第2話 『悪役』と現状

 タイタン・オニキス。身長175センチ体重60キロ、髪は母親譲りの金髪を伸ばしてゴムで縛っており身体は意外と引き締まっている。

 性格は酷く独善的で歪んでおり、ヒロインによくセクハラ発言をしたり貴族の権威を傘にやりたい放題したりと傍若無人な姿が学園ではよく見られる。


 これが、作中でのタイタン君の紹介……はぁ、何度見ても救えねぇ。さらに追い打ちをかけるようだが、作中の彼は死ぬほど弱い。


 寝取られルートでタイタン君が主人公のパーティーに入る場面があるが、まぁ弱い……もはや戦闘の邪魔まである。


 片手剣が装備可能なのだが、どれだけ強い片手剣を装備させてもモンスターにろくにダメージを与えられない。しかもAIがバカなのかそれとも仕様なのか、主人公に確率でデバフを掛けてくる始末……


 プレイヤーからのタイタン君へのヘイトは凄まじいものだっただろう、しかも寝取られルートだから折角育てたヒロインと強い片手剣を盗られて途中でパーティーから離脱する。


 そりゃ寝取られルートが大不評を買う訳だ。タイタン君がいるだけで戦闘が難化するわ、折角育てたキャラや武器を盗られるわで労力にあわない。


 ちなみに寝取られルートのタイタン君の最期は斬首刑だ、ざまぁと思った人も少なくないだろう。


話を戻そう。弱い、性格がゴミ、いるだけで不快……それがタイタン君だ。


「とりあえず俺が気をつければ性格に関しては前よりはマシになる……はずだ、多分。問題は弱さの方」


 今後、学園でどのルートに主人公が行くか分からない以上俺が最優先でどうにかしたいのは『弱い』という点だ。主人公と敵対するか仲間になるかは分かんないけど、とりあえず学園に行く以上は強さはある程度確保しておいた方が良い。


 『学園カグラザカ』はギャルゲーが基本ベースにあるが、ジャンルとしてはRPGだ。普通にモンスターが存在するし、ダンジョンだってある。それはタイタン君の今までの記憶からも確かであることが分かっていた。


 そして作中ではモンスターを倒すイベントが何回もある。そして多くのタイタン君がそこで死んでいった……


「流石に死ぬのは嫌だしな。となると、俺をどう育成していくかだが」


 そこはすでに思いついている、何周したと思ってるんだこのエロゲを?軽く100周以上やっていた紳士だぞこちとら!


 タイタン君は実は面白い仕様があって、寝取られルートでの戦闘では主人公がどれだけ耐性を積んでいてもそれを貫いてデバフを掛けてくるのだ……こいつは、付与魔法の天才なんだよ。


 それを主人公への嫌がらせのために全振りしていたのは流石タイタン君というべきか……それは置いといて。


「付与魔法の授業って学園に入ってからなんだよなぁ……しかも2年から取れる講義だったはずだからどうすっか?」


 俺は腕を組んで考える。魔法の習得は主に3つ、授業で習うか、モンスターからの魔道書ドロップか、フィールドダンジョンに出てくる宝箱から入手するか。


 授業で習うと時間はかかるが目当ての魔法を手に入れられる。一方モンスターの魔道書ドロップは、落ちる確率が低かったりするがすぐに魔法を覚えられる。


 宝箱は……はっきり言ってあまり希望は持てない。そもそも宝箱が存在することすらランダムで、中身もまたランダム。そう考えたらモンスタードロップより確率低いね?


 ハッキリ言ってタイタン君に剣の才能は無い。しかもゲームでは学園に入るまではみんな一様にレベルが1なんだよなぁ……実際に今のタイタン君も弟のオルフ君もレベルが1だし。


 そんな状態でモンスターを倒せるかと言われれば答えはノーだ。


「とりあえず、初期ダンジョンに潜ってみるか。色々ゲームとの違いを知りたいし」


 ワンチャンだけどゲームの知識と違って敵が弱かったりするかもしれないしね。俺はとりあえずレベル1の状態でも攻略できそうなダンジョンに目星を付ける。


「1年のころから自由に行けるダンジョンって、確かオニキス領家にあったよな?場所は、オニキス領家の屋敷から徒歩10分みたいな説明が……」


 俺はゲーム内で頻繁に見ていたマップを脳内で思い浮かべる。学園があそこにあって……オニキス家の領地がここにあるから……『迷いの森』は、東か。


 俺はすぐさま片手剣を引っつかみ外に出よう……としたところで身体に激痛が走る。改めて自分がアザだらけになっているのに気がついた。こりゃあ派手にやられたな、俺。


「まずは……身体の療養からだな。タイタン君に転生しちゃったのはもう諦めよう、学園に入る前で良かったよ」


 学園に入る前ならばまだ可能性はある。悪評やタイタン君の死をどうにか回避出来る余地が残されている。

 今は……12月か、ならば後3ヶ月みっちり鍛えるとしよう。タイタン君、凹んでる暇なんて無いぞ!君にはいっぱい死亡フラグが待ち構えているんだからな!?


 俺はそう自分に言い聞かせ、ベッドに寝転がったまま目を閉じる。俺の目標は無事に学園を卒業すること、オニキス家に居られないのはもう仕方ない。だから冒険者として生きていけるほどの強さを手に入れるんだ。


 俺はそう自分タイタン君に言い聞かせ、眠る。目が覚めたときには夜明けだったんだけど、晩飯に起こしてくれる使用人すらいなかったよ……ぴえん。


 まあ、タイタン君って腐って色々使用人に嫌がらせしてたらしいから仕方ないんだけどね?そのせいで暗殺されるルートもあるから、せめて3ヶ月間はちゃんと優しくしよう……ほんっと生き辛れぇなぁタイタン君よぉ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る