見ている物の背景に真実がある
寝ながら、僕はずっと兄さんの声を聞いていた。
相変わらず、どうやったのか分からないけど、『パクった』とだけ言って、『兄さんと所長の会話』がシャッカルから流れている。
《所長、もう一度聞きますよ。佐藤の研究成果、世に出してくださいよ。アンタの名前を使えば、論文に目を通すヤツはそれなりにいるでしょう》
所長と喧嘩した時の録音データみたいだ。
《若いねぇ。研究データは、全部ハーバード大学やオックスフォード大学に提供した方がいい。そっちの方がお金になるよ》
《また外国に遠慮してんスか?》
《古川君……》
《細胞の研究だってそうだ。ブルーライトだって。ドローンのエンジンだって。全部外国に奪われてるじゃねえか! 技術者が殺されてんのに、アンタ悔しくねえのかよ!》
机を叩く音が響く。
《君は何も分かっちゃいない! いいかね? 幻想を抱くのは自由だ。君が外国を憎んだって構わないよ。でもね。技術開発や研究はね、利益が第一なんだよ! 最近のキミはなんだい。AIだって? バカバカしい。プログラムが感情を持つわけがないだろう。ええ? 感情を作って何に使うんだ。そんなものより、量産できるロボットアームを作って、海外と共同で作った方がね。良い暮らしができるってもんだよ》
舌打ちをする音が聞こえた。
初めて聞く、兄さんの怒鳴り声。
普段聞いてる大声とは、全然違う。
必死で、訴えかけるような、聞いたことのない声の張りが、シャッカルから響いてくる。
《分かった。もういい》
《分かってくれたかね》
《個人的に、研究は続けるよ。それならいいだろ。金儲けも手伝うよ。金がなきゃ、何もできないしな》
怒りを含んだため息を吐き、兄さんは続けた。
《でも、これだけは言わせてくれ》
《……なんだね?》
《今、所長が言った事は、絶対に他の連中には言うな。一言も、だ》
わかった、と所長さんは言った。
《開発者はな、ロマンがあってこそ物を創れるんだ。夢も見れない。ロマンの欠片もない。そんな奴に、研究だろうが、開発だろうが、未来なんか創れるわけねえだろ》
何のために、必死になってるのか、僕には分からないでいた。
《科学者はな、夢を形にするために、研究してんだよ。利益は必要でも、金のためじゃない。科学者が、不可能と言ったらダメなんだよ。俺たちが当たり前に使ってる物だって、何年という月日が経って、ようやくポンコツが出来上がったんだ。現時点では無理だ、なら分かる。だけど、他の連中の夢を片っ端から踏みつぶすような言い分は、二度と言うな。……何のために研究してんだよ、アンタ》
それだけ言うと、足音が聞こえて、扉が閉まる。
舌打ちが聞こえ、兄さんのため息を最後に録音データが消えた。
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