排除

 今日、午後3時に〇〇市の『コミンテルン銭湯』のサウナ室で、女性が中で倒れていると、通報が入りました。

 扉の前には、『掃除ロボット』が引っかかっており、中に駆けつけた職員が4人がかりで退けた、とのことです。


 女性は〇〇市に住む『後藤清美』さんと身元が判明しており、警察は何らかの機械トラブルと見て、捜査を進めております。


 *


 たまたま、テレビを点けたときの事だった。

 ご飯を食べようかな、とピザを電子レンジで温めていると、聞き覚えのある名前が聞こえた。


 テレビを確認すると、画面には写真が映し出されていた。

 隣に住む後藤さん、その人である。


「……は?」


 銭湯で倒れていた。

 無性に気になって、僕はシャッカルでニュースの事を探してみる。


 こういうのは公共のニュースだと、ぼかしが多すぎて、確認できない事が多い。


 SNSや提示版の方が、よほど情報が多い。

 まあ、嘘も多いのだけど。


「嘘だろ」


 担架で運ばれている様子が、SNSに上げられていた。


 顔はシーツで覆われて確認できないが、横から伸びた手に注目する。

 ダラリと担架から垂れた片腕。


 真っ赤に皮膚が変色していて、ただれていた。


「ん? え?」


 現実味がない出来事。

 頭の中は真っ白で、意味もなく右や左を見てしまう。


《サウナ室で発見したけど、マジでショック》

《3時間放置だろ?》

《絶対に死んでる》

《ちゃんと整備しろよ。クソが》


 他の人の情報を見て確認する限り、後藤さんは『サウナ室に3時間ほど閉じ込められ、蒸し焼き』になっていたとのこと。


 しかも、室内は『異常な熱さ』だったらしい。


 少しの間、放心状態だったが、シャッカルを起動してモリコを呼ぶ。


『な~に~?』

「モリコさ。後藤さんに何したの?」

『何もしてないよ』


 小首を傾げて、笑うモリコ。


 僕は今日一日、モリコと会話をして彼女の正体は知ることができた。

 色々と話をしていく内に、調べるようにも、考えるようにもなった。


 そして、わずかながら背筋が冷たくなるような、恐怖心が込み上げている。


 ハッキング、というものを甘く見ていた。


 そして、AIを甘く見ていた自分がいたことに、今更気づいてしまう。


 モリコは、たぶん嘘を吐いている。

 件の銭湯は、石に水を掛けるようなアナログタイプじゃない。


 これは憶測だけど、遠隔操作で水蒸気を出すタイプだったんじゃないか。これが外れていたとして、脱水状態のまま、掃除ロボットが扉を塞いで、3時間放置だ。


 文字通り、地獄のような苦しみを味わっただろう。


 憎い人ではあるし、後藤さんが死んだことについては、正直何とも思っていない。


 けど、僕が怖かったのは、何の躊躇いもなく殺したのではないか、という事実だ。


「こ、殺したりとかは、……ちょっと、さ」

『殺してないよ』

「でも……」

、……でしょ?』


 彩香さんと同じ顔で、僕を見つめてくるモリコ。

 目尻を持ち上げて、可愛い笑顔で笑うのだった。

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