病院へ

 彩香さんとは完全に学校を出る時間が違えば、姿は全く見えない。

 本来なら、この時点で追跡ついせきは不可能だ。


 ところがモリコからすれば、太一くんの位置は分かっているので、地図を開いた途端、目的地である病院に『赤いピン』が表示される。


 そこに向かって移動する『青いピン』は、彩香さんだろう。


『ゴー、ゴー♪』


 地図を腕のシャッカルに表示させながら、僕は学校を出たあたりの下り坂を歩く。


 ここまで位置が分かるなら、どこに隠れていたって無駄だ。

 冷静に考えるとゾッとする。


 いつもの通学路を道なりに歩いている時だった。

 僕はある事に気づく。


「あれ。ここ」


 ラーメン屋の宣伝MRが、表示されていなかった。

 というか、設置されていたMRすら置いていない。


「あー……、潰れちゃったんだ」


 豚骨ラーメン食べたかったなぁ。

 少しだけ残念な気持ちになっていると、モリコが地図の前面に現れる。


『ラーメン屋?』

「うん。食べたかったな、って」

『仕方ないよ。んだもん』

「へえ。……え?」


 にぃっと笑って、モリコが教えてくれる。


『気づかなかったでしょ?』

「いやいや。でも、こんな田舎で、子供をさらうって」


 いや、場所は関係ないんだろうけど。

 まさか、こんな間近にそんな人がいるなんて、すぐに信じられるわけがなかった。


『またやろうとしてたから、私が先手打っておきました。えっへん』


 先手って何だろう。


『表面だけ見てると、気づかないんだって。ネットでもそうじゃん。相手の顔見えてないのに、”女です”って言ったら、みんな女の子だとでしょ?』


 僕は夢を見たがる男の気持ちが分かるけど、モリコの言ってるみんなって、老若男女ろうにゃくなんにょ関係ないだろう。


半信半疑はんしんはんぎくらいが、ちょうど良いと思うの』

「でも、誰も信じてくれないのって、寂しくない?」

『翔太くんにとって、信じるってなに?』


 ま、また難しい話を……。


 改まって聞かれると返答に困る。

 信じる、ってなんだろう。


「相手を信用する?」

『裏切られたら?』

「怒るよ。信用してるのに、そりゃないもん」


 アイドルが恋愛してました、なんてのを聞いた時は、枕を涙で濡らした時がある僕だ。

 裏切りは怖いのだ。


『翔太くんやい。自分で信じる、って決めたら、それはで、相手を信用をしないとダメだよ』

「な、納得いかない……」

『だって、本当の意味知らないで言葉使ってたでしょ。自分で決めた事って、自分に責任が返ってくるのは当然でしょ? 人のせいにしちゃダメだよ』


 モリコの言いたいことは分かるが、納得いかない。

 モヤモヤっとしてしまうのだ。


『ま、悪いけどね』


 物事は善悪じゃないよ、とモリコは言った。

 最近、こんな感じでモリコが難しい話ばかりをするから、思考が止まらなくて頭が痛い。


 ともあれ、僕はバスの乗り継ぎ場に来ると、病院に向かうべく行き先を確認して、バスに乗るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る