モリコ

「AI?」


 家に戻ってきた兄さんが、手のひらに収まる小さなチップをくれる。

 僕の家には、他の家みたいに最新の機器パソコンはない。

 また、他の家だったら、『家庭用MR』を搭載している家ばかりだ。


 文字通り、家具を含めた家自体がネットワークに繋がってる。

 『IOT(Internet of Thingsインターネットオブシングスの略)』ってやつだ。


 だけど、兄さんが反対して、IOTは導入していないし、ARやMRを使っていない。


 あるのは旧式のパソコン。

 チップはUSBメモリと似た形をしていて、変換機を使えば読み込むことはできる。


「恋愛ゲームみたいなもんだ。お前、そういうの好きだろ」


 ゲームか。

 何てタイトルのゲームなんだろう。

 いや、AIだから、タイトルはないか。


「名前は?」

「モリコ」


 兄さんらしいネーミングセンスだった。


と話したけど、門前払いだ。つくづくアメリカの犬に成り下がってるよ」

「ふ~ん」

「ったくよぉ。やれ中国だ、アメリカだ。……俺たちのやることに、なんで外人が絡んでくるんだ。ちきしょう」


 兄さんが頭を掻き毟り、舌打ちをする。

 兄さんは工学専門の研究員だ。

 ロボット開発やAI開発を掛け持ちで研究していて、何だかよくわからないものを作っている。


 僕の場合は、せいぜい現代技術を趣味に使うくらいなもの。

 だから、まあ、ARかMRを搭載してくれたら、アダルト系に手を出そうと考えていたが、夢は叶わなかった。


「チッ。……日本に優秀なハッカーいねえだろうが。だから、俺は……」


 ぶつくさと独り言を口にして、僕と目が合う。

 すると、疲れたようにため息を吐く。


「まあ、なんだ。せいぜい、育ててやってくれよ」

「う、うん」


 兄さんは、ソファで横になると、また疲れたようにため息を吐いた。


「AI……か……」


 恋愛ゲームみたいなもの、ってことは女の子なのかな。

 兄さんには悪いけど、浮き浮きとした気分で二階の自室に上がっていった。


 *


 パソコンを起動してから、変換機にチップを差し込む。

 わくわくしながら待つこと、数分。


 突如、画面が真っ暗になった。


『こんにちわ』


 機械音声で、挨拶をされる。

 AIってことだから、マイクで直接話しても大丈夫かな。


 マイクに口を近づけ、「ど、ども」と、返事を返す。


『あなたの名前を教えてください』

古川翔太ふるかわしょうた

『私の名前を教えてください』


 兄さんが言っていた名前をそのまま口にする。


「モリコ」


 すると、パソコンは読み込みを始め、何も返答がなくなった。

 ガガガ、と不安になる読み込み音を立てて、僕は画面を見つめてしばらくの間待った。


 5分が経過した頃だったか。


『入力を受理しました。受理しました』


 んん?

 何か引っかかるけど、まあいいか。


『はじめまして。ご主人様。私の詳細データを決めて頂けますでしょうか』


 機械音声は相変わらずだけど、どこか意思の宿った口調になるAI。

 画面には、ゲームのメイク画面のように、モリコの詳細を決める項目がズラリと並ぶ。


 多すぎるなんてものじゃない。


 これがゲームなら、一日、二日はキャラ作りに時間を奪われる。


「データ添付するところがあるな。てことは、写真とか、音声とか。現実にあるもの、そっくりそのままコピペできるってことか。うし」


 僕だって、男。

 理想の女の子を作るためなら、時間なんていくらでも掛けてやろうと思った。


 AIの外見をどうしようか迷った。

 可愛い子がいいに決まってる。

 可愛い子は、世の中沢山いたりするが、『これ』といった子に決まらなかった。


 なので、しばらく悩んだ後、真っ先に頭へ思い浮かんだ『彩香さん』にすることにした。


 写真はどうするか。

 当てがあった。


 写真はSNSから拾えば、そのままコピペできる。

 以前、彩香さんが友達と話してる時、後ろからID名を盗み見たことがあるのだ。


 我ながら気持ち悪いが、好きなのだ。


 音声だってSNSに行けば拾えるが、パターンが少ないために、恐らく声が途切れ途切れになったり、音声を加工した感じが出てくると思われるので、『人気声優』の声を動画サイトで拾ってくることにした。


 服装はネットの写真を使い、AIに読み込ませる。

 言語は初めから日本語が設定されているので、変更なし。


 僕のキャラメイクもとい、AIメイクは夜通し行われる事となった。

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