【書籍化決定】死亡フラグは力でへし折れ!~エロゲの悪役に転生したので、悪役らしくデバフで無双しようと思います~

夏歌 沙流

プロローグ

第1話 『悪役』と転生

 あ、これゲームの中だわ。そう気がついたのは今目の前で起こっている事に唐突なデジャヴを感じたからだった。


「タイタン……貴様は我がオニキス家の恥さらしだ!」

「代々剣聖とうたわれたオニキス家に剣の才が無い者が産まれるとは……なんと嘆かわしい」

「お兄様がこんなにも弱かったとは……僕は悲しいですよ」


 全身に走る痛みでうずくまっていた視界を無理矢理上げると、そこには嘲笑する弟の姿が。持っていた木刀を肩にトントンと叩きつつ、地面に崩れ落ちている俺を見下ろしてニヤニヤしていた。


 俺はこの光景を。実際に体験したわけじゃ無いけど、俺はこの光景を何度も見てきたはずだ……両親も俺を心配することは無く、遠巻きから俺のことを『恥さらし』だと言っているこの光景も。俺は画面越しに何度も見ている。


「剣聖と呼ばれている我がオニキス家に弱き者は要らぬ!」

「いくらオニキス家の長男とも言えども、この弱さじゃ家業は継げないわ。どうしましょう?」

「ご安心くださいお父様、お母様。このオニキス家が次男、オルフがおります故!」


 茶番だ……そもそも、これは対外的に俺よりも弟のオルフが家系を継ぐのにふさわしいと宣伝するためだけに仕組まれた試合だった。

 周りにいた使用人達も口々に「オルフ様がいたらオニキス家も安泰ね」とか「タイタン様……よっわ」とか言ってる。


「来年は貴様も学園に通う年、その学園にいる間だけはオニキス家の末席を汚すことを許可する。だが、学園を卒業したときは……わかっているな?」

「……っ!はい、お父様……」


 親子の縁を切られ、貴族から排斥されると言外に伝えられるタイタン。いくら努力しても才能には勝てず、弟のオルフにボコボコにされて、痛めつけられた身体が圧倒的な差を教えてくる。


 ここでタイタンは完全に心を折られ、せめてオニキス家に在籍している間にできる限りその名前に傷を付けてやろうと、学園では傍若無人な振る舞いを始める……ゲームそのままだ。


 俺は散々ボコられ傷ついた身体を引きずって自室に戻る。もちろん使用人は誰も俺のことを心配しない、それどころかオニキス家の恥さらしがやっといなくなるわっ!と聞こえるように嫌みを言ってくる始末。


 タイタンにとっては、親に認めて貰えるための最後のチャンスだった。そのために文字通り血反吐を吐きながら剣を振り、手にできたマメが潰れてでも必死に努力を重ね……弟のオルフに今、負けた。


 ここでタイタンは努力なんて無駄、全ては才能で人生は決まると考えて貴族に産まれたという事を才能と言い張り学園で色々な事件を引き起こしていく……


 俺は自室のベッドに寝転がり、天井を見上げてポツリと呟いた。


「仕方ねーよなぁ、だってタイタンって母親と不倫相手の間に出来た子どもだもん。オニキス家の剣の才能とか持ってるわけねーじゃん」


 そう、タイタンは母親と不倫相手の間に出来た子なのだ。王家のパーティーに招待されたときにイケメン貴族に一目惚れしたタイタンの母親あのくそビッチは、その貴族を誘って一夜を共にし、その時に妊娠。


 幸いにして母親似の子どもだったので、オニキス家の頭領……つまりタイタンの父親に黙って長男として今まで育ててきたという訳だ。


 母親にしてみればタイタンは不倫相手との証拠になるから目の上のこぶだし、父親としてみてもオニキスの血を引いてるのに剣の才が無いタイタンは領主を継ぐのにふさわしくないと考えている。


 弟のオルフも、家父長制である貴族の習わしがあるから、長男である俺を煩わしく思っていた、と作中で語られていた。


 ちなみにこの情報は全てゲームのクリア特典で知る事が出来る情報……解放条件は全ルートのエンディングを見ることだ。


 登場人物の過去や性格について事細かに書かれていたあのクリア特典を見る限り、タイタンはかなりこの時期に参っていたことがうかがえる。


「はぁ……まじかぁ。マジで俺、タイタンに転生したって事?うわー、悲惨だ」


 俺は一人愚痴る。もっと主人公とか……せめてモブでも良かったのに、よりにもよって悪役貴族のタイタン君かよぉ!

 

 『学園カグラザカ』。プレイヤーは主人公となってカグラザカ学園に通い、そこにいる様々なヒロインと恋愛を繰り広げながら冒険をする……エロゲだ。

 あんなシーンやこんなシーンが盛りだくさんで、しかもマルチエンディング方式を採用しておりそのエンディングの数なんと100以上。もはや訳が分からない……


 ハーレムエンドから気に入ったヒロインと結婚エンド、ホモエンドから悪の魔王エンドまで多岐に渡り、ネット上では『これ一本でエロゲに求める全てを満たせる』と星5評価が乱立していた程の神ゲーだった。


 では何故タイタン君に転生して俺がこんなにも頭を抱えているのか?それは、全てのルートでタイタン君がろくな死に方をしないからだ。


 ハーレムルートでは片っ端からヒロインを卑劣な罠にかけて犯そうとして失敗し、主人公に惨殺される。


 各種ヒロインルートでは貴族として生き続けたいと考えてヒロインと強制的に繋がろうとし、最期は主人公とそのヒロインの合体技に貫かれる。


 悪の魔王ルートでも圧倒的な力を持とうと悪魔と契約して人ならざる物として生まれ変わり、力を求める主人公によって心臓を抉られて死ぬ。


 凄いだろ?前世で何をしたらこんなにバリエーション豊かな死に方するんだよってぐらいボコボコにされる。しかも全エンディングを達成しないとさっきのようなクリア特典を見れないので、エンディング全回収が出来てない多くのプレイヤーがタイタン君にヘイトを溜めていたはずだ。


 「タイタン 邪魔」「タイタン 要らない」「タイタン 殺し方」と学園カグラザカで検索するとサジェストに出てくる所からもその嫌われようは分かるだろう。


「はぁ……まじかぁ」


 俺はもう一度天井を見上げて愚痴った。痛た……これからどうするか考えるためにも、まずはアザをどうにかしないと。

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