第22話 『悪役』と悪役
あー、身体動かねぇ。血を流しすぎて限界だ、霞む視界が赤く染まっている……これ全部俺の血か?
「……ぃ、目……さぃ……!」
シアン姫の声が聞こえるが、酷く遠い。すまん、もうちょっと、声……上げてくれ……
ゆっくりと視界が暗くなる。さみぃ、眠い、疲れた。視界が暗くなるのが俺のまぶたが落ちてきているからと気がついた時には、俺の意識は深い暗闇に沈んでいった……
「起きろ愚民」
「うぅん、後5分待ってくれ……」
「えぇい起きろ!平民
強く頭をはたかれる感覚。閉じていた目を開けると……そこには果てしない荒野が広がっていた。
「……地獄?」
「誰の心が地獄だ!?貴様殺すぞ!」
俺が呟いた『地獄』という言葉に噛みつく声が。そちらの方を振り向くと……腕組みをして
「……俺?」
「貴様が俺の身体を乗っ取っておるのだろうが!俺が本物だ!」
「本物って……タイタン、なのか?」
「ふんっ、だからそう言ってるであろう」
怒鳴って少し気が晴れたのか、腕組みを解いて近くの岩に腰掛けるタイタン。そして足を組んで地面に座っていた俺を見下ろした。
うっわ、すっごい絵になる。どこからどう見ても悪役だよタイタン君!
「ここは俺……タイタンの心の中だ。貴様が現実で気を失ったら、貴様の意識をこっちに引っ張って来られた」
「は?意味が、分からん……」
「俺も知らん。だが貴様に用があったからこれはこれで好都合だ」
タイタンはそう言うと組んだ足のつま先をこっちに向けた。というか頬に当たってる……
「まず始めに言っておく……俺は貴様が大っっっっっ嫌いだ!」
「えぇ……」
足のつま先で俺の頬をぐりぐりしながらタイタンはそう言った。痛い痛い痛い……突然始まったタイタンの
大嫌いって、まぁ俺はタイタンとは真逆な性格だからな――
「まず自虐的なところだ!俺は確かに剣の才能は無く、努力でもオルフの才には届かなかった……それを悔やむ気持ちも、無力感も当然ある!」
「…………」
「だがそれを自身の攻撃に使ったことなど一度も無い!そんなものは平民にぶつければ良い!」
いや、それはダメだと思うぞタイタン君……やっぱコイツは性格が終わってるなぁなんて思っていると、タイタンの次の言葉に俺は思わず目を見開いた。
「自分への攻撃などと言う生産性の無い行為に変えるぐらいなら平民にぶつけた方が自分の溜飲が下がるという結果が付いてくるだけマシだと言ってるのだ!貴様がやっている自虐行為は……『諦める』という行動に言い訳をする保険を掛けているだけに過ぎない!」
貴様が諦めるために……俺の無力感や悔しさを使うな!と、タイタンはそう言いながら俺の顎を蹴り上げる!
「ガッ……!」
「負の感情も、俺が今まで努力しても実らなかった時間もッ、全部『俺のもの』だ!俺のために使え、貴様の逃げ道に使うでは無い!」
次に、とタイタンは岩から立ち上がって痛みで
「ぐっ……」
「貴様は意思が弱すぎる。最初に言った『ちゃんと最強にしてあげる』とは何だったのだ?俺にとって最強とは『己の意思を最後まで貫ける力』だと思っているのだが……お前にとっての最強は『レベル差がある者や実力者にへりくだること』なのか?」
「……ッ、違」
「『う』、とは言わせぬぞ。先ほどのフードの男……貴様が言うにはレベル42だったか?貴様は先手を打たれ情けなく地面に這いつくばり、ムカつくあの王女を途中で見捨てようとした。これの
後頭部をかかとでぐりぐりされながら俺はタイタンの言うことを聞いていた。
言い返す事は出来る。「あの時は身体が麻痺状態だったから動けなかった」や「俺の目標は生き残ることであの王女を見捨ててたら安全に生き残れていた」とか……
だがそれは全て言い訳だ、『最強にしてあげるから』という言葉に反する矛盾した言葉。あの時タイタンに止められていなければ、俺はそれこそ口だけの軟弱者になっていた。
頭を踏まれている事に怒りが湧かないぐらいに心を打ちのめされる。そんな俺を鼻で笑いながらタイタンは言葉を続けた。
「俺ならせぬぞ、自分が決めたことを途中で放り投げるなど。圧倒的な力によって押しつぶされそうになった時……諦めるぐらいなら意思と共に心中してやる」
『迷いの森』に貴様が行くことを黙っていたのも、何をしても強くなるという意思があったからだ、とタイタンは少し足を持ち上げ……俺の頭を勢いよく踏みつけた!
「ぐぅッ!」
「反省しろ!意志を曲げるな、『天才』という言葉に
上から息が詰まるほどの怒りが落りてくる、だがその一方で……タイタンの期待が込められているのが分かった。
思い返すのは様々なルートで敵となる、ゲームキャラのタイタン。敵として現れれば1対4でも命尽きるまで戦い抜き、恋敵として現れれば愛の形は歪んでいたとしても最後までそのヒロインを欲し続けた。
ゲーム作品における『悪役』とは、いわば主人公を邪魔する存在。主人公視点で描かれる物語に『悪役』はただ悪として登場しなければならない。
だが『悪役』も信念がある……意思の強さがある……ッ!そこを曲げちまったら、ただのクソキャラになっちまうだろ!
思いっきり荒野の地面に拳を叩き付ける……何度も、何度も。いつしか頭の後ろに乗っていた足の感触は消えていた。
俺が顔を上げると、不機嫌そうな顔をしたタイタンが見下ろしている。その目はやはり怒りと……期待が籠もっていた。
「目は覚めたか?タイタン・オニキス」
「あぁ、しっかりとな。タイタン・オニキス」
「今の貴様は人としては及第点だが……
「分かってる」
周りの景色が薄くなっていく。身体が浮遊していく感覚と共に、俺たちが透けていく。
「俺に言われる前に動け、俺に言われる前に気がつけ。二度は言わんぞ」
俺に指さしてタイタンが言う。俺は強く頷いて立ち上がり、そして俺はタイタンに頭を深く下げる……これは気付かせてくれたタイタンに対しての礼儀と、今までの情けなかった俺へのケジメだ。
「お前の今までの人生を『否定』して悪かった。お前は確かに性格
「謝るなら一言余計だ馬鹿者……まぁ」
期待しているぞ、タイタン・オニキスよ。俺が知る最強になる、その時をな――
全てが消え去る寸前、タイタンがそう言ってニヤリと笑っているのが見えた。
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