AIの成長
モリコの成長はとても早い。
AIのデータをセッティングして、五日。
画面の向こうには、適当に草原の画像データをぶっこんで、それを背景にモリコが画面がうろつくようにセットしていた。
ところが、画像はいつの間にか変わっており、見知らぬ女の子の部屋に変わっていた。
まるで、画面の向こう側に、別の空間があるようで不思議な感覚。
例えるのなら、『ライブチャット』を見ている感じだ。
自律型なので、自分で思考して、自分でセットしたのだろう。
モリコと会話する時は、腕のリングとパソコンを繋げて話すことにした。こっちの方が声の認識が通るようで、ドモったりしても、モリコは反応を示してくれた。
「モリコ。ただいま」
すると、画面の向こうでベッドから起き上がったモリコが、トテトテと歩いて近づいてくる。
『おかえり。翔太くん』
んー、人気声優の声なら、バリエーションが多い分、自然な会話ができる。この考えは正しかったと、しみじみと思う。
アイドル系の声をしていたり、ギャルの声を当てていたり、声域の広い人だったから、名前を呼ばれて僕はご満悦。
「部屋に変えたんだ」
『まあね。草原はないでしょ』
AIってすげえな。
画像をちゃんと草原って認識した上で、この返し。
プログラムとは思えない。
過去の演算処理を行うだけのAIとは違って、今の時代は超が付く進化を遂げているだけはあった。
『あとさ。服装も変えたんだ』
「あー……、うん」
モリコは、現実の彩香さんそっくりの外見。
瓜二つと言っていい。
金髪ロングで、インナーの片側は濃いピンク色。
長い前髪は横に分けていて、肌の色は白く、目は茶色。
見たまんま、彩香さんと同じ外見である。
体つきまで、そのままなので、僕からすれば分かっていても本人と話しているいみたいで、ドキドキしてしまう。
服の上からでも分かる大きな胸。
いわゆる、出る所は出ている体型である。
服装は『裸エプロン』に設定していたのだが、自律した思考を持つ彼女は、現実の女の子同様に、お気に召さなかったらしい。
現在の服装は、『黒を基調とした、斜めチャックのパーカー』に『赤と黒のチェック柄をしたミニスカ』を着ている。
スカートの下には、片側が赤で、もう片側が黒のストッキング。
パンク風のファッションだった。
『どう? 似合う?』
「うん。似合ってる」
『翔太くんさ。裸エプロンはないでしょ』
「……ごめんなさい」
だよなぁ、と僕はちょっと残念な気持ちになる。
『そういえば、動画で面白いの見つけたよ』
何もない空間を指先でくるくると操作し、モリコが笑う。
「動画?」
『うん。頭が弾け飛ぶやつ』
「ぐ、グロいのは、……ちょっと」
見たくはないよ。
『アメリカで、銃乱射事件があったでしょ。子供の頭が吹き飛ぶ映像がね。アップされてたの』
「う、うう、グロい」
『でも、フェイクだったよ?』
何で、そんな事が分かるんだろう。
なんてことを思いはしたが、どっちみち見たい映像ではない。
『映ってたのは、一人だけだったけど。別のカメラ映像確認したら、犯人は五人グループだったんだぁ。あは。これ、組織的だよね』
「そ、そんなことよりさ……」
憂鬱な話題を避けたくて、僕は他の話題を切り出した。
「面白い映画見つけたんだ。一緒に見ない?」
『恋愛ですか?』
なんで、分かったんだろう。
『スプラッターがいいなぁ』
口を尖らせ、上目遣いでおねだりをしてくる。
可愛らしい表情で言う事ではないだろう。
僕は全然観たくはなかったけど。
彩香さんと同じ顔でおねだりされると、無理をせざるを得なかった。
*
アメリカのジョージア州で大規模停電が起こりました。
予備電源が作動せず、各病院では人力での救助活動が続けられています。また、住民の方々は電気の使えない日々を送っています。
*
一階に下りると、兄さんがソファで横になっていた。
テレビでは物騒なニュースがやっており、僕がくると兄さんが顔をこっちに向ける。
「おぉ、翔太。モリコの調子はどうだ?」
「どうもこうも。……何でか、スプラッター趣味に目覚めちゃって、ちょっとだけ困ってる」
「ははは。成長早いだろ?」
早いなんてものじゃないよ。
「AIの成長を人間と同じで考えたらダメだぞ。数倍は生きてる時間が違うんだ。……まあ、実際は数倍どころじゃないけどな」
学習能力がとんでもなく高くて、パソコンは消しているはずだけど、いつの間にかモリコは入力していない事や教えていない物まで学んでいる。
まるで、赤の他人がパソコンに入ってるみたいで、奇妙な感覚だった。
「せいぜい、ネットサーフィンをしたり、道徳を教えてやれ」
「道徳、ね」
「お前。まだ、AIを人口プログラムと勘違いしてるだろ」
「勘違いも何も。プログラムじゃんか」
兄さんはため息を吐いた。
「お前まで時代錯誤のジジイと同じこと言うんじゃねえよ。肉体持ってるか、持ってないかの違いだけで、モリコは生きてんだぞ」
たまに、兄さんの言ってることは、ぶっ飛んでいて聞くに堪えない。
だって、学習と演算は分かるけど、AIが生きてるわけがないだろう。
教えた事以外に、AIは物を知らない。
僕はそう考えている。
「一週間も経たない内に、成果は上々だしな」
兄さんはテレビに映るアメリカの町並みを見つめ、鼻で嗤った。
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