かぐや姫の恋愛事情
kitajin
第1話 親友の香夜
プロローグ
昔々、竹取の翁というものがありけり。
ある日、竹取の翁がいつものように竹やぶに入ると、そこに一本の輝く竹を見つけました。翁がその竹を切ってみると、その竹の中には玉のような女の赤子がいました。
翁はその赤子を家に持って帰り、竹から生まれた娘をかぐやと名付けました。
かぐやはすくすくと大きくなり、年頃になるとそれはたいそう美しい娘と成長しました。
かぐやの評判は村にとどまらず、遠く都まで広がり、一目かぐやを見ようと大勢の男達が集まりました。
そして、その美しさを見た者は、誰もが求婚せずにいられませんでした。だが、それに対して、かぐやは言いました。
「私に見合う男は、頭が良くてお金持ちで容姿が良い男、まずこれが大前提」
その一言で、ほとんどの男が姿を消し、残った男たちはかぐやはさらに続けます。
「明日の日暮れまでに、大和で一番と言われる最高のご馳走を用意して」
残った男たちは考えうる最高の料理を使用人に作らせ、かぐやの前に持ってきました。
かぐやはそれを一口づつ口をつけ、自分に合う料理を持って来させたものだけを残らせました。そして、さらに無理難題を突きつけるです。
「今から富士の山頂にある雪を持ってきて」
季節は初夏、しかも、かぐやのいる場所から富士の頂までは、二十里は離れています。男たちは無理を承知でもかぐや欲しさに馬を走らせて、富士に向かったのでした。
その頃、都ではかぐやの噂が広まり、時の帝の耳までその噂が届きました。
帝はそれほどの女子なら見てみたいと興味を持ちました。かぐやは都から使わされた牛車に乗って、都に向かうことになりました。
そして、帝に接見したかぐやは、たちまち気に入られて、側室の一人に加えられることになりました。
だが、それを快く思わない者たちがいました。
帝の側室達です。
彼女たちは、刺客を放ち、かぐやの暗殺を目論んだのです。
だが、その暗殺は成功しませんでした。暗殺を嗅ぎつけた者たちがかぐやを寸でのところで逃がしたのです。
満月の明かりを頼りに、刺客たちはかぐやを追いました。ところがその夜以来、かぐやの姿は文字通り消えてしまったのです。
後に、この話を物語として後世に語り継がれたのが竹取物語である。
かぐや姫はどこへ消えたのか?竹取の翁はその後どうなったのか?
それは満月が赤く輝く妖しげな夜。
近所の竹やぶのそばを鮎川美咲が通りかかった時であった。竹やぶの中から突如、目のくらむような閃光が放たれて、美咲は驚愕し、その場で腰を抜かした。
そして竹やぶから放たれた閃光の中に人影が現れるのを見たのであった。成す術なく、身動きも取れずに人影が、自分に迫ってくるの見つめるだけの美咲。
人影は徐々に輪郭が現れ、それが女性であり、着物姿であることを知った。
口をあんぐり開けて、「あわわわっ」と言っているだけの美咲に、その着物姿の女性がそっと人差し指を口につけて、静かにするように示しながら、美咲の額に当てた。
「どうやらずいぶん時間の開きが出たようですね」
着物姿の女性に手を当てられると、なんだか眠くなってきた美咲。
目を閉じ、夢見るように過去の出来事が順々に頭を巡っている。そして、どこからともなく頭の中に響き渡る声がした。
「これでこの時代の様子が大体分かりました。……よし、いっちょやったるかぁ」
目が覚め、気づいた時には道端で美咲は横になっていた。
恐怖と理解不能な出来事に、ただその場から逃れるように去っていく美咲であった。
1
大学で初めてできた友人、香夜舞かぐやまいはおかしい。
まずその美貌がおかしい。入学してたった1ヶ月で、学内の殆どの男子学生を虜にしてしまったようだ。
さらにその中の目ぼしい何人か、何十人かは知らないが肉体関係があるそうだ。
そういう尻軽には悪しき噂が流れるものだが、悪く言うものは全て女で、どんなにかぐやが酷い女だろうが、男どもはその美貌の虜になる。
そしてついてあだ名が、『かぐや姫』だ。
私のような保守的で、昔気質の考えをする者がなぜかぐやと友達なのか、これもおかしいと思う一つである。
だけどかぐやは、私のことを何でも知っているし、何より私が分かってくれている。そこが他の女たちに嫌われているものの、かぐやを無視できない要因の一つなのである。
おかげで私は大学の中で一番浮いた存在になった。
何しろ全女子に嫌われたかぐやと友人ということで、女達から嫌われ、男達からはかぐやの引き立て役としてしか見られていない。
それでも私は別に構わない。法律の勉強して、弁護士になるという目的のために大学に来ているのだから。
「美咲、あなた大丈夫?」
突然、後ろからかぐやの声がした。
周りを見渡せば、食堂内の男子が一斉にこっちも熱い視線を投げかけていた。
「海外ドラマを観て弁護士になりたいなんて、あんたって本当におめでたいわよね」
「私は……」
男子の熱い視線が自分に向けられていないということが分かっていても緊張する。
「私には、彼のような自分が決めたことを曲げない信念が必要なのよ」
かぐやは「フフッ」と鼻で笑い、
「自分の信念を貫きながら生きるには、あなただと、あと最低10年は必要ね」
と言って私の隣に座った。そして、かぐやの隣には長身のイケメンが座る。
彼が誰なのか聞かないし、聞きたくもない。
「ねえ、美咲?実は頼みたいことがあるの……」
「いやよ」
聞かなくても分かる、どうせロクなことではない。
ここ一か月で、何度、同じこと言われたことか。かぐやが話しかけるのは、殆どが頼みごとなのだ。
「今度の学園祭あるじゃない?ミスコンに出ようと思ってんだけど、推薦者がいないのよ。お願い、推薦者になってくれない?」
そんな私の意向を無視して、かぐやは一方的に話し始めた。
「推薦者なら隣にいるじゃない」
私はイケメンを見て言った。
「女じゃなきゃダメなの。同性に支持されているというところがグランプリのポイントになるのよ」
「グランプリ取るつもりなんだ?」
「当たり前でしょ。出るからにはグランプリを取りに行くに決まってるでしょ。あなたバカ?」
直球でいわれて言葉が出ない。しかし、そんなことはお構いなしにかぐやが変な笑いをした。
「グランプリを取ったら、あなたにもいいことあるかもよ。それじゃあ頼んだわね」
そう言ってかぐやは立ち上がり行こうとする。
「ちょっと推薦者ってどうすればいいの?」
私は思わず訊いた。
「学園祭の実行委員にいって、ミスコン出場用紙に推薦者と出場者の名前を書いて出すだけよ。お願いね」
手を振って食堂を出て行く。すると、つられるように男子生徒も出ていって、食堂はガラガラになった。
「面倒くさ」
私は思わず呟いた。
「あっ、そうだ。もし、忘れたりしたら、あんたが小学校の時、好きな男子生徒のリコーダーと自分のリコーダーの頭をすり替えたことバラすわよ」
いつのまにか背後にいたかぐやが耳元で囁く。
「ちょっと、そんなことしてないって」
驚いた私に、かぐやはいたずらっ子のような笑みを浮かべて今度こそ、本当に食堂を出ていった。
「なんで知ってるのよ?」
静かになった食堂に一人、ポツンと残る私は思わず呟いた。
私は渋々かぐやの言うとおりに、ミスコンの出場用紙を出しに行く。
私立秋葉大学は、東京のはずれの山の中に立っている。
かつて陸軍の演習場だったところを買い取り、大学の施設を建てたのだが今から40年前である。私は秋葉大学の西棟にある法律学部の籍を置く鮎川美咲18歳だ。
自分の思ったことを口にせずに、損な役回りばかりしてきたこの18年間。しかし、大学に入り、かぐやと知り合ったことにより、少しずつ何かが変わろうとしていることを感じていた。
それは否定できない。
それがどんな方向へ向かっているのかは分からないのだが……。
「ちょっと鮎川さん?」
学園祭の実行委員のある教室へ行く途中、弁護士の井上特別講師に呼び止められた。
「こないだレポート、君だけ出してないよ。提出は今日までだけど、大丈夫かな?」
「あっ、そうでした。すいません、家に忘れてきちゃいました。すぐに取りに行きますので」
昨夜、徹夜して、机の上に置き忘れて大学へ来てしまった。まったく、どうかしている。
「レポートは提出したら単位が取れるんだから、よろしくね」
「分かりました」
私は急いで家に取りに帰ることにした。
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