加速
食パンを咥えながら、テレビの画面を見つめる。
*
台湾の市街地で、犬型ロボットが数十名の市民を殺害。
また、電波塔をドローンが攻撃した模様。
これらの攻撃は中国によるもので、「我々は負けない」と台湾大統領が声明を発表。
中国は「身に覚えがない」とし、「被害妄想は大概にした方がいい」と、失笑しております。
中国では、中国全土において不審な火災が『数百件』以上起きており、アメリカは『お門違いの報復』として、中国を
*
テレビを観ていると、インターホンが鳴った。
「なんだろう」
滅多に客人が来ないので、思わず警戒してしまう。
玄関に行き、磨りガラス越しに見えるシルエットを見た途端、警戒して正解だった。
扉を開けると、そこには不機嫌な顔の後藤さん。
「テレビうるさい! 音下げろ!」
大人とは思えない、ヒステリックな叫び声。
見ている方が恥ずかしくなるくらい、八つ当たりなのが丸わかりだった。
目の上や顔、手などを負傷しているようで、包帯や絆創膏が貼られている。
「はあ。そこまでうるさくないと思いますけど。まあ、下げますよ」
「まったく。アンタが隣にいると、ろくなことがない。さっさと引っ越せ!」
「あー、……とりあえず、下げるんで。はい」
扉を閉めると、今度は向こうから開いてくる。
「だいたいね。迷惑を掛けたら、ごめんなさいでしょ!」
本当に迷惑なオバサンだった。
どうしたら、こんな風に自分の都合しか考えず、生きていられるんだろう。
朝から、不快な気持ちでいっぱいになった僕は、自然とため息がこぼれる。
「聞いてるの!?」
目を剥いて、今にも掴みかかってきそうな勢いで、後藤さんが叫ぶ。
その目が、さらに大きく剥いて、「んぉ?」と、間抜けな声が上がる。
というか、僕も視線をずらし、耳を澄ませた。
「何の音?」
ゴトゴト、という物が揺れる音。
パチン、パチン、という破裂音。
音を辿ると、それは僕の家ではなく、すぐ近くから聞こえた。
「あの、ちょっと、行って。前、前に」
さりげなく、イラつきをぶつけるよう、手で押して音のする方へ目を向ける。
ふんわりと、何かが焦げる臭いがした。
「これ、後藤さんの家じゃないですか?」
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあ、見てきてくださいよ。なんか、……焦げ臭いですよ?」
僕がそう言うと、無言で自宅へ戻っていく。
どこか、ソワソワした様子で、小走りに戻った後藤さんは、一度玄関の前で止まり、ゆっくり扉を開けていた。
すると、扉の向こうからは、黒い煙が漏れてくる。
「う、わ」
火事か?
「なに!? 誰よ、アンタ!」
何、叫んでんだよ。
幻聴聞こえてんのかよ、あのおばさん。
急に自分の腕に向かって叫び出し、顔を真っ赤にしていた。
「つうか、これ、通報した方がいいよな」
まだ、透明度のある、薄い黒煙。
でも、焦げ臭いため、何か燃えていると思われる。
僕の家と違って、スプリンクラーがついてるはずだ。
旧い家屋以外は、義務付けられているし、ほとんどの家が火災時の鎮火用にスプリンクラーが設置されているのだ。
作動すると床がビチャビチャになるので、誤作動を防ぐためにスイッチを切ってるとか、クラスメートが話しているのを聞いた事がある。
もしも、切ってたら元も子もないが、何よりおかしいと感じたのは、『警報が鳴らない』ことである。
「あの、後藤さん! 何か燃えてるか確認した方がいいですよ!」
アンタの家が燃えたら、僕の家にまで火が移るだろうに。
自分の腕に向かって、「馬鹿」だの何だの言ってる場合じゃない。
仕方ないので、僕は靴棚の所にある、緊急用スイッチを押す。
【到着まで、お待ちください】
音声アナウンスを聞き流し、僕は玄関先で隣の家を見守った。
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