桁違い

「本当に一人で大丈夫?」

「はい。片づけがありますから、鑑識終わったし、いいですよね」


 警察官の人が頷く。


「現場の保存は終わったから。良ければ、手伝うけど」

「大丈夫です。元々、汚かったですから」


 慣れない愛想笑いを浮かべて、赤べこのように首を前後にスライドさせる。


「そう。……じゃあ、何かあったら、いつでもベルを鳴らしてね。派出所に直接電話してもいいから」

「分かりました。ありがとうございます」


 警察官の人はそれだけ言うと、会釈をして立ち去っていく。

 外には先ほどまで、大勢の人とロボットがいた。


 空気中のDNAを採集したり、現場を一通り写真で撮ったり、4時間は掛かったかな。かなり、掛かった。


 というのも、普通の家はMR機能が搭載されているから、その機材のレンズが実は『カメラ機能』がついていて、『管理番号』を打ち込むと、撮影されていたホログラフィーを読み込むことができる。


 まあ、何か異常があったら、勝手に作動するようだけど、僕の家にはついていないから、実際はどういうものか分からない。


 しかし、これのおかげで、犯罪という犯罪は超現象している。

 必ず証拠が残るからだ。


 もっぱら、デジタル上での犯罪が主か。


 世間の主流とは違って、僕の家が旧いため、急遽人手を確保しなければいけなくなり、到着にも時間が掛った。


 残された僕は、疲れて玄関先に座り込む。


「どこ行ったんだよ。兄さん」


 深夜近くになっても、兄さんは帰ってこなかった。


 *


 翌日、僕は学校を休んだ。

 行きたくなんかない。


 昨日の夜は片付けで遅くなったし、気分が落ち込んで体が動かなかった。


 一階に下りてもテレビが壊れていて、何も見れない。

 パソコンがないから、PC用ゲームだってできない。


『おはよ』


 僕は抜け殻になっていた。


『もうお昼だよ』

「うん」

『起きなよ』

「……うん」


 こんな感じで生返事。

 すると、腕のリングからスクリーンとは別の物が出力される。


 仁王立ちする、ミニサイズのモリコである。

 相変わらず、どうやってこんな芸当をしているのか、はなはだ疑問だ。


『ほら。ご飯買いに行くよ』

「お金ないもん」

『あるから。……ほら』


 デジタルマネーを目視できるよう、隣に金額が書かれたバーを出力される。


 僕の記憶が正しければ、1300円しかなかった。

 まあ、ご飯くらいは買えるけど、その気力がないというのが本音。


 ところが、モリコが表示した金額は桁がおかしかった。


「1,10,100,……50万? はぁ!?」


 心臓が強く脈を打つ。


『これでパソコンは帰るし、ご飯も買える。さ、行くよ』

「これ、なに?」

『立ち上がれえええええっ!』


 大音量で叫ばれ、問いただすより僕は言われるがまま立ち上がる。

 昨日から色々なショックを受け続け、朝から気疲れした。

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