイヌ耳が生えた王女を想像して一人萌えていると――


「あ、あの……」

「はっ!す、すみませんシアン姫!つい無意識でっ」


 無意識に俺はシアン姫の頭を撫でていた。俺は慌てて撫でていた左手を離す、シアン姫の顔が赤い……そら怒るよなぁ、犬扱いされたもん。俺、殺されるかもしれない。


 俺が来たる《刺突一閃》に備えていると、意外にもシアン姫は何もしてこなかった。


「い、いえ。許してあげます、ですので早く始めちゃいましょう」

「は、はい」


 若干早口でシアン姫がそういう。シアン姫、そんなにも強くなりたいと……


 思い返すのは昨日の戦い。俺がもう限界だったときに目の前に現れたシアン姫が言った言葉――


『はぁ、はぁ……私の目の前で、民は殺させません!』


 彼女の王女としての覚悟。強く、気高く、全てを守ろうとするその意思は……俺と同じだ。


 すみませんシアン姫!俺は意識を切り替える、剣を持てばそこは戦場……緩んだ気持ちを引き締めなおせッ!


「まずは《刺突一閃》を見せてもらいますか?」

「わ、わかりました。っすー……ふぅ。《刺突一閃》!」


 シアン姫 の 《刺突一閃》!▼


 ふむ、やはりスピードが乗って良い突きだ。レベル1でこの突きが出来るなら、レベル10の俺なら真似ぐらいなら出来るんじゃ無いか?


 先ほど見たシアン姫の一挙手一投足を、俺のゲーム知識と共に再現してみる。右足を踏み込んで身体全体を前に出しながら……突く!


「《刺突一閃》!」


 タイタン の 攻撃!▼


「うーん、キレやスピードが足りませんね。それじゃあただの突きですよ」

「ですよねぇ……」


 完璧に再現したはずだが、シアン姫のようなキレが出ない。スピードも遅く、これじゃあ使い物にならないな……


「私のレイピア使ってみます?」

「いえ、どちらにせよ出ないと思います。というか昨日の戦闘でシアン姫のレイピアで再現しようとしましたが、出てませんでしたしね」

「なるほど……どうしましょうか?」


 不安そうにシアン姫が聞いてくる。大丈夫、これはただの確認だ……『スキルを持っていないキャラがスキルを撃てるのか?』というな。


 だからそんな捨てられた子犬みたいな顔しないでくださいよ……俺は安心させるためにシアン姫に向かって笑う。


「昨日の今日で出来たら、それこそシアン姫の今までの努力は何だったんだって話になりますよ。あのキレとスピードは一朝一夕では出ないですから」

「~っ!そ、そうですよっ!直ぐに出来たら教える意味がありませんもんね!ええっ、ええっ、そうでしょうとも!」


 分かりやすくご機嫌になるシアン姫。もう一回見ます!?とレイピアを持ち上げてるシアン姫をなだめて、俺は聞く。


「《刺突一閃》では無かったですが、構えの型や突きまでの動作には問題はありましたか?」

「いえ、ちゃんと最後まで完璧でしたよ。剣のブレも無くしっかり突かれていたので、素人目ですけど剣の鍛錬はおこたってなかったのは分かります」


 構えの動作だけなら本当に《刺突一閃》が撃てるのかと思っちゃいましたよ、とシアン姫がそう言って微笑む。自分の中でじんわりと温かくなる感覚があった、褒められて良かったなタイタン君。


 でも動作モーションが《刺突一閃》に見えたのなら色々使い道は見えてくる。ブラフだったり、ステータスのごり押しによる擬似的再現だったり。


「対モンスターには通じませんが対人戦ならブラフとして通じるかもしれませんね、これ」

「そうですね!たしかに技が出るまでは本当に《刺突一閃》が出るかもっ、と思う程でしたし……あっ!」


 シアン姫もなにやら気がついたのか《刺突一閃》を繰り返し放ち始めた。突きのキレが弱かったりスピードが乗っていなかったりとバラバラだけど……もしかして。


「フードの男がやっていた『スキルのブラフ』をしようとしてるんですか?」

「はいっ、でもやっぱり難しいです……」

「うーん……」


 確かに《刺突一閃》はいきなり出されると避けづらいんだが、身体全体が前に出てしまう関係上、通常攻撃と相性が悪い。


 ブラフよりもスキルの数を増やして選択肢を増やした方がシアン姫には合ってる気がする。幸いにも、『ある剣技』を目の前で見られる機会があったからな……


「シアン姫」

「はい?」

「ちょっと付き合ってくれませんか?」

「ふえ……?ふええええええええ!?」


 俺は真剣な顔をしてシアン姫にそういった。彼女王家にしか出来ない剣技専用技……《王剣発破》の習得をさせる。

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